2023年10月13日、株式会社ビービット主催でオンラインセミナーを開催しました。デジタルを駆使したサービスの開発に必須となった「デザイン思考」の進化版である「デザイン思考2.0」をテーマとした本セミナー。ビービットの藤井保文と小城崇が講師を務めました。
デザイン思考による事業開発を企業の中で進める際、担当者の前には「企画立案の壁」と「戦略論の壁」という大きな2つの壁が立ちはだかります。
今回のセミナーでは「戦略論の壁」を突破する方法として、従来のデザイン思考をアップデートした「デザイン思考2.0」を取り上げています。企業の競争優位を確保するための新たなアプローチであるデザイン思考2.0の方法論がどのように機能し、従来の課題を克服するか、わかりやすく解説しました。
<セミナー概要>
セミナー名:デザイン思考2.0 「UX」と「戦略」をつなげるサービスデザイン方法論とその実践
開催日時:2023年10月13日
筆者である私は、大手メーカーで新規事業の開発業務を担当しながら、ビービットのUXやアフターデジタルに関わる発信サポートチームでライターをしています。
そういった立場から、本レポートの最後にはセミナー全体を新規事業開発者としての立場で見たときに感じたことも書いてみたいと思います。
これまでのデザイン思考とは
セミナーは、これまでのデザイン思考のプロセスについての説明から始まりました。一般的なデザイン思考のアプローチは、顧客基点で仮説を立案する手法として定義されます。
具体的なプロセスは以下の通りです。
・ターゲット顧客のニーズや困りごとを深く理解し共感する
・企業はテクノロジー主導ではなく、ユーザーの視点に立って問題を設定し、ソリューションの仮説を立案する
・仮説をプロトタイプ(試作品)の形で具現化する
・プロトタイプを実際のターゲット顧客に使用してもらい、その反応を基に仮説を精緻化し、必要に応じてアイデアを更新していく
このプロセスの特徴は、勘や経験、直感を活かし、仮説優位でスピーディに検討を進める点です。
このアプローチは、企業が市場のニーズに応じた革新的なサービスを創出するための手段と言われています。デザイン思考における顧客の理解と共感、そしてアイデアのテストとアップデートは、ユーザー中心のサービス開発に不可欠な要素なのです。
デザイン思考が抱えている弱点とは
一方、デザイン思考における弱点についても紹介されました。顧客の潜在ニーズを深く理解し共感することと、それを実用的な顧客体験に変換する間には2つの壁が存在します。
まず1つ目は「企画立案の壁」です。企業がターゲット顧客に対する深い理解を持っていても、それを効果的なサービスデザインに結びつけるのは容易ではありません。
さらに2つ目に、本セミナーのテーマでもある「戦略論の壁」があります。デザイン思考はしばしばUXの視点に留まり、企業に存在する事業戦略との連携が欠ける傾向にあります。つまり、顧客に利用してもらえる可能性のあるデジタルサービスを考える際、戦略的な優先順位や企業の競争力との整合性が一致しないケースがあるのです。
サービス開発を担当するデザイナーは、共感と直感から生み出されたサービスが「自社の戦略と合致するのか?」と問われても答えられないケースが多いものです。
一方の経営層としては、営利企業である自社が競争に勝つための戦略が必要と考えています。サービス開発には大きな開発リソースが必要なため、戦略的に投資先を決めなければならないのです。
デザイン思考のアップデート指針とは(デザイン思考2.0)
デザイン思考では顧客やユーザーを起点とした手法として「速さ」と「人間中心」を重視するため、事業戦略を十分に考慮せずに早期にアイデアを絞り込む傾向にありました。その結果、企業の事業戦略と顧客起点の提案が噛み合わない問題が生じていました。
この問題を解決するための「デザイン思考2.0」では、あえて「遅さ」を取り戻したサービス開発を推奨します。デザイナーが企画立案を行う過程で、UXを起点とした広範な仮説立案を行い、経営層との議論を通じて戦略的に正しいオプションを選択します。これにより、「UX起点」と「戦略起点」の間のギャップを埋め、より実現可能性の高いアイデアを生み出すことができます。
デザイン思考2.0の業務プロセス
デザイン思考2.0を実行するための具体的なプロセスで重要なのは、事業・ブランドとして「顧客の成功」を支援するための「行動フロー」を設定することです。UXリサーチを通じて顧客が直面するペインポイントを明確に理解し、それに基づいて具体的なゲインポイントである理想の体験を定義します。例えば、日常の献立立案や料理などの家事に関連するペインポイントを特定し、それに対するソリューション仮説の立案を行います。
このとき、さまざまなゲインポイントに対して幅広いアイデアを検討し、可能性のあるサービス仮説を導き出す「仮説立案100本ノック」を行います。これらの仮説のうち有望なものをコンセプトシートに落とし込み、実際のユーザーにテストして受容性を検証することにより、サービス仮説の有効性を確認します。
最終的には、有効性が検証された複数の仮説を統合し、実現可能なサービスコンセプトをサービス仮説と機能アイデアで構成されたカスタマージャーニーにまとめます。その後、企業の強みや市場の需要、実現可能性などを考慮に入れ、経営層との議論を通じて最適な戦略を決定します。
デザイン思考2.0の実践アプローチ
セミナーの締めくくりとして、デザイン思考2.0を組織で取り組むためのポイントが示されました。デザイン思考2.0はUXと戦略を融合させる効果的な手法ですが、この方法論を適切に使いこなすには多くのプロセスに関する詳細な知識と理解が必要とされ、企業によっては適応が難しい場合もあります。
デザイン思考2.0をいざ実践投入しようとする際にも、社内のデザインチームによる実行、コンサル会社やデザイン会社への外注、ワークショップやアドバイザリ型での外注など、さまざまなやり方があります。いずれの方法においてもメリット・デメリットがありますが、ビービットが過去の実践経験含めて推奨しているのが、「共創型サービスデザイン」という新たなアプローチです。これは、皆でワークショップを行い、アイデアを出しながらデザインしていく一般的な共創アプローチとは異なっています。
共創型サービスデザインというアプローチでは、デザインファームが方法論に基づいた問いを提示し、企業と共同で仮説を立案・議論します。ビービットのようなデザインファームが持つ豊富なナレッジを活用し、企業の戦略に合致したユーザー受容性の高いサービスデザインの創出を目指します。
サービスデザインの成功は難易度が高く、方法論だけでは不十分です。方法論に精通したデザイナーが直接関与し、クライアント企業と共にアイデアを形成する共創のプロセスを実行することで、戦略的かつユーザー中心のサービス開発が実現可能になるのです。
いかがだったでしょうか。私がセミナーを見て感じたこととして、本セミナーで提案されたデザイン思考2.0には非常に大きな可能性を感じました。おそらく多くの新規事業開発の担当者は、自分の業務でデザイン思考に基づいたサービス開発にトライしていると思います。私も、「企画立案の壁」と言われるようにデザイン思考ベースのアイデア創出だけでも大変なのに、さらに「戦略論の壁」にぶつかることも実際にあり、この壁をどのように超えていくかが大きな課題となっています。
デザイン思考2.0では、UXと戦略という視点は異なるがどちらも重要な要素を効果的に結合させる方法論であるため、今後の事業開発において大きな指針になり得ます。一方、このアプローチを成功させるためには、単に開発チームが実行するだけでなく、経営層を含む組織全体での理解が必要です。この点については、社内でのさらなる啓蒙と教育が重要だと感じました。
このセミナーレポートが、皆さんの新しいサービス開発を推進する一助となれば幸いです。
レポートのご紹介
デザイン思考ついてもっと知りたい、という方は、ぜひ弊社レポート「カスタマージャーニー百科 ービジネスモデル別つくり方解説」をご活用ください。
ビービットがこれまでの支援実績から得てきたナレッジと、実在する幅広い企業・サービスの事例分析を掛け合わせ、さまざまなカスタマージャーニーの可能性・拡張性を示しています。
本レポートを読むことで、「自社にとって最適なジャーニーを描くためにどこから考え始めればいいのか・どの方向へと考えを進めていけばいいのか」について、多くのヒントが得られるようになっています。
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