「行動データ」の活用がデジタルマーケティングの成否を分ける
「顧客の属性情報を集めただけの会員データには価値がない。顧客の普段の行動、購買習慣のデータが加わってはじめて価値が生まれる。」
現在世界で最もデジタル化が進んでいると言われる中国では、巨大IT企業からスタートアップまで揃ってこの言葉を口にします。そして、これらの企業では行動データというファクトを基に現状のUX(User eXperience/ 顧客体験)の問題をつきとめ、改善施策を企画して成果を出す、という形でデジタルマーケティングが行われています。
今までのデジタルマーケティングとの最大の違いは、属性データよりも行動データに重きを置いている点です。モバイルデバイスの爆発的普及、IoT、センシング技術の発達により、企業は顧客の行動をいつでも、どこでもトラッキングできるようになりました。
今までは「男性、40代、既婚、子供あり」のような属性しか手に入らなかったため、どんな人が使っているかはある程度推測できるものの、自社の顧客接点がどのように利用され、どこに問題があるのかを特定するのは実は極めて難しいことでした。
しかし、行動データを手に入れることができるようになりこの状況が一変しました。顧客が何をどのような順番で見たのか、同じ行動を取っている顧客はどの程度いるのか、事前に想定していた行動を施策により生み出すことができたか、などを全てファクトに基づいて判断することができるためです。
行動データを活用して着実に改善を積み重ねる企業と、行動データを活用できておらずマーケターの勘に未だに頼っている企業では、最終的なUXの品質およびビジネス成果に、決して小さくない差が出てしまいます。
また、行動データによりUXがよくなる⇔UXが良いとさらに行動データが集まるというループがまわるため、その差はどんどん広がっていきます。それを分かっているからこそ、中国ではどこの企業においても、行動データを基にしたデジタルマーケティングの重要性が叫ばれているのです。
日本におけるデータサイエンスの現状
日本でも、データマーケティングというスローガンのもと、行動データをデジタルマーケティングに活かそうとする取り組みが増えてきました。ただし、現場レベルで上手く業務に活かせているケースは極めて少なく、データサイエンティストがいる一部の会社においてようやく活用できているというケースがほとんどです。
そうなってしまう主な理由は、行動データは全ての顧客の、全ての行動が対象となるため、扱うデータ量が膨大になってしまうことにあります。例えば、毎日1万人が1日2回利用するサービスであれば、1万人✕1日2回✕30日分で、のべ60万回分の行動データが発生することになります。これを目視で全て確認することは当然不可能です。
しかし、このデータを全て利用するために、数値としてまとめて集計しただけでは、多くの現場スタッフは利用しなくなります。そもそも数字への抵抗がある、様々な行動の特徴が平均化されやすく構造が把握しづらい、数字だけから背景の因果の読み解きを行うのは難しい、といったようなことが理由です。
その結果、数字に強く、仮説に応じて集計データを自由に出力できる、数字から背景情報を読み解き顧客の行動をイメージできる、などのさまざまな条件を兼ね備えた一部の優秀なデータサイエンティストしか、行動データを活用する形で成果を出すことに成功できていません。
データマーケティングが上手くいかない原因
私たちは、このようなことが起きている原因はITシステム投資の考え方にあると考えています。データマーケティングを構築する流れの中で、ITインフラ投資として顧客DB(例:DMP、CDP等)、集計・レポーティングツール(例:BIツール等)への投資は積極的に進んでいます。この投資により、顧客行動のデータを集約し、集計されたデータを可視化することが可能になりました。また、施策実行ツール(例:MAツール・Web接客等)への投資も進む中で、行動データを元にスピーディーに施策を実行していくためのインフラが整いつつあります。
しかし、一方で組織として一部のデータサイエンティストだけでなく、一般のスタッフも企画を考える必要があることは忘れられがちです。
行動データを集計しただけで筋の良い改善施策を打てるのは、現実的には一部のデータサイエンティストに限られており、これらのITインフラだけではデータサイエンティスト以外のスタッフは結局データを活用できず、勘や他社事例を元に闇雲に施策を打つ状況になってしまいます。普通の社員でも行動データを元に分析/企画ができるようにするための分析/企画支援ツールが、ITインフラの1レイヤーとして必要なのです。
「モーメント分析」による「状況洞察」でUX改善を実現
それでは、分析/企画ツールとしてどのようなものを用意すれば良いのでしょうか。ビービットではUXの最小単位である「モーメント」を個別に分析できるツールであることが重要だと考えています(ここではモーメントを「人々が何かをしたいと思う瞬間、およびその瞬間における行動」という意味で利用しています)。UX改善とはモーメントに潜むペインポイントを抽出し、取り除くことに他ならないからです。多くの人に共通したモーメントを掴むことができれば、大きな成果を上げることができます。
ここでなぜ「モーメント」という新しい言葉を使ったかというと、私たちは「顧客/個票」という単位は分析単位としてまだ粗いと考えているからです。
世の中では、集計データだけでは、一部のデータサイエンティスト以外を除いて、行動の背景を読み解きUX改善に活かすことが難しいことに気が付き、顧客の一連の行動を「個票」という方でまとめて「どのような顧客か」を分析しようという動きがあります。しかし、ビービットの経験上、これでは改善を上手くまわすのが難しいと考えています。
なぜかというとビービットでは、顧客の属性でも性格でもなく、置かれた「状況」こそがモーメントの性質を決めると考えているからです。例えば、企業のQ&Aサイトにアクセスするというモーメントが発生するのは、30代の女性だから問い合わせを行う訳でも、神経質だからでもなく「商品を使おうと思って操作方法を知りたい思ったが、説明書に情報が不足していた」といった「状況」がそのモーメントを引き起こしていると捉えています。そのため、同じ顧客でも状況が異なればまったく違うモーメントが発生し、違う顧客でも置かれた状況が同じであれば、類似したモーメントが発生すると考えています。
このように考えると、人もモーメントの集積であり、モーメントがUXの最小単位であり、「どのような顧客か(属性/性格など)」を考えるよりも「どのような状況に置かれているか」を洞察する方が正しいと考えられます。すなわち、UX企画をするにあたって、行動データをモーメント単位で分析することでUX上の問題点を発見し、顧客の状況を捉えた改善施策を打つことが重要であることが分かります。
ビービットが提供する「モーメント分析クラウド USERGRAM(ユーザグラム)」とは
これまでに述べたような前提を踏まえて、ビービットはあらゆる行動データをモーメント単位で出力/分析可能にする「モーメント分析クラウド USERGRAM(ユーザグラム)」を開発しました。従来の「顧客/個票」という考え方を更に発展させ、モーメントに焦点をあてることで、より簡単に本質的な改善ができるようにしています。
また、モーメント上の行動の緩急を自動でハイライトする機能も実装することで、誰でも簡単にモーメントにおける問題点を発見できるようにしています。今後はAIを搭載し、更に簡単に問題点を発見できるようにしていく予定です。また、発見したモーメントのボリューム(どれくらいの頻度でそのモーメントが発生しているのか)を算出できる機能も実装しているので、そのモーメントの改善インパクトも簡単に推定可能です。
これまで説明してきた機能により、普通の人でも行動データを基にしたUX改善が可能になっています。
実際某EC企業では、USERGRAMを導入したある事業部において、数十人の従業員が毎日計100回以上データを確認しながら、分析/企画作業をまわすようになりました。その中には今までデジタルマーケティングを行ったことがないスタッフも含まれています。あるタイミングで誰かが分析するのでなく、「みんなが、日々ログインして、モーメント分析をしている」状態が作られたのです。その結果、USERGRAMを使っている事業部とそうでない事業部の間で、目標達成率に大きく差がつき、最終的には全社でUSERGRAMを使ったBPRが走ることになりました。
おわりに
この記事では、デジタルマーケティングにおいて行動データを活用することが重要になってきていること、またUSERGRAMを活用したモーメント分析により、専門性を持たないスタッフも含めた組織全体としてデータマーケティングを実現し、大きな成果創出が可能になることをご説明しました。
行動データを活用したデジタルマーケティングを行っていきたい方々は、ぜひモーメント分析にチャレンジしていただきたいと思います。もし自社でこのようなモーメント分析ができるツールを用意することが難しい場合は、USERGRAMの導入も併せてご検討いただければ幸いです。