Date : 2019
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12Tue.
アフターデジタルとビービット(3) – 事例で読み解く「UX企画力を高めるシーケンス分析」
アフターデジタル
OMO
「小さな状況」とは?
アフターデジタル時代には「状況ターゲティング」が重要となり、その実現のために企業はターゲットとなる状況や提供する体験について考えなければいけない、というのが本シリーズでこれまでに説明してきたことです。
ターゲットそのものになるような「大きな状況」をどう捉え、全体の体験をどのようなコンセプトで提供するのかを考えるプロセスについては、前回、ビービットが提供するUXデザインコンサルティングのステップに沿って紹介しました。
しかし、大きな状況を捉えることが必要になるのは、新サービス立ち上げやサービスリニューアルのタイミング。実は日々の企業活動の中で大切なのは、いかに「ユーザの状況を捉えた体験を生み出し続けるか」ということだと言えます。
そこで注目したいのが、「小さな状況」です。
ビービットでは、サービスそのもので解決するような規模の状況=大きな状況と区別するために、サービスの利用体験の中で生じるような状況を「小さな状況」と呼んでいます。例えば、今まで知らなかった会社なので信頼できるかどうか確認したい、ログインしようとしたがパスワードを忘れた、他のサービスと比較したい、といったことが小さな状況にあたります。
小さな状況を捉えるための「シーケンス分析」
小さな状況を捉えることは、そこでの課題を解決し、より良い体験を生み出すための第一歩です。小さな状況を正しく捉える方法としてビービットが提唱しているのが、行動データに対する「シーケンス分析」です。
シーケンス分析は、個別のユーザや特定のグループの行動に対して、その行動の順番やかかった時間を考慮に入れ、ユーザの状況や文脈に注目する行動データ分析手法です。
シーケンス分析を実践すると、例えばウェブサイトであれば「このページを読むのに20分もかかるのは長すぎる」とか、「どうしてこんなに目立たないリンクをクリックしたんだろう」といった、ユーザの行動に対する疑問がわいてきます。ユーザは大抵、提供者にとって想定外の行動をとっているものだからです。
こうした疑問は、前後の行動や扱っている商品・サービスの特性などの情報を勘案することによって「きっと他のタブで他社製品のページを開いて見比べているのだろう」とか「こういう興味を持っている人に対して、この単語が誤解を与えてしまったのだろう」といった推測を生みます。
もちろん中には、ひと目見て「これはパスワードを忘れて困っているんだな」などと分かる場合もあります。こうした推測を繰り返すことで、ユーザが置かれてる「状況」についての理解が深まっていくのです。
シーケンス分析を実践している企業で何が起きているか?
これまでの行動データ分析は、Google Analyticsに代表されるような集計データを扱うのが一般的でした。集計データの分析はもちろん大切なのですが、そこでわかることはあくまで相関的なもの。実際にユーザがどのようにサービスを使っているのかが見えにくいため、課題はわかるものの具体的な施策につなげにくいという難点がありました。
一方ここまでの説明の通り、シーケンス分析でわかる「ユーザが置かれている状況」はとても具体的です。「このユーザは何をしたくて、その途中で何に困ったのか、それをどう解決したのか」といったことが手にとるようにわかるので、次に同じようなユーザが来たときにどうすれば困らずにすむか、解決の手立てを立てやすいことがシーケンス分析の特長です。
ここからは、実際にシーケンス分析を実践している株式会社cotree様の実例を見ていきましょう。
悩みの種類によってフィットするコンテンツは変わる
株式会社cotree様は、同名のオンラインカウンセリングのマッチングサービスなどを提供するスタートアップ企業です。
cotreeサービスサイトでは、いくつかの質問に答えてもらうことで相性の良いカウンセラーを見つけられる『マッチング診断』というコンテンツを用意していました。これまでの集計データ分析の結果から、マッチング診断を受けた人は会員登録率が高いことがわかっていたので、LPでもマッチング診断への誘導を強くしていたそうです。
しかしある時、メンバーの1人が『人間関係』や『恋愛』といった特定の悩みに関わるキーワードで流入してきたユーザは、マッチング診断を受けずに会員登録している人が多い、ということに気付きました。
そして、こうしたキーワードでサイトを訪れるユーザは、他のキーワードのユーザと比べて自分の悩みがはっきりしていて、少しでも早く解決したいと思っている、という状況なのではないかと推測したのです。
そこですぐにLPの構成を見直し、特定の悩みに関わるキーワードに対するLPでは『いますぐ相談できるカウンセラー』というコンテンツをページ上部に表示するという変更をしました。その結果、これらのLP経由の会員登録率はそれまでの2倍になったそうです。
有料登録に必要なのは「サービス内容を理解できること」
cotree様からはもう1つ、シーケンス分析によって成果の出た実例を教えていただきました。
あるとき社内で、「モヤモヤ診断」というコンテンツからの有料会員登録率が低いことが課題としてあがりました。このコンテンツは、SEO対策コンテンツであるコラムのページから誘導していたものです。
解決策を考えるため、担当の方は「モヤモヤ診断をした上で有料会員登録している人」の行動を追っていったそうです。実際にCVしている人の行動の中にヒントがあると考えたからです。
その中で気付いたのは、有料会員登録をしている人はサービス紹介ページなどでcotreeのサービスを理解するプロセスを挟んでいる、ということでした。それを踏まえてコラムのページから見直してみると、コラム→モヤモヤ診断→有料会員登録、と一直線の動線になってしまっていました。
検索からコラムにたどり着くユーザは、悩みはあるがまだカウンセリングという解決策に気持ちが定まっていない場合がほとんどです。さらに、オンラインカウンセリングというサービス形態の認知もそれほど高くないのが現状。そんな状況ですぐに有料会員登録と言われたら、ユーザが躊躇してサイトを去ってしまうのは無理もありません。
そこで、誘導リンクエリアの構成を変え、サービス内容と無料で利用できるサービスもあることが伝わるようにしたところ、コラム経由の有料会員登録率が2倍という結果につながったそうです。
入社1年未満でも成果につながるUX企画力が身につくUSERGRAM
ここでご紹介した2つの実例、驚くべきことに実はどちらもチームに合流して1年未満のインターン生が担当したものです。
サイト改修にあたってはもちろんプロダクトオーナーやCTOの協力もあったそうですが、課題の本質を見極め、解決の方向性を出したのは担当2人の力によるもの。プロダクトオーナーも「母数が小さいとはいっても、インターン生がこれだけの結果を出してくれるのはすごいことだし、正直、とても助かります。」と笑顔で語ってくれました。
cotree様がシーケンス分析に使っているのは、ビービットのクラウドサービス「USERGRAM(ユーザグラム)」です。USERGRAMでは、ウェブサイトやアプリ、さらにリアル店舗での購入やコールセンターとの通話などの行動データを、ユーザ単位で簡単に見ることができます。
cotree様だけでなく、多くの導入企業から寄せられるのが「USERGRAMはデータ分析の初心者でも使いやすい」というお声です。統計の知識も必要なければ、複雑な操作も不要です。数クリックで見たいユーザにたどり着き、行動データを見ることができるように作られています。また、シンプルなUIだからこそデータを見ることに集中しやすく、ユーザの状況に思いを馳せることに思考を割くことができます。
その結果、「何が課題でどう解決すればよいか」にたどり着くのが早く、また、これまでの集計データ分析では見えなかった行動の”因果”も見えやすいため、施策の精度も高まります。
さらに、USERGRAMを活用するためのトレーニングプログラムが用意されているので、何から手をつけていいかわからないのでは、という心配は無用です。
興味を持っていただけた方は、ぜひページ下部のリンクから詳細をチェックしてみてください。
さて、今回は「シーケンス分析とは何か」を解説し、シーケンス分析が成果につながるという実例を紹介してきました。次回は、シーケンス分析の実践を積み重ねることで状況ターゲティングを実現しつつある企業の取り組みを紹介する予定です。