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【実例あり】行動観察とは? 調査と仮説構築の方法を解説

2022.01.17 Mon.

【実例あり】行動観察とは? 調査と仮説構築の方法を解説

サービスのUX改善において、「行動観察」は非常に有効な調査方法です。
今回はコンサルタントの実際の調査方法について触れながら、行動観察の概要と実施する上で重要なポイントとをお伝えします。

ユーザの行動を可視化する行動観察

行動観察とは、マーケティングターゲットの実際の行動を観察し、そこからターゲットの自然発生的ニーズを分析するマーケティングの調査手法です。
ターゲットの行動を直接確認することで、行動の結果だけでなく過程や価値観なども含めたデータを取得できます。

行動観察は、調査の主旨ごとに最適な方法を用います。
たとえば、店内でお客がどのように買いまわっているか調べるなら、移動ルートや視線、手に取った商品の観察をします。
開発アプリの利用状況を確認したいなら、ユーザがアプリを使っている様子をアイトラッキング等の活用をしつつ観察するといった具合です。

実際のところ、行動観察は、かなりコストがかかる手法です。候補者の手配に始まり、観察用の機材や調査室のセッティングなど準備が必要になります。なぜそうまでしてコストがかかるものを行う必要があるのでしょうか?

行動観察を行う目的

実は、行動観察の目的は商材・サービスのUIの課題がどこにあるのか理解するだけでなく、ターゲットとなるユーザを明確にし、行動パターン・行動原理を把握することにあります。

アンケート調査では満足度が高く、「この機能よく使っています!」と書かれていても、実際のユーザの行動を見てみるとほとんど使われていないことはざらにあります。そのような「言葉」ではなく、「行動」を追うことで、ユーザが実際にどう感じ、どのように利用しているのかを行動観察は教えてくれます。

加えて、行動観察ではユーザの状況を指定してサービスを利用してもらうため、ユーザの行動に影響を与える要素をより明確にできます。ユーザの特定の状況下での行動を観察することで、その行動の裏にある想いやニーズに対する深い洞察を得られる可能性が高まるのです。

行動観察の実践(事例から解説)

行動観察のイメージをつかむには、実際に調査の様子を見ることが一番手っ取り早いです。
そこで、ビービットの社員が実際に行動観察を実施した様子を紹介しながら、行動観察の要点を紹介します。

今回紹介するのは、とあるクライアント企業のアプリ利用についての調査です。
目的は、現状カスタマージャーニーの把握と改善案プロトタイプの検証です。
調査方法と調査時間は下記のとおりです。

  • 調査内容 クライアント企業のアプリ利用に関する調査
  • 調査目的 現状カスタマージャーニーの把握と改善案プロトタイプの検証
  • 調査方法 アプリ利用者に集まってもらい、リラックスした環境下で実際の利用風景を観察する。
  • 調査時間 80~90分

行動観察は事前の調査設計が8割

行動観察でもっとも大切なのが事前の調査設計です。この調査設計が8割と言っていいほど重要で、事前準備の精度によって調査結果が実りあるものとなるか否か決まってきます。

行動観察はターゲットの行動をそのまま記録するものですが、調査の目的や仮設を持たないまま調査を行うと調査視点の無い、漠然とした結果になってしまいます。そのため、調査によって「何を明らかにしたいのか」を明確にしておき、その時点での仮説を立てておきます。

仮説があれば、仮説と異なるターゲットの行動を見れば、その場で疑問や発見が生まれます。
さらに、仮説との答え合わせをしながら調査に臨めるため、ゴールへの道筋をイメージしやすいメリットもあります。

調査の際に注意していること

事前準備ができたら、実際の調査に移ります。
今回のケースでは、アプリ利用者に実際にアプリを使ってもらうという形式で調査を行いましたが、調査の根本にかかわる注意点が1つあります。

それは、ターゲットの行動を「純粋に観察すること」です。こちらから意見を聞き出そうとすると、ターゲットの言動に調査者の意図が混入してしまいます。あくまでターゲットから自然発生する行動のデータを記録することが目的であるため、聞きたい気持ちを我慢して観察に努めましょう。

この調査ではアプリの使い方やアプリ利用による変化などのヒアリング調査も行いましたが、こちらもあくまで事実ベースでの聞き取りとしています。

調査後の振り返りは現場の共有でスムーズに

調査終了後は、クライアントと調査結果を共有しながら振り返りミーティングを行います。このケースでは、クライアントにも調査の様子を別室から確認してもらっていました。こうすることで、情報共有がスムーズになります。

振り返りの論点は下記の3つです。

 1. モデレータの立場から、調査結果や所感を改めて共有し、すり合わせる
 2. クライアント自身の考えや気になったことを述べてもらう
 3. 調査結果を踏まえたうえで論点を整理し、プロジェクトの方向性がブレないように意識を合わせる

クライアントに同席してもらうことで、ターゲットの細かい挙動レベルで意見交換ができるようになります。同席のメリットは、店舗やイベントといった、ターゲットだけでなく周辺環境の共有も重要なケースでより大きくなると考えられます。

クライアントとコンサルタントが、共同でプロジェクトを推進している実感を得られるのもメリットの一つです。振り返りのあとは、次回の調査までに修正しておきたい点を話し合い、実際の修正作業に入ります。

ビービットのユーザ行動観察について詳細が知りたい方はこちらをご覧ください。
体験設計の要、ユーザ行動観察調査の進め方とは:エクスペリエンスデザインコンサルタントの一日

デジタルサービスにも行動観察を

ここまでは通常(リアル)の行動観察を紹介してきましたが、デジタルでもユーザの行動観察は可能です。
そこでまずは、リアルとデジタルとで行動観察がどう異なるのかご紹介します。

リアルとデジタルとでの行動観察の違い

  • リアル
    ・あくまで仮の状況
    ・短期の行動が限界
    ・ハイコスト…リニューアルなどに向いている
  • デジタル
    ・リアルな状況
    ・長期の行動を追える
    ・ローコスト…日々の改善に向いている

リアルで行われる行動観察は、特定の環境を整え、ヒアリングを行った上でユーザが実際に利用する場面の再現を行う点で、あくまで仮の状況と言えます。そして、一般的に1回のユーザ行動観察にかけられる時間は80~90分程度のため、短期での行動を追うのが限界です。

デジタルでの行動観察では、サイトやアプリをユーザがどう使っているか、行動データを蓄積・可視化できるので、サービス上の動きとしてはリアルであると言えます。また、顧客IDを取得することで長期的な行動を追えます。

ただ、単純にどちらが優れているというわけではありません。
たとえば、リアルの行動観察は高コストな一方で仮説の精度を高めてくれるので、失敗できないリニューアルの初期段階に有効です。デジタルの場合、安価で長期の行動が追えるので日々の改善に向いています。

行動データが可能にする顧客の行動観察

デジタルはデータが取れると言われて長い年月が経ちましたが、集計されたデータを有効に活用できている企業はそう多くありません。
ここではその理由と行動観察がその課題の解決に役立つ理由とを紹介します。

アクセス解析によるUX改善の限界

アクセス解析は多くの場合、サービスのUX改善のために行われるものですが、このとき重要なのは改善のための仮説を立案するプロセスです。
アクセス解析によるUX改善が失敗する原因の多くはこの仮説の精度にあります。

定量分析とデジタル行動観察の違い
引用元:https://markezine.jp/article/detail/26349

アクセス解析は「どのように行動するか」という行動パターンを把握することは出来ますが、「なぜその行動をとったのか」まではわかりません。
なので、課題の原因が曖昧なまま「どう改善するか」を考えてしまった結果、仮説の精度が下がってしまうのです。

一方で、行動観察は、ユーザがなぜその行動をとったのかという行動原理を掴むのに適しています。
アクセス解析と掛け合わせることでUX改善をより効果的に行うことが可能になります。

「想定外」を見つけ、成果向上につなげる

行動データを使いお客様一人ひとりの動きを観察していると、ときに自分たちが想像もしていなかったアクションをとっていることが多々あります。ここでは株式会社エステティクス様の事例を紹介します。

エステティクス様は、これまで自社サイトの改善にGoogle Analyticsのデータをもとに仮説検証を行っていましたが、出てくる数値とリアルなお客様の声とずれているのではないかと悩んでいました。

そこでデジタル行動観察を行った結果、社内で想定していた理想的な画面構成・行動シナリオが、実際のユーザには使いづらく、いちいち検索エンジンに戻って商品ページに移動していたことが判明しました。このユーザの困りごとを発見した後、UIを大幅にリニューアルしたことで売上が大きく伸びたそうです。

参考事例:株式会社エステティクス様 | まだデータ分析で消耗してるの? デジタル行動観察による直感的UX改善で 売上140%の化粧品ECに迫る

マーケティング施策の改善につなげる

デジタル行動観察では、ユーザが行動した際の「順序」や「流れ」に注目し、CVに至った要因・至らなかった原因を把握し、流れの中の悩みを解決する施策を考えます。
ビービットではこのようなデジタル行動観察の手法をシーケンス分析と呼んでいます。

行動観察をUX改善に活かすシーケンス分析とは
引用元:https://www.bebit.co.jp/usergram/memo/article/extra-01/

シーケンス分析を用いてユーザの行動を観察することで、これまで見えていなかった/想定していなかったユーザ行動に気づき、よりお客様の状況に合わせた施策を考えることができます。

一人ひとりの顧客行動を詳細に観察し仮説構築に役立てる

ターゲットの詳細なデータを収集できる行動観察は、リアルとデジタル上のどちらにおいても、顧客に寄り添った企画立案に有効な調査方法です。

ビービットの提供するUXチームクラウド USERGRAMは、自社サービスに訪れた顧客一人ひとりの行動を時系列に沿って把握できるデジタル行動観察ツールです。

顧客の行動をそれぞれ観察してくことで、ユーザが「なぜその行動をとったのか」という原因に直感的にたどり着くことができます。
UX改善にお悩みの担当者様、どうぞお気軽にご相談ください。

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