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「パーパス経営、SDGs、メタバース」、バズワードとUXの困難な現状-アフターデジタルは何故受け入れられたのか
「何なの、この情報量の渋滞したタイトルは。」
そう思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
はじめに申し上げておくと、これはいわゆる「釣りタイトル」なので、タイトルの鍵括弧を付けた部分は「そういうバズワード」という意味であり、あまり本編とは関係ありません。どうしてもパーパス経営やSDGsについての記事を読みたいのであれば、読み進めない方が良いかもしれません。
ですが、なぜこんな言葉を使ったのかを含めて真剣に書いているので、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
今回は、市場にカテゴリーを作ることと、ワーディングの関係性についてです。
このタイトルは何なのか
2021年から開始したこのニュースレター”AFTER DIGITAL Inspiration Letter”も、もうすぐ20本。出版社に勤める友人から、「これ、もう本にできるよ」と言われました。
とても有難いことに、メールの開封率が30%を切ることがなく、高い時には40%を超えています。配信数も1万を超えるので、こんなにたくさんの方に読み続けてもらえていること、本当に感謝しています。
当たり前ですが、開封率はタイトルによって左右されます。過去、特に開封率の初速が良かったタイトルはこの辺り。
- Vol.9 「イカゲーム」ってカイジと何が違うの?~ゲーム・エンタメから学ぶUXその2
- Vol.10 ディズニー・マーベルに見る「ハイコンテキスト」~ゲーム・エンタメから学ぶUXその3
- Vol.16 シニアのデジタル浸透 -中国、北欧、インドから
- Vol.18 メタバースをオートで生きる世界は来るのか
分かりやすく、キャッチーな流行り言葉や、読者が気にしやすいトピックが入っているわけですね。
単純に読まれること、PVを稼ぐことを考えればこれで良いのですが、本当に伝えたいことを書くならあまりバズワード的な言葉で濁らせたくないわけですから、コンテンツを作る身としては困ったものです。
初速で開封率30%を超えなかったのは以下。
- Vol.6 「競合に競り勝つ」という思考が、時代遅れになる日
- Vol.7 UX社会のバッドエンドとハッピーエンド~アメリカの過ちから学ぶ
- Vol.8 仮説の外にある発見とエスノグラフィ
成績が良くない理由はいろいろあれど、端的には「目を止めるアンカー(船の『いかり』)がないから」が大きいように感じます。
実際には、イカゲーム記事が開封率トップなので、それをきっかけに読んでくださった方が興味を持ち、開封率のベースラインが上がったのだろう、と考えられます。とはいえ、これらの記事は自分の興味のど真ん中を書いた記事たちで、それらが開封率を下げると悲しくもなります。その悲しさゆえ、Vol.9以降でタイトルをキャッチーにしはじめてもいます。
先日自分のチームで、「PV稼ぎたいなら、『メタバース、パーパス経営、イカゲームの無関係性について』とかにしたらいいんじゃない?」と冗談で言っていたのですが、今回のタイトルはある意味それを本当にやってみた、というものです。開封率は、また次回あたりでお伝えしますね。
『アフターデジタル』というタイトルに巡らせた思考
その意味では、『アフターデジタル - オフラインのない時代に生き残る』というタイトルには頭をひねらせられました。いま改めて探してみたら、主に出版社からいただいたタイトル案として、こんなものが出てきました。
- 栄えるデジタル 滅びるデジタル
- アフターデジタル ー危うい!日本企業の進む道
- アフターデジタル企業への進化
あくまで案出し時点のものなのですが、なかなか味がありますよね。危うい!
最終案は、営業や講演で話した時、ウェブ記事で書いた時に良い反応が得られたワーディングをベースにして私が考えつつ、尾原さんや副社長の中島にアドバイスをもらいながら一緒に決定したのですが、いくつか気を付けたことがあります。
- 適度な危機感を持たせるが、煽りすぎないこと
- 「どういうこと?」という疑問を芽生えさせること
- 中国の事例が中心に書かれているからといって、中国をタイトルの前面に出さないこと
- UXについて書いているからといって、UXをタイトルの前面に出さないこと
「煽りすぎない」については、デジタルでさえよく分からない社会状況なのに「アフター」まで付けてしまっているので、どう考えても置いていく気がし過ぎるだろう、と考えたことから、「生き残る」というポジティブな言葉を置いています。
「どういうこと?」は、主に「オフラインのない時代」という言葉に込めています。「アフターデジタル」だけだったとしたら、バズワードにマウンティングをかける薄っぺらさを感じられてしまうのではないかと思い、正しい深み、気になる印象を持たせるために、「オフラインのない時代に生き残る」としています。
「中国」という言葉を前面に押し出すと、書店で「中国コーナー」に置かれてしまうことが、まず大きな懸念としてありました。加えて、多くの人が中国の状況を理解しないまま「パクリの国」のように認識しており、「中国に見るデジタル化社会の未来」みたいな言い方をしたとしても「中国のデジタルがすごいって、そんなわけないじゃん」と思われ、全く信じてもらえない状況でした。
本当に偏見が目を曇らすよな、と思う一方、どうやってその色眼鏡をくぐりぬけるかを考えた結果、「表紙からは一切の中国色をなくし、開けたらいろいろな先進事例が書かれているが、80%は中国事例」という形を取ることにしました。今では、ビジネス界においては中国をデジタル先進国として認識する世の中になったと思いますし、これに対して貢献ができていたのなら嬉しい限りだなと思っています。
改めて書いてみると、相手の置かれている状況を把握し、それに対して、期待を抱かせ、体験で応えるという、ちゃんとしたUXアプローチになっていますね。えらいえらい。
UXというカテゴリーワードの難しさ
4つ目に書いた「UXについて書いているからといって、UXをタイトルの前面に出さないこと」は、実は未だに悩まされている問題です。
中国というワーディングとは少し異なる性質として、UXという言葉を使うとどうしてもUXに興味のある人しか手を取らなくなります。一見当たり前のように見えますが、これはついついみんなやってしまう、とても難しい問題です。
「UXが大事なんだ!」という想いをのせて、タイトルにUXを付けると、UXを大事だと思っている人しか手に取りません。
しかし、「UX」という言葉を書かないと、相手の心になかなか残りません。
『アフターデジタル』は「これからのビジネスではUXが大事」が伝えたくて書いたものでしたが、中国のインパクトが強すぎて伝わっていない傾向にありました。しかし幸いなことに1冊目で生まれた注目があったため、2冊目で「アフターデジタル2 UXと自由」と大々的に強調したタイトルを付けることができました。
こちらも6万冊を超えており、「UX」がタイトルに入っている本としてはなかなか異例なのではないかと思いますが、1冊目の権威を借りた2冊目としてようやくできたこと。いきなりこのタイトルにして出来ることではないわけです。
ターゲットとする状況に合わせる形で、バズワードやタイトルで目を引き、内容の面白さで読ませ切り、その過程で「それがUXなのか」と思わせ、ようやくちょっと入り口に立つ。それでも実際には誤解したり、適当な解釈をしていたりするので、正しく知識や考え方を身につけてもらう。どうしてもショートカットしたくなり、一発でインパクトを出そうとしてしまうのですが、「認識していないことを認識してもらう」ためにはこうしたジャーニーの設計が不可欠だなと、常日頃から思います。
UXについてやばいと思っていること
デジタルが浸透した今の世の中、どの角度から見ても、UXの重要性が高まっているというのは、いつも言っていることです。あらゆるビジネスやサービスに取り入れられるべき考え方だと思っています。
それでもUXの重要性がなかなか伝わらないのは、UXの「内側」と「外側」の問題があるからではないかと。
UXの内側とは、すでにUXを重要だと思っている人たちのことで、ここでは「村化と哲学化」が起きているように見えます。30年も歴史があるUXという分野は、自分を含め、どうしても難しい言葉を使いがちで、「UX自体のUXが悪い問題」と言われることがあるくらい、閉鎖的(村化)かつ難解(哲学化)になっているように感じます。
実際UXは、デザイン、エンジニアリングから哲学、さらに文化人類学的な手法まで、さまざまな分野が学際的に融合した考え方です。勉強してもし尽くせないほど、様々なアプローチや手法があります。しかしその分、「その考え方は違う」となって争いやすかったり、簡単な言葉で表現しきれなかったりして、外から見ての障壁が高い一方、アウトプットがふわっとしています。
プログラミングであれば、明確にアウトプットの重要性が分かるのですが、UXは概念的な資料になってしまうことがあり、結局のところ、ぱっと見で理解できるアウトプットであるデザインやユーザインターフェースを指して、これがUI/UXだよね、という形に落ち着いてしまうわけです。UIとUXはレイヤーが違う話なのに。
次にUXの外側についてです。外側とは、まだUXを重要だと思っていない人たちのことで、ここには「一部の専門家がやるものだと思っていること」と「モノづくり感覚から抜け出せないこと」という壁が存在しています。
UXは総力戦です。あらゆる顧客接点で体験が生まれていて、それが繋がりあってUXになっています。にもかかわらず、「デザインのこと、デジタルのことであり、UXの専門家に任せればよいのだ」と思ってしまっている。
私が事務局長をやっているUXインテリジェンス協会ではいつも、「この協会はUXの専門家のためではなく、あらゆる企業活動にUXアプローチを導入し、社会をUXドリブンにするためのものです」と言っているのですが、なかなかそういう考え方にはなりません。これは、UXの内側の問題と密接に関わり合っています。
もう一つの「モノづくり感覚から抜け出せないこと」は、『UXグロースモデル』を打ち出さなければいけないと感じた根本原因かもしれません。多くの企業はいま、モノを売るだけではなく、サービス化したり、LTVを重視したりしなければ、と考えている傾向にあり、それはまさにアフターデジタルで伝えたかったことなのですが、考え方がどうしてもモノづくり的なのです。
分かりやすい例で言えば、「サービスをローンチするまでがゴールになってしまっていて、サービスをグロースすることに全くリソースを割かない、投資しない、というメーカー企業」などがこれに当たります。結果、大して使われていないが畳んでもいないサービスが、死屍累々と存在している。
ドキッとした方、多いかもしれませんが、正直なところ現状はそんな企業ばかりです。
よく考えれば、LINEでもメルカリでも、InstagramでもGoogleでも、5年や10年、そのサービスのグロースをひたすらやっていると言っても過言ではないわけです。重要なのは「作って出してよろしく使ってもらうこと」ではなく、「市場に合わせてUXを成長させていくこと」なのですが、メーカー的思考に落ちると、どうしても作った後は売るだけで、次に売れるものを作り始める、となってしまうんですよね。
結果、「製品開発のときに、体験のプランニングなんか昔からやっているよ」と思われてしまいます。使い続けてもらい、体験を改善し続けるという、グロースのためのUXに目が行かなくなるわけです。
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