Date : 2019

03

22Fri.

「次のエストニア」電子政府化の知られざる先端国家、アゼルバイジャンで起こる大変革

アフターデジタル

グローバルトレンド

引っ越し、結婚、出産に加え、免許更新、確定申告、企業設立など生活・仕事のさまざまな場面で必要になるのが、市・区役所など管轄機関への書類提出。毎回足を運び、長い列に並ばなくてはなりません。 いま世界各地では、こうしたお役所手続きの煩わしさを解消するために、行政サービスのデジタル化を進める動きが活溌化しています。デジタル化を進めることで、コストを下げるだけでなく、手続きスピードを大幅に上げることが可能になると考えられています。 マッキンゼーの推計では、もし世界中で行政サービスがデジタル化された場合、経済的な恩恵は1兆ドル(約111兆円)に上るといいます。 現在、行政サービスのデジタル化で先端を行くのはバルト三国の1つエストニア。すでに99%の行政サービスがデジタル化され、書類が必要なのは、結婚、離婚、不動産売却のみといわれています。そのほかの手続きはすべてオンラインで完結させることができ、各国のベンチマークとなっているようです。 エストニアにおける行政サービスのデジタル化を可能にしたのが、政府機関や医療機関のデータベースをセキュアに連携させる「X-Road」という技術。分散されたデータベースをつなげることで、国民がワンストップで利用できるプラットフォームの構築を可能にしました。 現在X-Roadはフィンランド、ウクライナ、モーリシャス、ナミビアなどエストニア国外でも導入され始めているようです。この海外導入の先陣を切ったのが、欧州と中東の間に位置するアゼルバイジャン。エストニア発の技術を導入しつつ、独自の取り組みも行っており、エストニアと同様に行政サービスのデジタル化においてパイオニア的な存在になっています。「次のエストニア」と言っても過言ではないかもしれません。 今回は、日本ではあまり馴染みがないアゼルバイジャンという国で、どのような行政サービスの変革、ライフスタイルの変容が起こっているのか、その最新動向に迫ってみたいと思います。

欧州と中東をつなぐアゼルバイジャンのデジタルシフト

アゼルバイジャンは、北はロシア、西はアルメニア、南はイランと国境を接し、東はカスピ海に面しています。国土は8万6600平方キロメートルと北海道ほどの広さで、人口は約1000万人。

アゼルバイジャンの首都バクー

冷戦下ではソビエト連邦構成国の1つでしたが、ソ連崩壊によって独立を果たしました。エストニアと同じような歴史を有しています。

独立後しばらくは混乱が続き経済は伸び悩みましたが、油田など豊富な天然資源に支えられ、2000年頃から経済は急速に伸びていきました。2011年には実質GDPが2003年比で3倍も増加しました。

この急速な経済成長によって生まれた余剰は、ITを含む科学技術分野に投じられることになります。これにともないITインフラの整備も進められました。

国際電気通信連合のまとめによると、アゼルバイジャンのインターネット普及率は78%で世界34位。モバイル普及率に至っては112%と100%を超えるまでに増加しました。2016年、ICTセクターに投じられた投資額は1億3900万ドル(約150億円)。情報通信サービスの売上高は11億ドル(約1210億円)に上ったといいます。

こうしたなか行政サービスのデジタル化プロジェクトも立ち上がり、アゼルバイジャンの各政府機関は2011年頃からウェブサイト上でEサービスの提供を開始しています。

当時はまだワンストップではなく、サービスごとに各政府機関のウェブサイトで手続きを行う必要がありましたが、2018年10月にワンストップに移行することを発表、エストニアと同じようにプラットフォーム上でさまざまな行政サービスを受けることが可能となります。

そのプラットフォームとなるのが「e-gov.az」。婚姻届、健康保険や水道・電気代の支払い、特定プロダクトの輸入許可、企業登録、銀行口座開設など、現時点で計425のEサービスを受けることができるようです。

アゼルバイジャンのEサービスプラットフォーム

メイド・イン・アゼルバイジャンのデジタル施策「Asan Imza」

このプラットフォームには、エストニア発の技術「X−Road」が活用されているようですが、アゼルバイジャン政府はすべてをエストニアに任せるのではなく独自のデジタル化に関する取り組みを進めています。
その1つが同国独自のモバイルID「Asan Imza」です。Asanは「簡単な」、Imzaは「署名」という意味。IDカードではなく、携帯電話そのものをIDにしてしまおうというもの。専用のSIMカード、バイオメトリクス、PINコードの3段階認証によって使いやすさとセキュリティを両立しています。プラットフォーム上のすべてのEサービスはAsan Imzaでアクセスすることが可能。カードリーダー、IDカード、Eトークン、専用ソフトウェアを使う必要がなく、コストを抑えながら、Eサービスの利用を促進できる可能性に期待が寄せられています。

「Asan Imza」ウェブサイト

またAsan Imzaはインターネットがない地域でも広く利用されることが想定されています。専用SIMカードの入った携帯電話でコールセンターに電話すると、PINコードの確認を経て本人確認がなされ、税務申告などができるというのです。パソコンとインターネットがなくても行政サービスを受けることのできる仕組みが構築されつつあります。

このAsan Imza、これまでに70万件以上が発行され、6000万を超えるEサービス手続きで利用されたといいます。個人による発行が49%、法人が47%、政府が4%。Asan Imzaの高い利便性により、税務申告は90%が、労働契約とB2B・B2G間の請求書発行は100%がオンラインになったといいます。Asan Imzaを活用すると、企業登録が5分で完了するとも謳われています。

さらにAsan Imzaは「m−Residency」プログラムのもと、アゼルバイジャン住民だけでなく、海外在住の起業家にも開放されました。このプログラムでは、海外に住んでいる起業家にAsan Imzaを発行、それにより起業家はアゼルバイジャンに企業を登記し、銀行口座を開設できるようになります。エストニアも同様のプログラムを実施しており、海外企業の誘致で成果をあげているようです。現時点で、このような海外在住者向けのレジデンシープログラムを実施しているのは、アゼルバイジャンとエストニアのみといわれており、その効果に注目が集まっています。
似たような過去を持つアゼルバイジャンとエストニア。行政サービスのデジタル化でも肩を並べ世界をリードする存在となっています。アゼルバイジャンでは、入国ビザ申請アプリやデジタル貿易ハブなど、ヒトやモノの越境を促進するための取り組みも進められており、エストニア以上に注目を浴びる存在になっていくかもしれません。

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