Date : 2019
12
25Wed.
アフターデジタルとビービット(4) – 「状況ターゲティング」の戦略策定プロセスにとっての意味合い
アフターデジタル
OMO
アフターデジタル時代に必要とされる考え方と、ビービットが提供しているサービスの関わりについて解説している本シリーズ。今回はこれまでとは趣向を変えて、実際にビービットのエクスペリエンスデザインプロジェクトを担当している小城さんから、企業にとっての状況ターゲティングの意味合いを解説してもらいます。
これまでビービットでは「状況ターゲティング」を旗印として、UX企画を考える際に「ユーザの属性や価値観」ではなく、「ユーザが置かれている状況」を捉えることの重要性を発信してきました。
「30代男性がターゲットだから」や「ブランド志向ユーザがターゲットだから」などのように、ターゲットの属性や価値観を捉えて施策を考えていくのが、これまでの伝統的なマーケティングの考え方でした。しかし「この瞬間において、ユーザはこのような違和感を抱いている / 困っている」という状況を捉えて施策を考えていくべきだ、というのが状況ターゲティングの考え方になります。
このようなマーケティングにおける考え方の転換は、「Web上などにおける企画レイヤー」に留まらず、「事業戦略の策定レイヤー」にも実は大きな影響を与えています。そこで本記事では、「状況ターゲティング」の戦略策定プロセスにとっての意味合いについて書いていきます。
これまでの事業戦略策定プロセスの考え方
事業戦略の策定プロセスは「どのような提供価値のサービスにするか」を規定することから始まり、STPの枠組みで考えていく手法が一般的です。
すなわち、
- S:どのセグメンテーションにおける、
- T:どのような特徴を持つターゲットに対して、
- P:どのようなポジショニングのサービスを設計するのか
といった論点に沿って考えていくことになります。これらを検討することで「自社サービスが選択する提供価値」を抽象的なレベルで定めていくアプローチとなります。
そして、これまでの戦略策定理論では、このセグメントテーション / ターゲティングプロセスは「どの属性 / 価値観のユーザを狙うのか」の検討と同義であると捉えられてきました。
「1) 顧客を属性、価値観の違いによって細分化していき、2) 各セグメントごとの平均化された顧客像(どのような価値観、心理状態、ニーズを持っている人が多いのか)を描写していく」という流れとなります。
このような検討を踏まえた上で、「どのセグメントを狙うべきか?」や「どのようなポジションで自社サービスを設計するのか?」といった議論を重ねて、サービスの提供価値を定めていく…というのが、これまでの常識でした。
例えば「ビール事業における新たなプロダクト / サービス開発」というお題を例として、
属性志向でターゲット市場を捉えていこうとすると、下図のような検討を進めることになります。
「味重視 ⇔ 価格重視」と「若年層 ⇔ 中年層」で顧客を分類し、各セグメントにおける平均的な顧客ニーズ・不安などの心理状態を描写していく。そして、このような検討をもとに「どのセグメントを狙うか」や「どのような提供価値を選ぶか」を意思決定する…といった流れとなります。
実際には、顧客をセグメントする軸は上記以外にも「自社サービスへのロイヤル度の高低」や「お酒を飲む頻度の高低」など、様々な軸を考えることができます。
このため「様々なセグメント軸でユーザを細分化してみては、ターゲット像を捉えて、勝てるサービスコンセプトを考える」といった検討を、繰り返していくことになります。
状況ターゲティングに基づく事業戦略策定プロセスの考え方
状況ターゲティングは、前節で記載したような「顧客の属性や価値観による市場細分化 ~ セグメントごとの平均的な顧客像の描写」によって、サービスの提供価値を定めていくプロセスのアンチテーゼとなる考え方です。
「顧客の属性や価値観」ではなく、「顧客が置かれている状況」にフォーカスして自社のターゲット市場なり、サービスの提供価値なりを捉えていこうというアプローチとなります。
先ほどと同様に「ビール事業における新たなプロダクト / サービス開発」を例として、今度は状況志向でターゲット市場を捉えていこうとすると、下図のような検討を進めることになります。
上記のような形にて「ユーザが置かれている状況」によって市場を分類し、それぞれの状況を豊かにするために、どのような価値 / 便益を持つサービスが必要とされるのかを描写していく流れとなります。
例えば
- 「職場の部下と飲食店でお酒を飲む」シーンにおいては、「会計を持つ上司側に
”自分がケチだと思われたくない”というインセンティブが働くこと」や「乾杯時の
お作法を守りつつ、一体感を演出すること」が重視されるため、高級ビールが選ばれる傾向にある - 「自宅にて、やけ酒を飲んで全てを忘れたい」シーンにおいては、「クイックに酩酊状態へ移行できること」と「飲んだ後に空き容器が捨てやすいこと」などが重視されるため、アルコール度数の高い缶類の飲み物(チューハイなど)が選ばれる傾向にある
などといった形です。
このような検討を踏まえた上で、「自社のビジョンなり、調達できる機能・ケイパビリティを活かして、どのような状況をどんな風に豊かにするサービスにするのか?」といった議論を重ねて、自社サービスの提供価値を定めていく…というのが状況志向が提唱する検討プロセスです。
ここまで「属性志向型」と「状況志向型」のアプローチをそれぞれ解説していきましたが、どちらが新たなサービスの提供価値を考える上で優れた枠組みでしょうか?
状況ターゲティングの主張
状況志向の主張としては、「ヒトがサービスに求める便益は、属性や価値観の違いではなく、置かれている状況の違いによって左右されるのだから、状況にフォーカスしてターゲット市場を捉えていくべき」というものです。
先ほどのアルコール飲料の事例で言うならば、
- 「価格重視」の価値観を持つヒトであっても、部下との飲み会のシーンにおいてはプレミアムビールを注文するのではないか
- 「味重視」の価値観を持つヒトであっても、自宅でやけ酒を飲みたいシーンにおいては、アルコール度数の高い缶チューハイを購入するのではないか
ということになります。
同じ価値観を持つ人であっても状況ごとに求める価値は変わるのだから、「属性・価値観ではなく、状況にフォーカスして市場を定義し、自社サービスの提供価値を定めた方が効率的ではないか?」というのが状況志向型の主張です。
「属性 / 状況 / 提供価値」の関係性を図式化したのが以下です。
「置かれている状況」と「サービスの提供価値」の間には、上図のような因果関係が存在します。「このような状況に置かれているから、こういう価値が必要になる」という因果です。
一方で、「属性・価値観」と「置かれている状況」の間には、相関関係しか存在しません。確かに40代男性には「飲食店での飲み会で、プロジェクトメンバーの部下と仲良くならないといけないシーン」が高い確率で発生すると言えるかもしれないですが、そういったシーンは20代にも30代にも発生します。
このような概念構造になっていることを踏まえると、いかに顧客属性や価値観を捉えたとしても、そこから導かれる因果をたどって新サービスの提供価値を考えることは難しく、状況を捉えた方が圧倒的に効率が良いことが示唆されるのではないでしょうか?
「状況ターゲティング」のためには、定性調査の実施が不可欠
新たなデジタルサービスや新しいデジタルアプリを開発したり、既存チャネルを抜本的に改善するときなどは、自社サービスの提供価値を定義する必要があります。
そして、提供価値は「どのような状況に、どのような便益を提供するのか」という形で定義していくのが状況ターゲティングの考え方であることを本記事にてご説明してきました。
しかし、「顧客が置かれている状況」というのは極めてハイコンテキストであるため、なかなか定量調査や簡易ヒアリングなどでは捉えることはできません。「デプスインタビュー」や「行動観察調査」といったの定性調査を行うことが必要不可欠となります。
さらに言えば、新サービスの提供価値が仮説ベースで定まってからの段階でも、「狙いたいターゲット状況に対して、サービス仮説が受容されるのか」を検証するために定性調査の実施が必要になります。
状況ターゲティングに基づく新たなデジタルサービス設計などをお考えの際には、定性調査やサービス・プロトタイプ設計に強みを持つ弊社に、ぜひお声掛けください!
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