OMO時代の到来によりユーザ体験が重視されるようになると、企業もUX向上のために行動分析を取り入れ始めます。
しかし、行動データを扱える人材は不足しがちで、その活用が属人的な業務となってしまい、効果を発揮できていないことも多いのではないでしょうか。
今回は行動分析の基本を振り返りつつ、正しく活用するための方法を解説します。
OMO時代における行動分析の重要性
OMO(Online Merges with Offline)とは、オンラインとオフラインを一体のものとして捉え、これをオンラインにおける戦い方や競争原理から考えるビジネスの捉え方を指します。
OMOの考え方が主流になった時代では、実店舗やWebサイト、アプリなど複数のプラットフォームをまたいだ「行動分析」が事業を成長させていくうえで重要になります。
行動分析とは
行動分析とは、ユーザが起こすさまざまなアクションを(行動)データとして得て、そこからユーザ行動の傾向や原因などを分析することです。使用するデータの例としては、購買履歴やGPS、WEBサイト・アプリへの閲覧履歴・アクセス経路、ヒートマップ、SNSでの行動・発言などが該当します。
これらのデータを読み解き、あるいは掛け合わせることで、確かな根拠によって仮説の精度を向上させる、あるいは、これまで気付かなかった情報が見つかるといったことが期待できます。
行動分析が必要な理由
新たなマーケティングプランを企画する場合、スタートの前にユーザ行動の仮説立てが必要となりますが、仮説と現実の間にはどうしても差が生じがちです。
プラットフォームの多様化が進むOMO時代ではなおさらです。
そこで、まずは仮説とのギャップを理解するために、具体的なユーザ行動を把握できる行動分析が欠かせないのです。
行動データの特徴
行動分析で活用する「行動データ」には様々な特徴があります。
ここでは、まず行動データを行動分析に活かすために知っておきたいデータの基本についてお伝えします。
データの属性と性質
行動データには大きく分けて定量と定性の2種類があります。
定量データは売上高や市場シェア、購入数、年齢、年収、サイトへのアクセス数といった数値で測ることのできるデータを、
そして、定性データは個人の感想や意見、テキスト、行動といった数値として表現できないデータを指します。
定量データは数値で計測できることからも、現状把握や改善、データをもとにしたPDCAによるアクションに有効です。
一方で、定性データ(行動データ)は顧客を追跡することで実際の行動を理解する、あるいは、こちらが意図していなかったアクションを見るのに有効です。
活用範囲とタイミング
行動データはマーケティングプロセスのさまざまな場面で活用できます。
マーケティングプロセスでは一般的に、PDCAサイクルを回すことで継続的なグロースを狙っていきますが、行動データはPDCAのすべての場面で活用可能です。
例えば、企画の段階においては、定量データからユーザ傾向の考察を行ったり、定性データから仮説のストーリー立てを行ったりできますし、検証の段階においては、定量データと定性データ両方から結果の原因を考察することもできます。
例えば、企画の段階においては、定量データからユーザ傾向の考察を行ったり、定性データから仮説のストーリー立てを行ったりできますし、検証の段階においては、定量データと定性データ両方から結果の原因を考察することもできます。
データの密度と相性
データを活用するとき、人口統計や地理的条件にセグメントを切って分析することが当たり前となっています。Googleアナリティクスを思い浮かべていただけると分かりやすいと思います。
Googleアナリティクスでは、セグメントとディメンションという指標を用いて、データを細かくし、自分たちが分析したいように設定します。もし、このセグメントとディメンションが正しい組み合わせでなかった場合、上手くデータを出力することができません。
行動データも同様です。
たとえば、扱うデータとして対象者が10~60代では漠然としすぎており、行動が「単に商品を購入」だけでは意味のある仮説が生み出される可能性は低くなります。
行動データを有効に活用するには、自分たちが見たい対象者の行動(例:20代女性で、○ページを閲覧後、商品を購入)を区切って見る必要があります。
このように、データの密度と相性を調整する必要があるのです。
行動データ活用の現状
行動データは上手く活用できると、ビジネスに大きな影響をもたらす力を持っています。
しかし、多くの日本企業では、行動データを上手く活用することができていません。
そのおもな原因として、データの「環境整備」と「理解」の不足が考えられます。
データを活用する環境整備ができていない
行動分析から多くのデータを得ることはできても、現場レベルで業務に落とし込めている企業は多くありません。データ活用ができている企業においても、データサイエンティスト頼みになっているケースは多く、データ活用の是非が属人的な要因で決まっている現状があります。
原因としては、行動データは全ての顧客の全ての行動が対象となるため、扱うデータ量が膨大になり、的確にデータを処理できる一部のスタッフしか使いこなせない事態になっているからです。
とはいえ、社員の教育には時間がかかりますし、教育した社員が流出してしまうリスクもあり得ます。とくに専門部署が無い小規模な企業では、教育に時間をかけられない現状もあるのではないでしょうか。そういった場合は、まずは身近なところから段階を踏んで進めていくことで、社員の理解を深める方法もあります。
データ活用の環境整備問題についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
【参考】ステップ方式で分かる データ活用で成長企業に変わる方法
データの相性に対する理解が進んでいない
行動データの活用には、属性や購買とのひも付き、および行動の濃淡の情報が重要です。
「どのような人が」「どんな道筋を経て」「何を買ったか」、この3点の相互関係を把握することで、購入へ至った意図やその背景、隠れたニーズなどの理解が期待できます。
日本企業でも、CDPやDWHといったツールによって、顧客データを統合・管理しようとする試みが行われていますが、導入したまではいいものの、なかなか活用が進まない実態があります。この原因は、データの属性や行動の濃淡といった情報を考慮せず、「とりあえず格納するか」となっているからです。
分析・企画を支援するツールが必要
データだけが無作為に、かつ大量に格納されてしまっているがゆえに、データサイエンティストのような一部の人間しか上手く行動データを活用できない状況になっているのが今の日本企業の状態です。
データサイエンティストだけでなく、普通の社員でも行動データをもとに分析や企画が行えるようにするには、行動データを時系列、より詳細に言えば、状況(人々が何かをしたいと思う瞬間、およびその瞬間における行動)という単位で個別に分析できるツールが必要です。
そのような分析手法をシーケンス分析といい、データを実際のユーザ行動の流れに沿って、「線」として捉えることができます。
シーケンス分析ができるツールを利用することで、ユーザの実際の行動がひと目でわかるので、専門的な知識を持たない一般社員でも、行動データをもとに分析や企画立案を行うことができるようになります。
シーケンス分析について詳細が知りたい方はこちらもご覧ください。
【参照】アフターデジタルとビービット(3) – 事例で読み解く「UX企画力を高めるシーケンス分析」
行動分析の活用例・手法
ここからは、行動分析を導入するべき活用例を3つ紹介します。
デジタルサービス(WEBサイト・アプリ)のUX改善
UX改善は、行動分析が非常に有効な取り組みと言えます。
デジタルサービスはユーザの顔が見えないため、利用データからその意図をくみとる必要がありますが、たとえば、ある商品の販売サイトを考えたとき、商品を「購入したユーザ」のデータを分析するケースは多いのではないでしょうか。
しかし、その裏に隠れている「購入まで至らなかったユーザ」の行動分析ができれば、そこからUXを改善して購入へとつなげられるかもしれません。
購入まで至らなかったユーザが何を見て、どこで離脱したかを理解することで、よりユーザに寄り添ったUXを提供できるようになります。
より精度の高いMA・Web接客のシナリオ設計
MAやWeb接客といった施策実行に特化したツールは、ユーザの「こういった動きをするだろう」という仮説をもとに運用されますが、行動データを用いた分析を行うことで、その精度をより高めることができます。
勘や他社事例をもとに施策を打つのと、実際のユーザの動きを観察してから実行するのとでは、効果の差だけでなく、結果の振り返りの際にもより価値の高いデータとなって返ってきます。
広告の導線設計
広告においても行動分析は有効です。
たとえば、リターゲティングやSNS広告は、行動分析によってより効果的な設計を行うことができます。
リターゲティングであれば、サイト訪問者でどんな内容のページを見ていたかで分析を行ったり、SNS広告では、投稿内容によるCVまでのユーザ行動の違いを把握したりすることができます。
行動分析によって変わるマーケティング組織
行動分析により顧客の行動を理解し、さらに、ユーザ行動を軸とした分析をもとに施策を打っていくことで、企業側もまた業務で成果を出し続ける組織に変わることができます。
最後に、事例を紹介します。
人材紹介会社である株式会社ジェイエイシーリクルートメント様では、行動分析を行うまではGAの数値データをもとに施策の効果検証を行っていましたが、数値の増減の理由が分からず、施策設計が勘頼みになっているのではないかという課題意識がありました。
そこで、数値の背景となるプロセスデータ(行動データ)の追加を実施。
これにより、数値の裏にある理由が把握できるようになり、データに基づいた施策設計が可能となりました。
なにより、行動データを分析する際にチーム全員が集まって改善策を考えるようになったのです。
行動データをもとに全員で改善案を考える会を続けることで、出てきた案をただ否定するのではなく、新たな解釈や知恵を出し合い可能性を模索し続ける「対話型組織」となりました。
このように行動分析は、単に施策の改善だけでなく、組織にも大きな影響を与えるのです。
ジェイエイシーリクルートメント様の事例の詳細が知りたい方はこちらをご覧ください。
行動データで変わるマーケティング組織~ アフターデジタル時代の業務とチーム(1/4)
レポートのご紹介
行動分析の実践ポイントについてもっと知りたい、という方は、ぜひ弊社レポート「OMO時代のCX ジャーニーオーケストレーション」をご活用ください。そこでは、部門・接点を横断したクロスセルを阻む要因や、ジャーニーオーケストレーションを実現するために必要な活動について解説しています。
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