Date : 2019
03
08Fri.
勝てるアプリコンセプトの作り方 – 「プロの職人技」をデジタル体験に取り込む –
事業のこと
エクスペリエンスデザイン
企業のマーケティング投資が「クロージング領域からリカーリング領域へ」移り変わっていく中で、スマホアプリの設計に注目が集まっています。 「新たなアプリ企画を立ち上げたり、既存アプリを抜本改善してビジネス成果を出そう」といった取組みにおいて最も重要なのは『どのようなコンセプトのアプリを作るのか』という点になります。 本記事では、デジタル体験のコンセプトワークを数多く手掛けるbeBitが「どのように成果の出るアプリコンセプトを作っているのか」について、実プロジェクトの事例をベースにご紹介します。
「プロの職人技を行動観察する」というアプローチ
勝てるコンセプトを発想する方法の1つとして、「プロの職人技を行動観察する」というアプローチがあります。
ある不動産賃貸サービスを提供している企業から「初心者ユーザを取り込むための新アプリ立上げ」を依頼されたプロジェクトを例にして、ご説明しましょう。
そのクライアント企業は、不動産賃貸物件のポータルサイト(いわゆるお部屋探しサービス)を運営しているのですが、SUUMOなどの競合プレイヤーと比べて「掲載物件数」や「集客力」で後塵を拝していたため、苦戦を強いられていました。
そこで、「お部屋探し初心者ユーザ」をターゲットとして、他社と大きく差別化されたコンセプトのお部屋探し体験を提供できるようなアプリを立ち上げよう!というプロジェクトが立ち上がったのです。
このような検討を始めるためには、とにもかくにも「どのようなコンセプトのアプリを作るのか」の初期仮説をイメージする必要があります。
競合他社に勝てるコンセプトを定義するためにbeBitのデザイナーが最初にとった行動は、「賃貸物件仲介の実店舗に出向き、店舗スタッフの行動を観察する」ことでした。
STEP1) リアル店舗の行動観察を実施
不動産仲介の現場に出向き、「営業成績の良い店舗スタッフ」の行動をじっくり観察をすると、リアル店舗では下記のような顧客体験を提供していることが分かりました。
A: ”お客様がどんな部屋に住むか”のレベルから相談にのってあげている
B: 物件スペックから適正家賃をその場で算出し、家賃が割高かどうかを判断してあげている
まず1点目のAについてですが、営業成績の良い店舗スタッフは「お部屋の探し方」についてお客様にアドバイスをしてあげていることが分かりました。
例えば、「職場と新宿駅の双方へのアクセス性を担保したいなら、このエリアがオススメ」や「頻繁に自炊する予定なら2口コンロは絶対必要だから、その部屋はやめておいた方がいい」といったものです。
考えてみれば「引っ越し経験が浅いユーザ」や「土地勘に乏しいエリアへの引っ越しを考えているユーザ」にとって、こういった情報は極めて貴重です。しかしながら現状のWebサービスは十分なサービスを提供しきれておらず、ユーザが困っていることが分かりました。
2点目のBについては、営業成績の良い店舗スタッフは「物件スペックから適正家賃をその場で算出し、家賃が割高かどうか」を判断してあげていることが分かりました。
例えば、「この物件スペックなら適正な家賃相場は84,000円くらいなのに、大家は90,000円という強気の価格設定にしている。この物件は割高だからやめたほうがいい」などです。
数多くの物件情報を見てきた不動産情報の専門家は「この物件スペックなら、このくらいの家賃帯になる」という相場感を理解しており、家賃が相場に対して割高なのか割安なのかを瞬時に算出・判断できるとのことでした(=プロの職人技)。
これはお部屋探しをしているユーザにとって極めて貴重な情報です。誰しもが「いい物件に、できるだけ安く住みたい」と考えていますが、賃貸物件市場はその情報の非対称性ゆえに「この物件の適正家賃はいくらなのか?」を独力で判断するのが難しいためです。
STEP2) プロの職人技を、デジタル体験へ落とし込む方法を模索
こういったリアル店舗におけるプロの職人技をWebサービス上で再現できれば、既存の競合サービスと大きく差別化された体験を生み出せるのではないか?
このような着想から、我々はアプリ体験の構想を練り始めました。
まず「A.”お客様がどんな部屋に住むか”のレベルから相談にのってあげる」という体験についてですが、アプリインストール後すぐに
・お部屋のセキュリティは、どのくらい重視する?
・防音性は、どのくらい重視する?
・自炊の頻度はどのくらい?
といった「住みたいお部屋の条件をヒアリング」する画面を設けることで、デジタル体験に落とし込みました。
その回答結果に応じて「だったらオートロックあり / 2口コンロあり / 鉄筋造のお部屋がオススメ」といった形でに、アプリ側から「こういうお部屋に住むといいよ」というアドバイスをするようなユーザ体験を設計しました。
次に「B.物件スペックから適正家賃を算出し、家賃が割高かどうかを判断してあげる」という職人技的な体験についてですが、ビックデータ解析技術を用いることでデジタル体験へ落とし込みました。
具体的には、お部屋のこだわり条件の絞込み画面にて、ユーザが「駅徒歩5分以内 / 築年数10年以内 / バストイレ別」といった条件を入力していくと、「その条件なら家賃相場は76,000円です」といった情報をリアルタイムに閲覧できるようなユーザ体験を設計しました。
STEP3)ユーザ行動観察により、コンセプトの受容性を確認
次ステップでは、コンセプト仮説を実際のプロトタイプ画面に落とし込み、実際にお部屋探しをしているユーザにぶつけることで有効性を検証していく流れを取りました。
「仮説として立てたコンセプトが本当に受け入れられるのか?」をプロジェクトチームが肌感を持ってきちんと検証した上で、本格的な実装に進むのかを判断することが極めて重要です。
今回のユーザ調査では「それまで競合サービスに対して何の不満もない」と仰っていたユーザさんが、プロトタイプを利用した後に「これ便利ですね! 今までのが使いづらく思えてきました!」と言って下さるなど反応も良く、無事実装ステップに進むことができました。
まとめ
本記事では、成果の出るアプリコンセプトを作る方法論の1つとして「プロの職人技をデジタル体験に取り込む」というアプローチをご紹介しました。
競合サービスの優れたポイントを探したり、自社サービスの課題を丁寧に潰していくことも重要ですが、「新規アプリの立上げ / 既存アプリの抜本改善」といったゼロベースでの企画立案を行う際には、異なるアプローチが有効となります。
時にはリアル空間における顧客体験を徹底的に行動観察し、「リアル空間で提供されている顧客体験をどうすればデジタルに落とし込めるか」というアプローチを試してみてはいかがでしょうか。