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呪術廻戦から見る、D2C、二次創作、オンラインサロン、宗教のファンマーケティング考察
前回のVol.19、タイトルのワーディングによってニュースレターの開封率がどう変わっているのかを書きましたが、文面の中で『アフターデジタル』のボツタイトルという肝心のところが手違いで抜けてしまっており、修正版のニュースレターを再配信することになりました。大変失礼しました。
で、2回送る形になった結果、開封率がばらけてしまいまして。(笑)
それでも1通目が初動の開封率40.30%で、過去最高値でした。2通送ってご迷惑をおかけしているので何も威張れることではないのですが、きちんと宣言通りに成果が出せてよかったです。ちなみに2通目は39.31%で、こちらも高く、ありがたい限りでございます。
ファンカルチャーのデザイン
黒鳥社、若林恵さんの事務所に先日遊びに行かせていただきまして、垂涎モノのレコード、CD、書籍が壁一面に並ぶ、黒鳥福祉センターにお邪魔しました。Battlesのドラム、ジョン・スタイナーのいたメタルバンド、HELMETのCDを見つけてテンションが上がり、流していただきながらテンションを、、、
マニアックな話はおいておいて、その日はメタバースとファンカルチャーの関係性など、色々な議論をさせていただいたのですが、ご本人がQuartzで書かれているニュースレターにも出てくる『ファンカルチャーのデザイン 彼女らはいかに学び、創り、「推す」のか』という本をお勧めいただきました。
https://www.amazon.co.jp/dp/4320094689
簡単に言うと、腐女子、コスプレイヤーなど、ファンカルチャーの中にいる人々の行動を観察し、認知科学、文化人類学の観点から見直すことで、「無用の用」(=世間の役に立たないとされているものが、別の意味で非常に大切な役割を果たすこと)を見出す学術書、といった内容です。
論文と観察録を少しライトに書いたような書籍なので、一部難解に感じるところがあるかもしれませんが、ちょうど若林さんが朗読しているPodcastがあるので、まずはそちらを聞いてみると肌感がつかめると思います。
https://podcasts.apple.com/jp/podcast/blkswn-radio/id1502262436?i=1000543995721
読んでいて考えたのは、ファンカルチャーの中で動いているような仕組みを、再現性を持ってデザインすることなど、本当にできるのだろうか、ということでした。例としてまとめると、ざっくりこんなことが書かれています。
- こうしたコミュニティにおいて、そのメンバーになることや、一人前の姿というのは、固定化したものではない。メンバーも流動的であり、新たな知識や技術の中心が存在するわけでもない。
- 「中心」や「なるべき姿」が流動的で定まらない中、互いに関わり合いながらアイデンティティを変容させながら創り出していく。例えば「オタクやってるのを学校で隠しているときのあるある」がある時、それをオタク仲間に話してみんなで共感し、盛り上がったことによって「そういうことだよね!」というオタクアイデンティティが形成され、これに共感できるかどうかが一時的なアイデンティティになったりする。
私自身は、世の中に存在しているUXを紐解き、方法論化したり、再現可能にするためのツボを見つけたりする活動をしていて、書籍やこのニュースレターもそういったものです。その目線でこの事例を見ると、「互いのコミュニケーションの中で自然発生した共感が、コミュニティのアイデンティティになる」となると、もはや出来ることは「コミュニケーションが発生することを円滑にすること」くらいだろうと思います。一方で、そういう場があるかないかは重要になりますし、Discordが様々なコミュニティで利用されているのも、そうしたコミュニケーションをブーストさせるためのツールとして非常に有用だからなのでしょう。
昨年9月に出版した『アフターデジタルセッションズ』で、MaaSという言葉を生み出した父であるサンポ・ヒエタネン氏が、「企業は人々の行動をコントロールしようとすることをやめなければいけない時代になってきている」と発言していましたが、まさにそういう話だなと。
様々なコミュニティモデル
この書籍を読みながら、つらつらとメモした手書きのノートを公開してみたいと思います。ところどころ書き間違えがあって塗りつぶしていますが、ご容赦ください。
左の二つは中心があるモデルです。
左端、「階層と評価体系が明確なモデル」はルールが決められており、会員サービスなどでよく見られます。「理想形と階層」が掲げられるのであれば、企業や宗教もこれに当たるでしょう。コアに近づいていくほど数が限られ、競争が激化するモデルとも言えます。
真ん中は「本家がアンバサダーを任命して模範(と場合によって拡散効果)を作るモデル」です。最近よく見られるものの多くはこのモデルなのではないかと思います。D2Cブランドがファンミーティングを開いたり、NewsPicksがプロピッカ―を作ったりするのが該当します。評価体系が曖昧であることが多く、外側で活動している人が意識的に努力してアンバサダーになれるわけではなく、本家に見つけてもらわなければいけません。
お金を払って内側に飛び込む構造として、オンラインサロンはその形式が多いと思いますが、さらにその中で準スタッフのような立場になるためには、本家に認めてもらう必要があります。
これが究極形になり、対象人口が増えたり、求心力が一時的なものでなくなると、おそらくメジャーな宗教のような形になり、人だけでなく、協会のような場所や、神棚のようなもの(依り代)にアンバサダーの肩代わりをさせられるようになるのではないでしょうか。
右のファンカルチャーモデルは、左2つとは大きな隔絶があるように思います。
そもそも「本家」に近づくことは出来ず、かけ離れた太陽のような存在なので、ある意味三次元的になります。太陽から降り注ぐさまざまな栄養分、つまりコンテンツを受け取りながら、それを植物を育てるために使う人もいれば、日光浴する人もいれば、発電エネルギーを作る人もいます。基本的には自分が「その方法で太陽を使いたい」と思ってやっているので、ルールを決められたり、無理やり誰かと一緒にくくられたりするのは嫌で、逆に気が合ったりやり方が同じだったりする人達とは、一緒になって行動します。
週刊少年ジャンプ(または特定の漫画)から落ちてきたコンテンツを、コスプレに使ったり、二次創作に使ったり、二次創作の中でも自作のストーリーで漫画にする人もいれば、動画を編集して面白い作品にする人もいます。一人でやりながら他の人とコミュニケーションする人もあれば、グループ化したりコミュニティ化したりする場合もあり、それらが緩くつながって、時にくっつき、時に離れたりしています。
呪術廻戦と鬼滅の刃の大きな違い
「この辺りの議論は、あらかた2000年代初頭に、『動物化するポストモダン』あたりで十分議論されたことなのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、少し異なる様相があると思うのでお付き合いください。
写真における左2つと右は全く異なるモデルなので、右のような構造を意識的に作ることなんて可能なのだろうか、と考えたときに、「ある程度楽しみ方の型は決まっている」ことに気づきます。基本的には「何かを作ること」に属していて、コスプレや同人誌など、カテゴリーもある程度決まっていたりします。ということは、この楽しみ方の型を創り出すことは可能なのかもしれません。K-POPがまさにそれを体現している事例として分かりやすく、過去のニュースレターでも触れたように、VLIVEやダンス練習動画をはじめ、様々な「応援の在り方」を示すだけでなく、行動可能にする支援をしている点が挙げられます。
この観点からしたときに、最近の日本のアニメでは呪術廻戦がうまくやっているのではと思っており、近年のジャンプを代表する『鬼滅の刃』と比べても、意識的にムーブメントを作れているように感じます。
分かりやすいのが、アニメシリーズ、シーズン1のエンディング。
https://www.youtube.com/watch?v=AWEm4tA2hMc
「メインキャラクターが踊る」というのは、プリキュアシリーズがずっとやってきたことですし、アニメ界では鉄板ネタで、もう少しメジャーな例では『逃げ恥』の恋ダンスが挙げられます。
が、呪術廻戦のエンディング映像で面白いのは「ダンスがかっこよくて難しい」ことと「大喜利的でボケやすい」こと。これによって、ファン層のすそ野が広がり、新しい「楽しみ方の型」を提示しているように見えます。「踊れる」こと自体に価値があるので、オタクカルチャーの中だけではなく、様々なダンサーが「実際に踊ってみた」動画をアップしていたり、動画職人の人たちにとっては「ボケやすい」「日常のメタファーを入れやすい」ことで、他のアニメキャラクターに挿げ替えた動画を作ったりしています。
結果、こんな動画が100万再生を超えています。(あまり食事中に見るようなものでもないので、自己責任でお願いいたします)
https://www.youtube.com/watch?v=KHsdQMTYiCs
ジャンプによる自作パロディに至っては400万再生を突破する始末。他にも色々なパターンがあるので、楽しんでみてください。
この点を考えると、ミームや二次創作のツボを丁寧に押さえ、これまでの型に留まらない、新しい型作りをすることで、ファン層や認知の拡大をうまく仕組み化してコンテンツを作っていることが見えてきます。
他にも、ポッドキャスト『じゅじゅとーく』で声優が毎週、裏話を公開して話すことで、週に一回しか公開されないアニメの間を埋めるようなコンテンツを作ってくれていたり、ややオタク好みでツッコみどころの多い『じゅじゅさんぽ』で話題を増やしたりと、時代の流れを押さえたコンテンツが非常に多く見られています。
同じジャンプのヒット作、鬼滅の刃はアニメの品質をとにかく高めた上で、ネットフリックス、アマゾンプライムなど、とにかく多様なメディアでアニメが見られるようにしたり、缶コーヒーなど多様なコラボレーションを展開するなど、コンテンツ提携をオープンにするというメジャー戦法を使っていました。
一方の呪術廻戦は、非メジャーというか、コンテンツのひっかかりを多く作ることで、一般のユーザがバイラルで広めてくれるようにする、全く異なる戦法を取っていることは、非常に面白く感じます。ファンの年齢分布がかなり異なることもありますが、ファンづくりという観点では、呪術廻戦方式の方が楽しみ甲斐があるのは間違いないでしょう。
映画が観たい
ファンカルチャーのコミュニティモデルは、再現性という観点で一定難しさがあるものの、「楽しみ方の型」を提起するようなコンテンツ、プラットフォームの提供によってデザインすることができるかもしれない、という話でした。
そんなことより早く呪術廻戦0を観に行きたいです。これも、エヴァンゲリオンの碇シンジ役、緒方恵美さんを主人公の声優にした配役が、もうツッコみ甲斐がありすぎて、「こういうところだよな」と思っている(し、やっぱり話題になっている)のですが、年始から上海に来てしまったので、しばらく見れないなあ。
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