6月の上海出張が取りやめになり、母から「ラー油買ってきてほしかったのに」と言われた田城です。いや、仕事だよ?
さて、以前この記事で「中国ではデジタルオーバーラッピングが起きている」と紹介しました。デジタルにリアルが包み込まれる世界と言われても中々イメージが難しいと思います。
今回は上海のスーパー「フーマー」の視察を通じて「こここ、これがデジタルオーバーラッピングか!」と私が興奮した事例をお伝えしようと思います。
ちなみに、フーマーは今、私が最も日本に上陸してほしいスーパー第1位です。(第2位はアメリカのWhole Foods)
まずはいつもの買い物を思い出してみよう
フーマーを説明する前に、まずは普段の買い物プロセスを思い出してみましょう。
冷蔵庫の中で足りないものや今日の献立から必要なものをメモ
↓
スーパーに行く
↓
必要なものをカゴに入れる(半分くらいメモと違うものが入っているのは何故なのか)
↓
レジで会計
↓
重たい荷物を持って帰宅
↓
買ってきたものを片付ける…
ざっと、こんな感じでしょうか?
毎日買い物をしている人からすると、面倒だな…、嫌だな…って感じるポイントがたくさんありませんか?
- そもそもメモするのが面倒!
- 開いている時間に合わせてスーパーに行くのが面倒!
- 欲しいものがどこにあるのかわからない!
- 会計が面倒!ポイントカードとか聞かないでほしい!
- 重たい荷物を運ぶのが面倒!
- 買ってきた荷物をしまうのが面倒!
…私、圧倒的に日常の家事に向いてない!もう嫌だ!
こういう怠惰な人間はネットスーパー使えばいいじゃないの、と思われるかもしれません。
こういうことですよね、わかります。
でも、怠惰な人間にはこれにも問題がありまして!
- メモの面倒さは解消されない!
- 受付時間が決まっていて、それを超えると届くのが明日!
- 生鮮食品とかちょっと不安!
- 配達時間に2時間も幅がある!
- 冷蔵庫に入れるのやっぱり面倒!
特に受付時間が決まっていることや配送時間の幅は結構厳しいです…。あと、地味に品質も気になる…。野菜やお魚は頼みづらいかも…。
じゃあ、上海のフーマーはどうなっているのか
先ほどからスーパーと書いていますが、フーマーは正しくはEC、ネットスーパーの部類に入ります。24時間注文OK、配達は8:00~21:00の間で、配達時間内に注文すれば、30分以内に届けてくれます。(時間指定もOK)
上海の街中に18、中国全体で約59、ECの倉庫があり、倉庫から3㎞圏内なら配達が可能なんだそうです。(2018年7月現在)
この倉庫ですが、会員店という名前になっていて、フーマーのユーザなら通常のスーパーのように直接行って買い物をすることも可能になっています。これ、どういうことかというと、「ECだと鮮度や品質が不安、というユーザが実際に倉庫に出向いて品質を確認できる」ということなんです。
つまり、こういうことです。
日本のネットスーパーと基本は同じですが、
- 24時間注文OK
- 時間指定OK、配達時間内なら30分以内に配達もしてくれる
- 品質が不安なら実際に出かけて行って倉庫(会員店)で買うことも可能
買い物を最大限楽しめるフーマーの店舗設計
フーマーの会員店はユーザが品質に安心して買い物ができるよう、かなりこだわって陳列されており、この結果、普通のスーパーと比べても、買い物を最大限楽しめる作りとなっています。
ガチの生け簀。北海道の港でしか見ないサイズのカニがたくさん生きてました…。産地も明記されていて、店舗に来たユーザが自分で網を持ってカニを取ることも可能。(実際に取っているおじさんがいて、活きが良かったので、まあまあ大変なことになってました…)
デリが併設されていて、生け簀で自分で取った海鮮を調理してもらってイートインスペースで食べることも可能。(普通に総菜も売っています)こうして品質をその場で確かめられる設計になっているのです。なお、フーマーのイートインはちょっとしたレストランとして認知されているようで、当日はたくさんのカップルや家族連れが食事をしていました。
山盛りのフルーツ。産地や収穫日が明記されていて安心して買うことができる。商品別陳列のほかに大体、その日の前日に収穫した、あるいは作られたものだけが並ぶ「星期○コーナー」というのもありました。このコーナーに行けば新鮮なものを買えるとあって、お客さんが集まっていました。
フーマーができたことで買い物のスタイルが変わった
ビービットの上海チームにフーマーの使い方を聞いたところ、こんな使い方をしているようです。
オフィスでちょっと打ち上げをするときにフーマーで寿司やワインを注文して届けてもらった。
→これは今の日本でもできそうですね。
会社帰りにタクシーの中でワインと生牡蠣を注文し、マンションに着くと同時に配達してもらい、彼女とプチパーティを開いた。
→トレンディドラマか。かっこよすぎか。生牡蠣を注文できるのは、会員店で生きている海鮮を見て、食べたことがあって信頼しているからこそですね。
重い荷物を持って帰るのが嫌だったので、店舗で商品を確認しながらその場でWeb注文して決済。本人は手ぶらで帰宅し、帰ると同時に配達が来た。
→これが一番うらやましかった。もう牛乳の入ったビニールで手が真っ赤になることはないんですね…。
フーマーはこれまでのスーパーやECと何が違うのか
今、フーマーが実現していることは、スーパーとECのいいとこどり、に尽きると思います。ただ、どのようにそのいいとこを組み合わせていったのか、がとても重要。
フーマーは、上の図でも示した通り、ECをベースにして、その上にリアルが組み合わされています。視察した結果、私はこれは「ユーザの心理や行動特性を理解し、利便性を徹底的に考えつくして設計したため」だととらえました。オンラインとオフラインを分けるのではなく、一体として捉え、ユーザの行動に寄り添った結果、このような形にならざるをえなかったのだと。
これはなぜかというと、デジタルのほうが物理的制約が少ない分、ユーザに寄り添った設計が可能だったからだと思います。過去の知見があるからといってオフラインのリアル店舗から設計してしまうのは、結構プロダクトアウト型思考なのかもしれません。
中国で無人コンビニを展開している京東の人は「O2Oという考え方はもう古くて、そういう分け方はしていないです。確かに無人コンビニに非常に力を入れていますが、無人コンビニは我々にとってはUIの一つに過ぎないです。モバイルやPCと何か違いますか?」
とまで言ったそうです。
そうだよね、リアル店舗はインターフェイスの一つでしかない、よね…。1ページのUIの話をするんじゃなく、ユーザの一連の行動に寄り添った設計を考えないとダメですもんね…。
色々、脳みそがシェイクされた視察となりました。
本日のまとめ:
デジタルオーバーラッピングの本質=徹底的にユーザ視点に立ってオンライン・オフラインひっくるめて最もユーザが動きやすいように設計してあげること
おまけ:
上記視察で解決されなかった「買い物メモがめんどいんじゃ」問題ですが、中国の京東や韓国のSamsungではハイテク冷蔵庫を発売していまして、センサーが「牛乳が残り200mlだよ」とか教えてくれて、その場でタブレットで発注ができるそうです。猛烈に欲しい…!あとは、Pepper君が届いた荷物を冷蔵庫にしまってくれたら…!