ハイブランドのDX施策で陥りがちな状況
まずハイブランドのDXで陥りがちな状況についてお話しします。ハイブランドのデジタル施策の方針として、常にブランドサイトやECサイトを最新の機能にアップデートすることに注力する傾向があります。このような施策は、「最先端を走るブランドとしての印象を与える」という観点からすると、一見ユーザにとって魅力的に映るはずだと思うかもしれません。
しかし、この方針に基づくDX推進は、UXの観点からすると、有効とは言えません。ユーザにとっては、サイトに来た目的がすぐに達成されることや、ブランドの世界観を楽しむことが重要です。そのため、ブランドのウェブサイトにどのような機能があるかは、注目の対象ではありません。むしろ、よくわからない機能が増えることは、ユーザの混乱を招くことに繋がりかねないのです。
施策の効果が出ないという課題意識は、他にもあります。
- ECサイトの施策が、思うように売り上げに繋がらない
- ブランドサイトのコンテンツがユーザに認知・利用されていない
- 日々SNSなどで発信する情報が、ユーザとの関係構築に繋がらない
このような取り組みは、もちろんユーザのことを思い、成果創出に向けて推進していることと思います。しかし、「本当にユーザが望んでいることは何か」を誤解していることで思うような成果に繋がらないのです。
ユーザ目線を正しく捉えられていない施策を打ち続けることは、ユーザにも喜ばれにくく、ブランド側の業務も成果に繋がらないという、悪循環を生んでいます。まず、ユーザがどのような状況にあり、何を期待しているのか、について正しく理解をする。そこから、どのような体験を提供するべきなのかという観点で施策を検討する。このプロセスを踏まないことには悪循環は解消されません。
ユーザがブランドに期待する体験とは
ブランドが打ち出すライフスタイルへの共感
ユーザがファッションブランドに対して期待するものは何か。お洒落な服やバッグといった、商品自体への期待はもちろんあります。しかし、その背景には、ブランドが提案するライフスタイルへの憧れや共感があるのではないでしょうか。
ブランドが提案するライフスタイルは、ブランド独自のストーリーや世界観に基づいています。ブランド品を購入することは、生活の中にブランドの世界観を内包することを意味するのです。ユーザにとって好きなブランドで生活が彩られることは喜びであり、ブランドとの関わりにおいて期待することなのです。
ファッションブランドとライフスタイルという考え方は、本質的にとても相性が良いものです。これまでもブランドはファッションと合わせて、ライフスタイルの提案を行ってきています。デザイナーはファッションをデザインする段階で、どんな人が着るのか、どのような生活をしている人に着て欲しいかという想定があるはずです。
また、ブランドが扱うプロダクトにもライフスタイルへの関与が見て取れます。服やバッグから始まり、メイクや香水、さらには家具といった、より広い生活領域をデザインの対象としています。つまり、「ブランドと共にある暮らし」というイメージは常に打ち出されているのです。
デジタルがブランドと共にある暮らしを支える
「ブランドと共にある暮らし」という流れは、今後、デジタル領域においても例外ではなくなります。スマートフォンの普及以降、デジタルは私たちの生活により深く浸透してきています。現在のデジタルチャネルは、ブランドの最新情報の発信やECサイトとしての活用に留まっています。しかし、今後よりデジタルが生活に深く浸透していく中で、デジタルチャネルを通してユーザとの接点が増えていくことは自然な流れと言えるでしょう。
ユーザにとっても好きなブランドと接点を持つことは、日々の生活における小さな楽しみになります。そのような小さな接点が、生活に自然な形で溶け込んでいることが、デジタル時代における「ブランドと共にある暮らし」と言えるのではないでしょうか。
ブランドがデジタルを通して生活に浸透していくには、ユーザとの日常的な接点を持つ必要があります。そのためには、ユーザが好まない煩わしさを排除し、「何度もサイトに訪問したい」「ブランドからの情報が楽しみで待ち遠しい」という状態を作っていく必要があります。
このようなユーザの期待に応える体験を提供するブランドが、今後より身近に感じられ優先的に選ばれていくと考えられます。かつてブランドがライフスタイル提案の一環として行った、香水やメイクなどのデザイン領域の拡大が、デジタルを対象とする次のフェーズに来ているのです。
Amazonからの撤退を決断したNIKEから見るブランドストーリー重視の方針
ECサイトはブランドとの接点をユーザに提供するという点で、有効です。店舗にわざわざ行かなくても、商品の情報が得られ、そのまま購入することも出来る。この「気軽さ」「手軽さ」が、ECサイトのメリットです。
ECサイトで顧客接点を持つには、自社のECサイトを運営する以外に、Amazonなどのモール型のECプラットフォームに出品するという方法があります。この方法には、それらのモールが抱える膨大なユーザにアプローチできるという点でメリットがあります。また、検索システムやレコメンド機能、配達のインフラなどモール側に具備された機能を活用できるため、ユーザにフリクションレス※な体験を提供することが出来ます。
※「フリクション」(Friction)とは「摩擦」や「軋轢」の意味で、フリクションレスとは売り上げ増大の機会損失につながるような端末操作の手間や、サービス利用時のストレスがない状態をさします。
数多くのブランドがプラットフォームの恩恵を受けるためにAmazonに出店しています。スポーツブランドのNIKEもその中の一つでした。しかし、NIKEは2019年にAmazonでの販売を終了するという声明を発表しました。NIKEは「消費者とより直接的で緊密な関係を築いていくためにAmazonでの販売終了を決定した」とコメントしています。この発言の趣旨をUXの観点から考えてみたいと思います。
先に述べた通り、Amazonでの購入体験はフリクションレスでスムーズに商品を選択・購入することが出来ます。しかし、このような、フリクションレスにふりきった体験では、UXにおいて非常に重要な要素が抜け落ちてしまうのです。それは、ユーザが「ブランドストーリーの豊かさを体感する」ということです。
AmazonではどんなにNIKEのブランド価値が高く、素晴らしい商品を販売していても、他の数ある商品と同等にフラットな扱いを受けます。そのため、NIKEが購入体験を通してユーザに感じ取ってもらいたいブランドの世界観やストーリーは伝わりません。
フリクションレス重視で、ブランドのストーリーが伝わらない購入体験が何度も再生産されることは、長期的に見てNIKEのブランド力を低下させることに繋がります。それを危惧したNIKEはAmazonからの撤退を決断したのではないでしょうか。自社のECサイトに注力することで、本来伝えたい世界観やストーリーの共感を生む購入体験を提供することが、ブランドにとって重要であるということに気付いたのです。
Amazon的フリクションレスな購入体験から、ブランドの世界観が伝わる豊かな購入体験への注力にシフトする動きは、NIKEだけでなく、世界観やストーリーが重要なファッションブランドにとっても見逃せません。
さらにこれからは、よりデジタルが生活に浸透した世界が迫る中で、ブランドにはどのように世界観を体現したデジタル体験を提供していくべきかという目線が求められます。そこには購入体験だけではなく、ブランドが提案するライフスタイルに寄り添った一連のデジタル体験があるべきなのです。
ブランドのDX推進でお困りの際は
ビービットでは、ブランドのストーリーに沿ったコンセプトワークに関して、改善・推進をご支援いたします。
また、現状のECサイトやブランドHPのユーザビリティ改善についても、ご相談ください。
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