ジャーニーオーケストレーションとは?
ジャーニーオーケストレーションとは、オンライン・オフラインを問わず、さまざまな接点やサービスを行き来する顧客の一連の行動(=ジャーニー)を包括的に編成することを目指す考え方です。
米国では、顧客データプラットフォーム(CDP)を提供する企業がその重要性を喧伝したことで、顧客一人ひとりの状況に沿った最適な体験を提供する方法として浸透しています。
近い概念に、ユーザの行動をフラグとして捉えて自動で施策を実行するマーケティングオートメーション(MA)があります。MAとジャーニーオーケストレーションの主な違いとしては、MAではフラグと施策のセットが複数設定されているだけの状態なのに対し、ジャーニーオーケストレーションではそれらのセットが全社(またはシナジーを生み出す事業のかたまり)レベルで複合的に連動するように設定されています。
このような顧客体験の最適化は、短期的にはクロスセルやアップセルを促進する効果があり、長期的には顧客のロイヤル化やエンゲージメント向上、ひいては顧客生涯価値(LTV)の最大化につながると期待されています。
今後は生成AIの活用によって「大量の行動データ分析によるパーソナライズの高度化」や「自動生成されたコンテンツによるコミュニケーションの最適化」といったことも可能となり、ジャーニーオーケストレーションの意義がさらに高まっていくと予想されます。
OMO時代にジャーニーオーケストレーションが重要となる理由
ジャーニーオーケストレーションという考えが登場した背景には、アプリやウェブサイトなどのデジタル接点の普及に伴う「行動データの取得」と「顧客支援の幅の広がり」が影響しています。
DXの基盤が普及し、行動データの取得が可能に
デジタル接点が普及したことで、企業は時間や場所を問わず顧客に寄り添い、属性データや購買データに加え、顧客一人ひとりの「今どこで何をしているのか」という行動データを取得できるようになりました。このデータを基に、顧客の状況や困りごとを理解し、適切なサービスやプロダクトを提供したり、体験を洗練したりすることが可能になっています。
顧客支援の幅が広がり、企業は複数のサービスを持つように
さらに、単一の企業が支援できる行動フローの幅も大きく広がっています。例えば、旅行アプリ一つで、「旅行プランの作成」「移動手段と宿泊施設の予約」「観光名所の探索」といった行動フロー全体を横断的に支援できるようになりました。また、ペイメントアプリなどの基幹サービスを軸にしながら金融・投資・保険といった関連事業を展開する企業も増えています。
複数のサービスや事業を持つ企業では、顧客が自社のサービス間を行き来するため、カスタマージャーニーは複雑になりがちです。事業が組織ごとにサイロ化していると、各サービスの行動データが統合できず、顧客の状況を正確に把握することが困難になり、当然、部門・事業を横断したクロスセルも難しくなります。
このような経緯から、これまで接点・サービス・事業ごとに分けて考えられることの多かったカスタマージャーニーを、全社(またはシナジーを生み出す事業のかたまり)レベルで把握・調整・編成する「ジャーニーオーケストレーション」という考えが登場しました。
ジャーニーオーケストレーションの実践ポイントと具体例
ジャーニーオーケストレーションを実践する際のポイントは、以下の3点に整理できます。
・各接点やサービスでばらばらになっている行動データを顧客一人ひとりのIDで統合し、複数の接点を横断する行動フローをリアルタイムで把握する
・顧客一人ひとりの状況を捉え、最適なカスタマージャーニーを提供する
・顧客ごとにパーソナライズされたコミュニケーションを最適なチャネル・タイミングで提供し、情報収集や購入・申込といった次のステップへとスムーズに誘導する
これらのポイントを踏まえることで、全社レベルでカスタマージャーニーを構築し、パーソナライズされた体験をリアルタイムに提供できるようになります。
例えば、動画配信サービスで映画やドラマを見終えた直後のユーザに対して関連グッズをレコメンドしECサービスに誘導したり、航空券を予約した顧客に対して航空会社が提携している宿泊施設や移動手段の予約・手配を提案したりする対応が可能になります。こうしたタイミングでのレコメンドは、ユーザの関心が特に高まっている状態であるため、購入意欲を効果的に刺激することができます。
このように、ジャーニーオーケストレーションの考え方を基に、企業が顧客一人ひとりに合わせたタイミングで適切な製品やサービスを提案することで、顧客のニーズに即したサービス提供ができるようになります。その結果として、顧客満足度を高め、親和性の高いサービス間のクロスセルやアップセルによる収益増加が期待できます。
ジャーニーオーケストレーションの実現に欠かせない顧客理解
ジャーニーオーケストレーションを通した顧客の状況に沿った体験の提供は、「顧客にこうなってほしい」という理想状態の設定と、「顧客はこのように行動するはず」という顧客への深い理解があって初めて実現できるものです。
しかし多くの企業では、CDPなどの行動データを取得する基盤がありながら、「顧客視点で体験をプランニングする」という観点やケイパビリティが不足しており、結果としてデータ取得の基盤が形骸化し、行動データを活用した価値提供ができていません。
ジャーニーオーケストレーションの実現には、前提としてCDPやMAの基盤が整備されていることが必要ですが、それだけではなく、顧客理解に基づいた全社(またはシナジーを生み出す事業のかたまり)レベルの戦略が不可欠です。さらに、その戦略に基づいて一貫した体験を提供するためのサービス設計と、データドリブンに顧客の理解を深めサービスを改善し続ける体制の構築が重要です。
おわりに ーUXとデータで顧客体験の理想形をつくる
この記事では、ジャーニーオーケストレーションの概要と活用イメージに加え、その実現に欠かせない顧客理解について解説しました。
デジタルが人々の生活に浸透した現在、複数のサービスや顧客接点を編成し、いかに一貫した理想的な顧客体験を提供するかを考えるジャーニーオーケストレーションの重要度は増しています。これまで見てきたように、その前提となるのは顧客理解です。
レポートのご紹介
ジャーニーオーケストレーションそのものや実践のポイントについてもっと知りたい、という方は、ぜひ弊社レポート「OMO時代のCX ジャーニーオーケストレーション」をご活用ください。そこでは、部門・接点を横断したクロスセルを阻む要因や、ジャーニーオーケストレーションを実現するために必要な活動について解説しています。
ビービットのコンテンツが、少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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