坂本:下地さんは今までたくさんのクライアント企業とプロジェクトを実施してきたと思いますが、ビービットのエクスペリエンスデザイン事業部にご相談いただくお客様のプロジェクトでユーザ行動観察調査を行わないプロジェクトはありますか?
下地:実際のユーザを観察するプロセスは、基本的にどのプロジェクトでも強くお勧めしています。届けるべきユーザがいるサービス・企画・商品であるなら、全てのプロジェクトでユーザ行動観察調査が必要になると考えています。
坂本:プロジェクトによって何回調査を行うか異なると思いますが、調査の回数はどのように決めているのでしょうか?
下地:プロジェクトあたりの調査回数はプロジェクトのカバーする範囲によって異なります。プロジェクト期間や予算によって変わることもありますが、概ね以下の4つのうちどこまでをプロジェクトで扱うかで決まります。
- 捉えるべき顧客課題の特定
- サービス・アプリのコンセプト検証
- 初期利用における体験の検証
- 継続利用及び主要画面のUI検証
調査回数は基本的に1〜3回で、最大4回までになることがありますが、通常は事前に決めてからプロジェクト設計を行います。
坂本:1回の調査期間で何人にインタビューするのでしょうか?
下地:おおよそ6〜12人で、予算等の制約条件と検証したいことの重さによって変えています。特に第1回の調査ではユーザごとに得られる結果のブレが大きいためインタビュー人数を多めに設定することが多く、第2回、第3回と回を重ねるにつれ調査内容がシャープになっていくので人数自体は少なくなっていきます。
坂本:第1回調査と2回目以降では、目的にどのような違いがあるのですか?
下地:プロジェクトによって異なりますので、だいたいはこういう風に進めるという言い方になりますが、
第1回調査は「狙うべきところが大ずれしていないか」を見極めるために行います。
1日のインタビュー数は4人程度と多く実施し、いい反応も悪い反応もあわせてファクトを集めるフェーズです。
坂本:第1回調査ではどのようなプロトタイプを用意しているのですか?
下地:第1回調査は、そもそもユーザがどのような困りごとを抱えているかを見極めることが目的で、フェーズとしてはコンセプトを立てる前の段階ですので、いわゆるプロトタイプを用意しないこともあります。そのかわり、例えば幾つかのコンセプトを表現したチラシのようなものを見せてインタビューを行うなどの工夫をしています。第1回調査期間の中でも、インタビュー参加者からの反応が良かったものをさらに分化させて、そういったチラシの数を増やしていきます。
このとき前提となる考え方として、ユーザの意見、つまり改善提案や「もしこうだったら」という仮定の話は聞かない、というものがあります。意見を聞くのではなく、さきほどのチラシのような刺激を与えたことによって生じる反応や行動を観察し、「見てどう思ったか、何を感じたか、なぜその行動をとったのか」という事実に関する質問をしていきます。
坂本:意見を聞かないということが重要なのですね。
下地:使用環境と離れた状況にいるユーザの意見は実際の行動と異なるのが常ですから、絶対にインタビュー参加者の意見は聞きません(笑)。
※ 参考
例えばある食器メーカーが行ったグループインタビューでは、「次に買うとしたらどんな食器が欲しいか」というテーマでディスカッションを行った結果、「おしゃれでかっこいい四角い黒いお皿」という結論になったにも関わらず、その後インタビュー協力のお礼として参加者が持ち帰ったのは丸くて白いお皿だったという。
坂本:第2回以降の調査でいわゆるワイヤーフレームのようなプロトタイプを作成するのですね。
下地:はい。第2回調査はコンセプトの検証になるので、コンセプトが体現された主要画面をいくつかの方向性で作って、インタビュー参加者に見てもらいます。これも、調査を進めながら分化してどんどん変化していきます。
第1回が「方向性を探る」フェーズだとしたら第2回は「よりよくしていく」フェーズだと考えていて、そのため多くの人の反応を見ては変えてを繰り返す1回目に比べて、1日あたりの調査人数を絞り、その日1人目の調査で得られた結果を2人目の調査までにプロトタイプに反映し、インタビューを行うというようにじっくりと進めます。
坂本:プロトタイプのアップデートはUXコンサルタントが行うのですか?
下地:ケースバイケースです。プロトタイピングツールとしてadobe XDを使うようになってから作業効率が上がったこともあって、UXコンサルタントが一人でプロトタイプをアップデートするというやり方でも十分間に合うようになりました。
案件によってはUIデザイナーに入ってもらってプロトタイプの作成とアップデートをお願いすることもあります。UIデザイナーに入ってもらう場合は、コンサルタントが調査ルームでインタビューしているのを別室でクライアントやビービットのマネージャと一緒にモニタリングしながらその場でアップデートしていくこともあります。
坂本:第2回調査でコンセプトの検証を行ったあと、3回目以降はどのような目的で調査を行うのですか?
下地:第3回以降は体験の検証を行います。
もう少し言葉を足すと、「サービスの利用を定着させるための体験の検証」です。
坂本:具体的にはどのようなプロトタイプを用意し、どのような質問をするのでしょうか?
下地:プロトタイプは一連の行動が体験できる画面を作ります。第2回調査の時が1〜2画面だとすると、第3回目調査は3〜5画面ほどになります。
例えばアプリの検証だとすると、アプリの初期設定をして、サービスを利用して、ホームに戻ってきて、という体験の流れを追えるようにします。
具体的な質問例としては、
- 使ってみていかがでしたか?それはなぜですか?
- どんなことを思いましたか?それはなぜですか?
- このページのこのエリアをよく見ていましたが、それはなぜですか?
- この機能を主に使っていましたが、それはなぜですか?
といった内容になります。
第4回目調査がある場合は、引き続き体験の検証を行ったり、UIの検証に入ることが多いです。
坂本:全ての調査が終わった後はどのようなことをするのでしょうか?
下地:調査結果を解釈し、コンセプトから体験までをもう一度ゼロベースで設計し直します。最終的にアウトプットするものはプロジェクトによって異なりますが、アップデートをかけたプロトタイプ画面を納品物に含める場合もあります。
坂本:下地さんはプロジェクトにおいてユーザ行動観察調査はどのような位置付けのものだと考えていますか?
下地:私はユーザ行動観察調査のことを、仮説を検証するためのリサーチではなく、仮説を高スピードでアップデートするために欠かせない手段と捉えています。
単に調査結果をレポートするということをコンサルティングプロジェクトの目的とすることはありません。ユーザの行動観察から、ユーザの置かれた状況を解釈し、理想的な体験を構想し、再度プロトタイプに落とし、それをまたユーザに体験してもらう、というプロセスを何度も繰り返して導き出すべき答えに近づいていくという認識です。
坂本:ビービットのプロジェクトで行われるユーザ行動観察調査は
- 何回目の調査で何を目的に行うのかを明確にする(調査設計)
- ユーザの意見は聞かない・行動を見る
- ユーザ行動観察調査は仮説を高速でアップデートするための手段
という特徴がある、という事ですね。
下地:はい。ユーザ調査そのものを目的として行う会社もありますが、ファクトを解釈し、どうすればいいか方向性を出し、具現化までやる、その上で更に調査にぶつけて、ファクトを得て・・ビービットはその繰り返しができるプレーヤだから、クライアント企業から声をかけていただけている、という風に考えています。
坂本:下地さん、ありがとうございました。