近年、技術革新、スマートフォンやSNSの普及によって、企業が提供するサービスへの接点が多様化してきている中、顧客の行動を把握する難易度が上がってきています。このような時代だからこそ、マーケティングの施策を考える上で顧客の購買行動を把握することが重要です。
モバイルデバイスやセンサーなど技術の発達によって行動データを高頻度で取得できるようになり、オフラインの活動もすべてデジタル化されるアフターデジタル時代。顧客のカスタマージャーニーに対する考え方もこれまでとは大きく変えなければなりません。
今回は、カスタマージャーニーの正しい理解と、その作り方、そしてビービットが提唱する「バリュージャーニー」についてご紹介します。
カスタマージャーニーとは?
顧客はインターネットで商品を検索する、SNSで口コミを見る、比較サイトで価格を調べる、店舗に商品を確認しに行く、動画で評判を見る、など多岐にわたる行動をとり、情報収集、商品比較したうえで購買決定するようになってきています。
「カスタマージャーニー」とは、顧客が商品やサービスを購入・利用するまでの企業とのタッチポイント(顧客接点)や、そこで発生する顧客の期待・感情・行動を「旅(ジャーニー)」になぞらえたものです。
そして、その一連のプロセスを地図のように視覚化したものが、「カスタマージャーニーマップ」です。
カスタマージャーニーマップを作成することで、顧客の行動を見える化することができ、自社組織への共有によって部署や立場の垣根を越えて共通認識をもつ助けとなります。
しかし、カスタマージャーニーマップの目的を正しく理解せずにつくろうとすると、すべてを網羅しようとして収集がつかなくなったり、つい自分たちに都合のいい顧客像を描いてしまったりしがちです。それでは、実際の顧客の行動からかけ離れてしまい、事業改善に活用することは難しくなります。
カスタマージャーニー作成の目的
顧客の行動を想像しながらカスタマージャーニーマップをつくることで、その商品・サービスを利用するうえで顧客が抱くペインポイント(課題や悩み、お困りごと)が浮かび上がってきます。このペインポイントを解決することで、高い顧客ロイヤルティの獲得とUX(ユーザーエクスペリエンス、顧客体験)向上につながっていきます。
あるケーブルテレビを提供する会社では、ウェブサイトやコールセンターなど、それぞれのタッチポイントで最適な顧客への対応がなされ、高い顧客満足度を得ていました。しかし、チャネル間で情報の共有が十分に行われておらず、いざ契約を進めようとすると顧客は同じ話を何度も説明するハメになり、大きなストレスを感じていました。
このように顧客がサービスを利用するときに余計な手間をかけているポイントがあります。これをフリクションといい、せっかくの利用体験を大きく阻害しているフリクションを見つけて改善することが、サービスのUXを向上させるための有効な視点になります。
カスタマージャーニーマップは、このフリクションを見つけるのにも役立ちます。前述した例のように、個々の接点では問題がないように見える場合でも、「体験全体をつくる」という視点をもつことで、いままで気づかなかったフリクションが見えやすくなるのです。
カスタマージャーニー作成にペルソナは必要?
一般的に、カスタマージャーニーマップを作成するときには「ペルソナ」を設定することが重要と言われます。ペルソナとは、企業が提供する商品・サービスにとって最も重要な顧客モデルを描き、年齢や性別、職業などのデモグラフィックデータや、価値観や趣味嗜好などの感情的な定性データをまとめたものです。
しかし、確かにサービスを利用するユーザーを設定する必要はありますが、実はジャーニーマップ作成においてペルソナ設定は必ずしも重要な要素ではありません。
というのも、ペルソナを細かく設定すればするほど、対象顧客が狭くなってしまうからです。一人のユーザを実際に調査し、その人の行動を明らかにすることを目的にするならばともかく、多くの場合では、ペルソナのようなレベルまで顧客像を細かく設定する必要はありません。
3つのカスタマージャーニー設計思想と目的
①現状のジャーニー
内容:特定の商品・サービスを利用する際の現在の行動
目的:課題や伸びしろを発見するためにつくる
②理想のジャーニー
内容:特定の商品・サービスを利用する際の理想的な行動
目的:企画段階で、商品・サービスを通じて実現したい理想の形をイメージするためにつくる
既存のサービスに対して、現状のサービスとの差分を把握するためにつくることもある
③日常行動のジャーニー
内容:特定の商品・サービスを前提とせず、現在の情報収集行動などを理解するためのジャーニー
目的:商品・サービスを企画するための種を見つけたり、マーケティングにおいて顧客と接触するタイミングを検討したりするためにつくる
以上のように、カスタマージャーニーと一口に言っても、マーケティングやサービス改善、新規事業のためなど目的によって細かく分けることができるのです。
事実を基に設計し、目的を明確にする
カスタマージャーニーマップは、「顧客の現在の行動を理解しよう」という号令でつくられることが多いですが、目的が明確でなくつくっただけで顧客を理解した気になり活用されないケースも散見されます。
また、事業発展以外の目的でカスタマージャーニーマップをつくる場合もあります。たとえば、以下のような目的があります。
・さまざまなステークホルダー(利害関係者)の知見を集約するため
・全員が関わったという共通認識をつくり、チーミングを行うため
・全員が合意をしたという言質を取り、社内に意見を通しやすくするため
いずれのケースにせよ、しっかりとしたユーザ調査を行ない、「実際に顧客がどのような行動をしているのか」という事実をベースにしない限りは、意味のあるものになりません。(サービス開始前に作成する理想ジャーニーを除く)
体験提供型ビジネスモデル「バリュージャーニー」とは
ビービットが提唱する「バリュージャーニー」は、先ほどの考え方をビジネスモデルに昇華したものです。ここまで解説したカスタマージャーニーを必要に応じてつくることもありますが、必須ではありません。
アフターデジタルが到来すると、オフラインがなくなり、リアルとデジタルの境目が曖昧になります。そうなると、企業は大量の行動データが取得できるようになり、これまで以上に人々の行動を強力にサポートできるようになります。
こうした新たな価値の提供や顧客の理解ができるようになった社会では、「製品販売型」のビジネスモデルは競争力を失います。厳しい競争を勝ち残るには、たとえばCD販売ならSpotifyやApple Musicのような「体験提供型」のビジネスモデルに変化させる必要があるのです。
そして、この体験提供型のビジネスモデルそのものが、「バリュージャーニー」です。
新規サービスの企画フェーズでは、まず理想のジャーニーの中でビジネスモデルを考えます。その後、ユーザテストを行ったり、市場にリリースし反応をもらったりする中で、より良い体験提供のために練り上げ続けるものがバリュージャーニーなのです。
バリュージャーニーとカスタマージャーニーはどこが違う?
バリュージャーニーはバリューチェーンとの対比で使われる言葉です。バリューチェーンは、製造から販売までのサプライチェーンにおいて、どこを戦略的に強化するかを考えるもので、あくまで製品販売型のモデルです。
これに対してバリュージャーニーは、一連のカスタマージャーニーにおいてどこでオンボードし、どこの価値提供に重きを置き、どこにキャッシュポイント(顧客から対価を得る機会)を置くかを戦略として考えるものです。
簡単にまとめると、カスタマージャーニーとバリュージャーニーの違いは以下の通りです。
① バリュージャーニーは、人々のどの「状況」をターゲットとするか定義されている。カスタマージャーニーはそうではない。
② バリュージャーニーは、事業側の業務プロセスも含めたうえでどこをキャッシュポイントとするか計画されている。カスタマージャーニーはそうではない。
バリュージャーニーについて、より詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
【参照記事】アフターデジタル型事業作り ~UX型DXの推進現場から
ジャーニーマップ設計支援による成功事例
ここからは、実際にビービットがたずさわった、ジャーニーマップ設計支援の事例をご紹介します。
【mediba】長い時間軸で体験をデザインし、ファンを生み出す
「auスマートパス・auスマートパスプレミアム」は、1,500万人もの登録ユーザーを抱える株式会社mediba様の月額制会員特典サービスです。会員に向けて、さまざまなクーポンや特典の配信、アプリの紹介などをしています。サービスの段階的なアップデートを決断し、ビービットはその方針策定プロセスをご支援していました。
まずNPS®(ネットプロモータースコア)の推奨度別にユーザの行動観察調査をするところから始め、調査の結果から導き出した仮説をプロトタイプに落とし込み、実際に使ってもらって検証を繰り返す「高速プロトタイピング」を実施しました。
【ディー・エヌ・エー】ヘビーユーザへの深掘りからコアなUXに高める
株式会社ディー・エヌ・エー様が運営する「マンガボックス」は、マンガアプリの中でもパイオニア的な存在です。競合アプリも増えて伸び悩みを感じるなか、立て直しを図るタイミングで、ビービットが今後の指針となるユーザ調査やカスタマージャーニー作成の支援をしました。
第三者としてユーザ調査を行い、ユーザのアプリの使い分け方法やマンガの嗜好といった多くの変数の中から、サービスに関連する事柄を的確に絞り込み、体験全体の流れと行動のきっかけを洗い出していきました。そして、「マンガ」という商材の特殊性に沿ったUX向上を支援していきました。
レポートのご紹介
カスターマージャーニーついてもっと知りたい、という方は、ぜひ弊社レポート「カスタマージャーニー百科 ービジネスモデル別つくり方解説」をご活用ください。
ビービットがこれまでの支援実績から得てきたナレッジと、実在する幅広い企業・サービスの事例分析を掛け合わせ、さまざまなカスタマージャーニーの可能性・拡張性を示しています。
本レポートを読むことで、「自社にとって最適なジャーニーを描くためにどこから考え始めればいいのか・どの方向へと考えを進めていけばいいのか」について、多くのヒントが得られるようになっています。
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