Date : 2018

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08Wed.

シリーズ「After Digitalな世界」第3回:人は、どう変わる?

アフターデジタル

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シリーズ「After Digitalな世界」第3回:人は、どう変わる?

デジタル化した世界=After Digitalな世界についてお伝えしているこのシリーズ。前回(第2回)は、日本よりデジタル化が進んでいる中国で起こっていることをもとに、After Digitalにおけるビジネスについて考えました。

第3回の今回は、引き続き中国の事例をもとに、After Digitalで人間はどう変わるかを考えてみたいと思います。

DiDiで働くドライバーさんの変化

人間はまわりにあるものを利用するのが得意な生き物です。自分の頭で考えるだけでは2桁×2桁のかけ算もおぼつかない(人が多い)けど、紙とペンがあればあっという間に答えを出せます。紙とペンが電卓になったらもっと早く答えが出るし、音声認識のシステムを使ったら、問題を言い終わった瞬間に答えが出ているかもしれません。そして人間は、そういう「便利になる」ことに適応し、慣れ、変化していく生き物でもあります。あなたももう、携帯電話のない生活には戻れないのでは?

じゃあ、今よりずっと便利になるだろうAfter Digitalの世界では、人間はどう変化するのか?前回お話したタクシー配車サービス「DiDi」で働くあるドライバーさんが、こんなことを話してくれました。

「DiDiは、働く時間を自分で決められるし、頑張ったらその分ユーザ評価や給料に反映されるから、とっても働きがいがあるんだ。安全に、時間どおりに目的地までお客さんを送り届けるためのいいサービスを心がければ、信用度(著者注:あとで説明します)が上がる。信用度が上がれば、車を買うローンも優遇されるし、お客さんにも僕がいいドライバーなんだってわかってもらえる。そうしたら、また頑張ろうって思えるんだよね。DiDiで働きはじめてから僕はいい人になったと思うよ。彼女にも、最近優しくなったねって言われたしね。」

彼が言っている「信用度」というのは、ジーマ信用(芝麻信用、セサミクレジット、ゴマ信用などとも呼ばれる)のことで、中国EC最大手のアリババグループが、それぞれのユーザの支払い能力をスコア化したもの。

支払能力といっても、単純にECサイトの支払いだけじゃなくて、公共料金や税金の納入状況や、信用度の高い人(簡単に言うとお金持ち)と友達かどうか、なんていう様々な評価が反映されています。日本ではちょっと信じられないけど、中国ではこれがけっこう受け入れられていて、一定以上のスコアを持っている人はローン優遇、家を借りる時の敷金が不要になる、なんていうメリットを享受できるようになっています。あ、これ、話し始めると長くなるので、詳しくはまた改めて書きますね。

で、さっきのドライバーさんの話。

ちょっと前までの中国のタクシーは、乗ろうと思ったらまわりの人を押しのけて、「俺はタクシーに乗りたいんだー!乗るぞー!乗せてくれー!」って全力でアピールして、ようやく停まってくれたタクシーも、あっさり他の人に横取りされるなんてことが日常茶飯事。ドライバー側も、少しでも売上を稼ごうとして、猛スピード、急発進、急ブレーキ、お客さんが地元の人じゃないと見るや遠回りして料金上乗せ。ご経験ある方も多いんじゃないでしょうか。

そんな状況が、ユーザとドライバーがお互いに評価をしあって、その評価が可視化されるシステムが入ったことで、「良い行いをした人は「良い」サービスや報酬を受けられるサイクルが回り始め、関わる人が「いい人」になる、というところまで変化しているんです。

環境の変化で、みんながいい人になる?

いい人になっているのは、DiDiのドライバーさんだけではありません。上海視察にいらしたあるお客様が、立ち寄ったカフェにけっこういいカメラを忘れてしまったときのこと。日本でも返ってこない可能性あり、まして中国では、正直あのカメラとはここでお別れだな、って思ってしまいませんか?ところが。カフェの店員さんと、なんと隣に座っていたお客さんまで、お店の外まで走って追いかけてきて「これ、あなたのだよね?(ニッコリ)」と届けてくれたんだそうです。

全ての中国人がいい人になっているとも、いい人になったのは全てデジタルのおかげだとも、断言することはできません。それでも、上海オフィスにいる日本人メンバーは「3、4年前とは全然違う」と言います。そして、この3、4年で起こった劇的な変化は「デジタル化」です。

最初は、ただ「そうすれば給料が上がる」とか「そうすれば優遇される」とか、短期的で利己的な考えから、行動が変わったのかもしれません。でも、そういうサイクルがまわりに増えれば、「良い」行動をすることに適応し、慣れ、変化する。そのきっかけになったのは、「デジタルによる評価と可視化という環境の変化だったのだと言えそうです。

それでも、やっぱり、ちょっと抵抗を感じてしまいませんか?「個人に対する評価の可視化」って…。

シリーズ最終回となる次回は、After Digitalは果たして幸せな世界なのか、について考えてみたいと思います。

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