顧客ロイヤルティ(ロイヤリティ)指標を正しく設定することで、商品・サービスに対する顧客の親密度が上がり、結果として「良い売上」が生まれます。この記事では「良い売上」を生み出すために必要な顧客ロイヤルティの基礎から事例を通じた戦略までをご紹介します。
顧客ロイヤルティ(ロイヤリティ)とは
顧客ロイヤルティとは、顧客が企業や特定の商品に対して心から信頼を寄せ感情的な深い結びつきを持っている状態を指します。ロイヤルティとはもともと忠誠心を表す「Loyalty」から派生しており、企業に対する信頼や愛着の大きさを、ロイヤルティが高い(低い)と表現します。顧客ロイヤルティを生み出すには、「顧客がどう思っているか」をつねに考え、定量・定性の両面で可視化して理解する必要があります。
顧客ロイヤルティと顧客満足度との違い
顧客ロイヤルティと似た指標に「顧客満足度」があります。その名のとおり、顧客が商品やサービスに対してどの程度満足しているかを表す指標ですが、実は顧客ロイヤルティとは似て非なるものです。
端的にいえば、顧客満足度とは「顧客の期待に応えることで生まれる、機能・スペックへの実質的な評価」ですが、顧客ロイヤルティは「顧客の期待を上回ることで生まれる、信頼や好意などの感情的な評価」です。
かつて日本経済が右肩上がりに成長していた「大量生産・大量消費」の時代は、モノは行き渡ったものの顧客の期待は満たされていないことが多く、それらの期待に確実に応えていくことが新規顧客の獲得と企業の成長につながりました。
しかし、品質の高いモノやサービスがあふれる現代では、製品やスペックへの満足はほぼ当たり前のものとなり、顧客の購入をうながすには「期待以上の対応をしてくれて感動した」「企業理念に共感する」といった、企業との深い関係性が重要となるのです。
顧客が「満足」と答えても収益の伸びにはつながらない
近年の調査結果では、顧客満足と企業の成長はそれほど関係がないことが明らかになっています。実際に顧客満足度は高くても、収益の伸びにつながっていない企業は多くあります。
こうしたロイヤルティをともなわない売上は「悪い売上」と呼ばれます。「悪い売上」は短期的には収益につながりますが、たとえば継続期間の制約がないライバル企業の出現といった、使い続ける理由がなくなれば簡単に乗り換えられてしまいます。
「あなたは我が社の製品・サービスに満足しましたか」という問いに対する回答は、顧客のその後の購買行動とは結びつきが薄く、そこから事業成果を予測するには不十分といえるでしょう。
顧客の購買行動と顧客ロイヤルティは相関し、企業の成長へつながる
顧客満足度が購買行動と結びつきが弱い一方、顧客ロイヤルティは購買行動と結びつきが強いことがわかっています。
自社の商品・サービスの購買量が多く、かつ愛着と信頼を持ってくれる「ロイヤルカスタマー」を増やすことは、継続率の向上だけでなく、口コミによる新規顧客の増加にもつながります。
また、ロイヤルカスタマーは、商品やサービス改善に役立つ建設的な意見を提供してくれることに加え、ロイヤルカスタマーの存在が社員の働きがい・貢献実感を向上させ、高い社員満足度の実現にまで貢献してくれます。
顧客ロイヤルティを高めることは収益への影響だけでなく、中長期的な企業全体の成長を支えることにもなるのです。
顧客ロイヤルティを向上するメリット
顧客ロイヤルティを高めることは事業成長にとって大きなメリットとなります。顧客ロイヤルティを高めることで得られる具体的なメリットとして「リピート率の向上」「顧客単価の向上」「解約率の改善」「口コミの増加」が挙げられます。
それぞれ具体的に見ていってみましょう。
リピート率の向上
顧客ロイヤルティを高めることで、顧客は商品やサービスを再購入(リピート)してくれるようになります。
顧客は企業からの情報発信を熱心に探すようになるので、企業も顧客の関心に合わせた情報発信をしっかり行うことでリピート率の向上につなつなげられるようになります。
新商品の販売、ニュース、イベント開催、企業の取り組みなどの情報をソーシャルメディアやメルマガで配信することで、顧客の企業に対するロイヤルティはさらに高まります。
その結果、お店やWeb・アプリに再訪し商品購入してもらえる確率が上がり、リピート率が向上します。
顧客単価の向上
顧客は商品やサービスを購入する際に、自分のニーズを満たすものなのか、商品・サービスの内容に問題がないかと不安を持ちます。しかし、高いロイヤルティを持つ企業や店舗に対しては、既に信頼関係が構築されているため、好意・安心感を持って購入することができます。その結果、価格が多少高くても納得感を持った購入につながります。
また、事前に購入を計画していた商品・サービスだけでなく、追加買い、まとめ買いをしてくれる可能性も上がります。
解約率の改善
多種多様な商品・サービスがあふれる今、顧客はつねにどの商品・サービスを選ぶかという判断をせまられています。そのような中で、選ばれ続ける商品・サービスになるために重要なのが顧客ロイヤルティです。
顧客が「企業の理念に共感している」「商品・サービスの想いを理解している」「働いている従業員が好き」など企業に対する信頼や愛着が強い、つまり顧客ロイヤルティが高い場合、解約や他社への乗り換えを防ぐことができます。
口コミの増加
顧客ロイヤルティが高まることで、顧客は購入した商品・サービスを自分の周りの人に伝えたいと思うようになります。現在は顧客がソーシャルメディアで購入した商品・サービスに関する投稿をシェアすることで、フォロワーが投稿を目にして商品・サービスを知る機会が増えています。投稿には写真や動画もあり、さらに顧客が利用した感想や評価なども記載されますので、投稿を見たフォロワーは商品・サービスに対して強い関心を持つことにつながります。
広告による新規顧客の獲得が非常に難しくなってきている一方、口コミによって顧客の周囲の人にアプローチすることができ、新規顧客の獲得も期待できます。
顧客ロイヤルティを向上する施策には、ときに収益を一時的に落とさざるを得ないケースや、コストや手間が必要となるケースがあります。しかし、一時的な利益を捨ててでも、顧客ロイヤルティを高めることは企業に大きな利益をもたらします。
顧客ロイヤルティを計測するための指標
ここでは、顧客ロイヤルティを正確にとらえるための2つの指標をご紹介します。
NPS(顧客推奨度)
顧客の主観を聞く質問をすることで顧客ロイヤルティを計測する指標の1つが、NPS(Net Promoter Score:顧客推奨度)です。
NPSは、自社の顧客に「当社の製品・サービスを友人や家族、同僚に勧める可能性はどれくらいありますか?」と質問し、0点(絶対おすすめしない)から10点(強くおすすめする)までの点数を付けてもらいます。
9・10点の高得点を付けた人を“推奨者”、7・8点を付けた人を“中立者”、6点以下を付けた人を“批判者”として、推奨者の割合から批判者の割合を引くことで、ロイヤルティ指標を算出できます。
これによって、顧客の中に推奨者と批判者のどちらが多いかを定量的に示すことができます。
CES(顧客努力指標)
NPSとよく比較されるのがCES(Customer Effort Score:顧客努力指標)です。CESは、顧客ロイヤルティを低下させてしまう状態かどうかを示すものです。
質問としては、「サービスを利用するときにどれくらいストレスを感じましたか?」といったものになります。CESが低くなるのは、購入した製品がすぐ壊れた上に交換に時間がかかる、コールセンターでたらい回しにされるといった顧客サービスとして基本的なことが出来ていない場合です。
上記は、本来顧客が労力を払う必要がないものであり、この労力がどのくらいあったのか測定する指標がCESになります。顧客の労力を最小化できれば、ロイヤルティを下げる要因を排除でき、結果的にロイヤルティの向上が見込めるといった考えがベースとなっています。
顧客ロイヤルティ指標は収益連動とみる
ロイヤルティ指標についてより知っていくと、どれも捨てがたくなり、複数指標をまとめて扱おうとする誘惑に駆られることもあります。
しかし、それでは人による解釈の違いや自分にとって都合のいい指標を取り上げようとする人が現れるだけでなく、なにより顧客に依頼するアンケートの設問数が増え、回答率が下がる、あるいは回答の精度が落ちる恐れがあるのです。
そのため、最終的に追うべきロイヤルティ指標は1つとし、その総合指標を構成する要素としてKPIをツリー状に定義するのが賢明です。その際に見るべきものが、収益連動度と事業へのインパクトです。
ロイヤルティ指標とこれまでの収益性との関連性をみるには、自社商品・サービスと顧客のタッチポイントをしっかり把握し、ジャーニーマップに沿った形で捉える必要があります。
カスタマージャーニーの詳細が知りたい方はこちらをご覧ください。
カスタマージャーニー、アフターデジタル時代で変わる設計思想
ロイヤルティを向上させる戦略
顧客ロイヤルティを向上させるには、顧客の期待を上回るCX(カスタマーエクスペリエンス、顧客体験)を生み出す必要があります。その実現には、顧客に対して「問題ない」レベルの体験だけなく、顧客の想定を超える「期待以上」の体験を提供することが重要です。
顧客ロイヤルティ向上の施策を社内で理解してもらうには、顧客のロイヤルティと収益の関連性を分析し、ロイヤルカスタマー創出活動によって見込まれる成果を可視化すると良いでしょう。
そのためにはまず、顧客アンケートによってロイヤルティ指標を算出し、対象顧客の収益性を示すデータを集めます。そして両者の相関性をグラフで示すことで、ロイヤルティ向上によってもたらされる収益を予測できるようになります。
このように目に見える形で顧客ロイヤルティ向上による利益が予想できれば、一時的なコストや減収をともなう施策であっても実行しやすくなるでしょう。
顧客価値を最大化させた成功事例
ここでは、弊社がご支援させていただいた企業様の中から、アプリ開発を通して顧客ロイヤルティの向上を目指したスターフライヤー様の事例をご紹介します。
顧客利益を追求し良質な顧客体験(CX)を提供する
北九州を拠点としているスターフライヤー様は、「感動のあるエアライン」という理念を掲げる航空会社です。2018年から運用を始めたマイレージ会員向けのスマートフォンアプリには、搭乗回数に応じたステータスが表示される会員証機能や、スマートにチェックインや搭乗ができる2次元バーコード機能などを搭載し、好評を得ています。
まずビービットが提案したのは、スターフライヤー様がもともと持つ『気遣い』というサービスの強み(価値)を引き出して、それをアプリで体現することです。
こういったアプリに搭載するサービスは、一般的にはマイルのような金銭的なものを思いつきがちですが、それは大手航空会社にはどうしてもかないません。
その結果、できあがったサービスの1つが、到着地で雨が降っていたときは、アプリの画面をスタッフに見せることで傘を借りることができるという傘のレンタルサービスです。ほかにも画面を見せれば朝食サービスが受けられるクーポンの配信や、ステータスの高いプレミアム会員はオペレーターとのチャットで搭乗便や座席の変更ができる機能など、お客様をおもてなしする多彩な機能がアプリに搭載されました。
「感動」の実現には”科学”と”人間味”が必要
スターフライヤー様のサービスとアプリの開発は、科学的な裏付けのある、地道な調査分析をしながら進めました。
試作品をユーザに試してもらうプロトタイピングでは、1回あたり20人の顧客に対して、1対1で1人当たり70~80分の行動観察を2回実施しています。
ビービットでは、ドライで科学的な客観評価を取り入れるのと同時に、ウェットな共感性による評価も重視しています。
スターフライヤー様の案件ではプレミアム顧客を調査する過程で、今どこに満足しているかではなく、どのようにスターフライヤー様のファンになったのかというプロセスに着目しました。
そうすることで、お客様の本音を引き出し、本当にクライアント様のためになることも考えられるのです。
スターフライヤー様の成功事例をより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
マイレージ会員向けモバイルアプリ開発を、体験設計の面からご支援。『気遣い』のサービスという価値をアプリで具体化
行動データで顧客ロイヤルティを高める
顧客ロイヤルティを生み出すには、「顧客がどう思っているか」をつねに考え、定量・定性の両面で可視化して理解する必要があります。
顧客の感情は当人が置かれている状況によって左右されます。そのため、オンラインとオフラインが溶け合ったアフターデジタルの世界では、商品・サービスがユーザにどのような状況で利用されているかを理解することが顧客ロイヤルティを高める上で非常に重要です。
行動データでより効果的なPDCAを回す
顧客の状況を捉える手法のひとつに、シーケンス分析があります。シーケンスとは「連続」や「順序」を意味する言葉で、シーケンス分析はユーザの状況や文脈に注目した定性的な行動データ分析手法です。
ビービットの提供する「UXチームクラウド USERGRAM」は、個別のユーザだけでなく、グループ単位で行動の順番や経過時間まで考慮に入れて分析が可能です。また、デバイスをまたいで「いつ」「どこから」「どのように」行動しているかが、詳細かつ直感的にわかりユーザの『状況』を読み取ることができます。
USERGRAM、シーケンス分析について詳細が知りたい方はこちらをご覧ください。
【活用メモ番外編】成果に伸び悩んだら、ユーザの状況を捉える!
レポートのご紹介
ビジネス貢献と顧客体験を両立した、理想のジャーニーを描きたい、という方は、ぜひ弊社レポート「カスタマージャーニー百科 ービジネスモデル別つくり方解説」をご活用ください。ビービットがこれまでの支援実績から得てきたナレッジと、実在する幅広い企業・サービスの事例分析を掛け合わせ、さまざまなカスタマージャーニーの可能性・拡張性を示しています。
本レポートを読むことで、「自社にとって最適なジャーニーを描くためにどこから考え始めればいいのか・どの方向へと考えを進めていけばいいのか」について、多くのヒントが得られるようになっています
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