企業の価値観は社員を変える
「企業は利益を上げるための集団にすぎない」と思っていませんか?実は企業の価値観や方針は、そこに勤める社員の人格に大きな影響を及ぼしているのです。企業が自らの価値観を問いなおすことの重要性について、弊社代表が語ります。
企業は社員の人格に大きく影響する
私は日々いろいろな企業の方にお会いする中で、同じ企業に勤める人の価値観や行動様式は似ているものだと感じています。そしてそれは、その会社の方針が働く人たちの自己に取り込まれているからだと捉えています。
現に、その仕事に適合して社員の顔までもが変わってしまうという研究結果も目にしたことがあります。企業は働く人の人生に対して、予想以上に大きな影響を及ぼしているのです。
心理学者のアブラハム・マズローは、個人の成功が他人の犠牲の上にのみ成り立つという、ビジネス社会の実情を数多く見てきました。そして、「良い社会」の実現のために、企業がもたらす影響について様々な意見を述べています。
- 仕事は常に自己にとりこまれている
- 自尊心と仕事との関係は密接なものとなる
- 健全で安定した自尊心を持てるかどうかは、立派な価値ある仕事を自己の一部にできるかどうかにかかっている
- 個人の仕事生活は教育と同様、あるいはそれ以上に影響力がある
- 現代人が嘆きを訴えるのは、誇ることのできない仕事や、自動化され何の努力も要しないまでに細分化された仕事を受け入れざるを得ない状況である
- 人の役に立たない仕事は、立派にやりとげる価値がない
自分自身の経験に照らしてみて、私も同様の見解を持っています。
私が最初に勤めた会社ではソフトウェア開発を行っていましたが、ユーザが誰なのか、何の価値のために働いているのかが全くわからず、人の役に立っている実感はありませんでした。仕事仲間と飲みに行っても愚痴を言い合うことが多く、仕事に誇りを持っているような雰囲気はありませんでした。
その頃の自分は生きているのか死んでいるのかわからないと半ば人生を諦めた心境で、全く自尊心の持てない状態になっていたことを思い出します。
こういった状態はとても個人的で、特殊だと思っていたのですが、その後の仕事経験を通じて、同じ気持になっている人が少なからず存在していることを知りました。
利益よりも「価値観の問い直し」が必要
少し極端な例になりますが、誰かの犠牲の上で儲けることを厭わない方針の組織に属すると、奪うことが当然の人格が形成されてしまい、その人格が影響し合い、共同体の文化となり、人と人との衝突が頻発し、不安定で不安に満ちた社会になっていきます。企業の方針は、成人までに学習してきた教育よりも強い影響力を持っており、社会のあり方を左右するとも言えます。
反対に、善意に満ちた社会文化を目指すのなら、誰かの役に立っていることを働く一人ひとりが実感でき、仕事に誇りを持つ状態が必要になります。そうすることで、個人にとっての利益が同時に全ての人にとっても利益となる、調和の取れた社会が実現されます。
もちろん、私は企業が儲けることを否定しているわけではありません。利益を出せない企業は存続できず、世の中に貢献することもできないでしょう。
しかし、米国の著名なベンチャーキャピタリストであるベン・ホロウィッツ氏は、「会社にとって利益は空気のようなもの。それがなくては死んでしまうが、人は空気を吸うために生きているわけじゃない」と語っています。利益を出すことを唯一の目的にするのではなく、社会に貢献し従業員を幸せにすることで、結果として利益が生まれるという状態が、企業のあるべき姿ではないかと思っています。
そのために企業は、お題目としてではなく、現場の活動へと落とし込める水準まで、企業の目的や方針、価値観を問い直さなければなりません。それは、より良い社会を目指す全ての経営者に課せられた責務です。
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顧客価値戦略サミット 第一部レポート
貢献志向の仕事 | TEDxTodai2013
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執筆者:遠藤直紀
(代表取締役)横浜国立大学経営学部経営システム科学科を卒業。ソフトウェア開発会社を経て、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。2000年3月にビービットを設立し、現在は東京・台北・上海の3拠点にて顧客ロイヤルティ経営、およびユーザ中心のデジタルマーケティングを支援。共著書に「売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門」。経済同友会会員。