本・CD・DVDをはじめ、洋服・ブランド品・小型家電など幅広い商品のリユースサービスを提供するブックオフグループ。顧客視点でのサービスづくりを加速させるため、ユーザ行動分析・UX改善SaaS「USERGRAM」を活用し、UXのプロフェッショナルが伴走するグロース業務支援ソリューション「UXグロースOps」を導入しました。 なぜUXグロースOpsを選んだのか、どのような効果があったのか。同社の買取サービスにおけるユーザ体験向上の活動に携わる3名と、支援を担当したビービットのコンサルタント2名に話を聞きました。
ブックオフコーポレーション株式会社
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- ECセンターサービス企画部長
- 小寺 英行 様
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- ECセンターサービス企画部 サービス企画グループ EC企画推進チーム
- 和田 由夏 様
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- 買取戦略推進室長
- 大川 通範 様
株式会社ビービット
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- UXインテリジェンス事業部 UXグロース部 コンサルタント
- 岡田 洸也
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- UXインテリジェンス事業部 UXグロース部 コンサルタント
- 藤井 瑞賀
顧客視点のインストールで、買取サービスのリピーターを増やす
ー2019年から「USERGRAM」を導入されていますが、その背景を教えていただけますか?
小寺 英行様(以下、小寺様):リユース業界のリーディングカンパニーを目指すブックオフグループが、商品軸から顧客軸へと転換するために、必要なサービスであると考えたからです。
ブックオフグループはこれまで、事業KPIに基づいた商品を軸にした指標に重きを置いてサービス改善を行ってきました。しかし、2018年ごろから顧客視点での事業づくりを全社戦略として掲げ、お客さまのリユース体験向上に主眼を置くようになったのです。
私はオンラインから申し込んでいただく「宅配買取」というサービスを担当しているため、まずはサイト上のユーザ行動の可視化と分析が行える「USERGRAM」を導入しました。
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ーそこから4年後、UXのプロフェッショナルが伴走するグロース業務支援ソリューション「UXグロースOps」も導入されています。その理由を教えてください。
小寺様:継続的な活動として体験向上に取り組めるようにするためです。
お客さまの体験向上のためには、実際の行動データを分析し、施策実行と検証を繰り返すことが重要なことは分かっていました。しかし、人員的な問題でなかなかやり切れない状況が続いていたのです。結果、従来の広告やキャンペーンを中心とした獲得重視型の施策しか手をつけられていませんでした。目先の成果を求める施策ばかりでなく、未来のブックオフをつくるための取り組みをスタートさせなければと考えていました。
大川 通範様(以下、大川様) とくに顧客視点が重視されるようになった背景には、新型コロナウイルスの感染拡大による当社の落ち込みがありました。
私は、お客さまに品物をお持ち込みいただく店舗買取を担当しているのですが、新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、サービス利用者が激減し、その後もお客さまが戻ってこない状況が続いていました。「どうしたらまた利用してもらえるか」を考えた時、事業者側だけの視点ではクーポンの配布や買取金額のアップといった近視眼的な施策に走りがちです。
そうではなく、お客さまが”売却”という行動に至る心理を解明し、本当の意味で顧客視点の施策を打てるようにしたかったのです。その知見を得るために、ビービットさんにお力添えをいただくことになりました。
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目指すべきユーザ体験が、改善施策の優先度を決める
ー具体的にどのようにUXグロース活動を進めているのでしょうか?
和田 由夏様(以下、和田様):まず、データ分析やユーザ調査を通して、お客さまが買取サービスを初めて利用してからリピートするようになり、ファン化に至るまでの理想的な行動の流れを「ロイヤリティジャーニー」として可視化し、各ステップでブックオフが提供したい体験を整理しました。
デジタル接点の体験向上から始まった活動でしたが、大川の所属する店舗側の部門を巻き込むことで、リアル接点まで範囲を広げて検討できるようになったのは大きかったです。
大川様: そうでしたね。これまでも、入店から退店まで、といった店舗に閉じたお客さまの行動の流れを考えることはありましたが、今回ほど横断的に、そして精緻に考えたのは初めてでした。
ビービット岡田:年単位の時間軸で、ライフイベントまで踏み込んで可視化していきました。ブックオフさんのお客さまは、サービスの利用の仕方や頻度が多様です。高頻度で利用する本好きの方もいれば、半年に一回利用するかしないかの方もいらっしゃいます。
そういった中で、サイトに訪れているお客さまのうち高頻度利用者と低頻度利用者の割合はどれくらいなのか、どのアイテムカテゴリが最も関心があるのか、などのユーザ行動傾向をUSERGRAMで明らかにしていきます。
これらの傾向分析をふまえたジャーニーの可視化を通じて、「どのような人に、どのように利用されることを目指すのか」を議論し、その上でKPIの設計を進めました。
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ビービット藤井: 活動の土台を固めた後は、ロイヤリティジャーニーの各ステップに進むのを阻害する要因を考え、仮説に基づく施策の立案、実装、検証、というPDCAを何度も繰り返しました。
たとえば、初回利用開始時のボトルネック分析では、会員登録完了の手前まで来ているのにその先に進んでいないユーザや、登録は完了しているのにサービス利用に至っていないユーザが一定数いることが明らかになりました。そうしたユーザの行動を分析し、阻害要因を突き詰め、サイト改修時の実装内容としてご提案しました。
和田様: なかなか開発スピードが追いつかない時期もあったのですが、最初に決めた活動指針とUSERGRAMによるお客さま一人ひとりの行動データと全体の定量データを基に、対応するべき課題や施策の優先順位を整理してご提案いただけたのが、大変ありがたかったです。
成果向上の下地ができ、CVRは131%増加、LTVも右肩上がり
ーUXグロース活動を通じて、現時点で実感している成果があれば教えてください。
和田様:総じて、KPIであるLTV(Life Time Value)が向上し、直近1年間でお客さま一人あたりの買取総額は7605円から7923円にアップ、年間平均利用回数も大幅改善しています。
とくに効果が出た施策としては、申込フォーム改善があります。平均申込率が68.1%から72.3%へと4.2ポイント増加し、その後も7割前後の高い水準をキープできています。また、半年ほど前にリリースしたLPは昨年対比で131%のコンバージョンがあり、社内総会でも報告させていただいたほどの高い成果となりました。
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大川様:数字の上で大きな成果が出た背景には、ジャーニーマップ作成により施策設計の方向性を定められたことが大きいと考えています。
これまでは、施策アイデアが先行し、ユーザ体験の何を改善する施策なのか不明確なこともありました。行動データという明確なファクトによる指針があるおかげで、顧客視点に立脚した施策を生み出しやすくなりました。
小寺様:やるべきもの、やらないものの仕分けができるようになり、コストも適正化されていると思います。数値の右肩上がりをキープする下地ができたというのは、非常に大きな成果です。
グループ全社に、顧客視点が根付くきっかけに
ー社内の意識に変化はありましたか?その理由も含めて教えてください。
和田様:商品軸から顧客軸に大きく変化してきたと感じます。ビービットさんと行なったユーザ調査の映像を、他の関連組織のメンバーに見てもらうための上映会を開いたのですが、これがとても好評でした。今まで経験則から「お客さまはこういう人に違いない」と決めつけていたところがありましたが、想像上のユーザをある意味壊されたことで、実際のお客さまに向き合う必要性を組織を越えて実感することができたように思います。おかげで、他部門から協力を得る際もスムーズになりました。
実は、ビービットさんとの定例ミーティングにも、「学びが多いので参加させてほしい」と他部門からの出席メンバーがどんどん増えてきているんです。その分、スケジュール調整は大変になっていますが(笑)。
ビービット岡田:ブックオフさんの場合、他部門からの参加者も画面をONにして積極的に発言されますよね。普通であれば一旦持ち帰って他部門に確認を取っていただくという流れになることが多いですが、ブックオフさんのミーティングでは、その場でディスカッションして次のアクションを決められる。皆さん、当事者意識が非常に高いなと思います。
小寺様:それもユーザ理解が進んだからこそです。たとえば、「宅配買取サービス」と「店舗買取サービス」は、担当部門が違います。接点ごとの短期的なKPIだけ見ると、お客さまの奪い合いが起こりやすい構造でした。
しかし、USERGRAMを使ったユーザ行動の分析やユーザ調査を通じて、宅配も店舗も両方を使ってくれるお客さまは、リピーターになりやすいという事実が分かったのです。これによって部門間のお互いの見方が変わりました。
ビービット藤井:過去の店舗での良い体験が、宅配買取の利用につながっていく。調査や分析を通じて、お客さまとの接点の長さやつながりの深さに触れることが多く、ブックオフさんが信頼を積み重ねている証拠だなと改めて感じました。
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大川様:ありがとうございます。リユース事業を30年以上やっていますが、未だに「売る側の心理」の解明はできていません。分からないというのは、苦しいことです。この解明に向けて、ビービットさんが根気強く伴走してくれているというのは、私たちにとって本当に心強いことなんです。
たとえば、弊社とのミーティングの前に、ビービットさんの中でたくさんの議論を重ねていただいていることが、アウトプットやミーティングの場からすごく分かります。そうすると「私たちも、もっと頑張ろう」と思えるんですよね。
サービス全体をつなぎ、お客さまへ最高のリユース体験を
ー最後に、今後の展望について教えてください。
小寺様:買取サービスのユーザ体験向上に引き続き注力しつつ、販売サービスを含めたリユース全体の利便性を高め、よりシームレスで快適な体験を提供できる仕組みづくりに取り組んでいきます。
和田様: 同感です。お客さまからしたら、オンラインでもオフラインでも、買取でも販売でも、ブックオフはブックオフです。ブックオフグループが提供するサービス全体の利便性を磨き、より良い体験が提供できる組織でありたいと思っています。
大川様: さらに、これからもブックオフが、お客さまの日常に存在し続けられるよう、時代に合わせたサービスのあり方を問い続けられればと考えています。
そもそもブックオフは、「古本のコンビニ」を目指し、中古本の売買が当たり前でなかった時代に生まれました。新しい日常として定着してきた一方、最近は、これまでとはまた違う「当たり前」が求められるようになっていると感じています。
同時に、我々が提供してきたサービスの「変わらない良さ」を見失わないようにとも思っています。ビービットさんとの取り組みのなかで、その想いはいっそう強まりました。とある音楽好きの会社員のお客さまは、学生時代にブックオフで音楽に出会った体験があるから、自分がCDを手放すときはブックオフに持って行く、と話をしていました。ブックオフを介して、知らない人に自分と同じ感動を与えたいと考えていらっしゃったのです。
サブスクからのレコメンドだけでは生まれない「偶然の出会い」は、全国に多くの店舗をもつブックオフだからこそ提供できる体験の一つだと思います。これからも、顧客視点を軸に、私たちにしか生み出せない体験を、多くの方に提供し続けたいです。