第46回 成果アップの期待に応える!「伸びシロのツボ」発見のヒント
「伸びシロのツボ」を押さえ方や、検証サイクルを回しつつ施策展開を行うポイントについて解説します。
本コラムのサマリ
- ウェブサイトで成果を伸ばす難易度は上がっている。
- 「伸びシロのツボ」を押さえた上で、そこでどのような施策展開が効果的なのか、検証のサイクルを高速で回していくことに集中できる企業が、今後成果を伸ばし、勝ち残る可能性が高い。
- 「伸びシロのツボ」は簡便に発見することができる。
ウェブサイトで成果を伸ばす難易度は上がっている
「成果が上がらない、上げ辛くなってきている」
にも関わらず、
「社内での期待値はあがっている」
という状況に見舞われているウェブサイト担当部門の方も多いのではないでしょうか?
近年、企業の戦略を考える上で重要度が増しているウェブサイトですが、実際、ウェブサイトで成果を上げる難易度は上がってきているといえるでしょう。主だった理由としては、以下のようなものが挙げられます。
成果を伸ばすには、より多くの工数を投入すれば良いのか?
ではどうすれば社内の期待に応え、成果アップを実現していくことができるのでしょうか?ここで、1つのシンプルな仮説について考えてみましょう。
「今後、ウェブサイトで成果を伸ばしていくためには、これまでより多くの工数を投入していく必要がある」
こういう形で仮説を提示すると、「どうせ違うんでしょ」と思われる方が多いかと思いますが(笑)、例えば、最近流行りつつある「自社サイトのメディア化」など、新しいテーマに取り組む場合は、ある程度工数を掛けていく必要があるでしょう。
まだ未開の分野で競合よりも抜きん出て、成果アップにつなげていこうと思えば、やはりそれなりの工数が掛かってきます。
しかし一方で、工数を掛けたからといって成果が確実に上がる、ということでもありません。それは、このコラムを読んでいらっしゃる皆様が肌身に感じていらっしゃることかと思いますが、
「約1年弱掛けてサイトのリニューアルを行い、新しい機能やコンテンツを色々と搭載してみたが、全く成果があがらない」
「成果をウォッチしながらPDCAサイクルをまわしているが、一向に成果アップのきっかけが掴めない」
このようなお話に強く同調される方が圧倒的に多いのではないでしょうか。
(参考)効果的な施策を妨げる主なケース
- 最新の機能・技術に飛びついてしまうケース
(ユーザ行動に即した使い方ができていないと、無駄な投資に終わります) - システム、営業部門など他部署との調整を優先せざるを得ないケース
(貴社ユーザにとってのウェブサイトの位置付けが不明瞭だと調整は難航します) - 自分達が伝えたいことを全面に押し出してしまうケース
(ユーザの関心が薄い内容は、簡単にスルーされてしまいます) - 過去のデータにとらわれてしまうケース
(自社のデータだけ見ていても、発展性のある施策には結びつきにくいものです)
「伸びシロのツボ」を意識する
では、どのように成果アップを実現していけばよいのか?本コラムでは一つの「ヒント」を提示したいと思いますが、まず、比較的少ない工数で大きな成果が上がる以下のような事例があることをご紹介します。
例1)「TOPページでエントリー・購入系のボタンを右上から左上に置き換えただけで、数十%成果が上がった」
例2)「資料請求フォームにアポイント日程を任意で追加したら、約1/3の方が入力をしていただき、その日程でアポイントを設定するようにしたら、結果として成約率が10%以上改善した」
このような改善事例の特徴は、「伸びシロのツボ」を押さえているということです。「伸びシロのツボ」自体、サイトの中に数多くあるわけではありませんが、そのツボを押さえた改善が実施できると、一見小さな施策でも、非常に大きな成果アップに結びつきます。
一方、逆に、このツボを外した施策は、いくらやっても全く成果アップにつながらない、といっても過言ではないでしょう。
では、次に「どこが伸びシロのツボなのか?」が大きなポイントになると思いますので、その点について以下解説をしていきます。
「伸びシロのツボ」をユーザ視点で発見する
「伸びシロのツボ」は果たしてどこにあるのか。ユーザのサイト上での行動を丁寧に見ていくと、そのツボが見えてきます。
そのツボで効果的な施策を打つと、ユーザを上手くビジネスゴールに誘導できる可能性が大きく広がるのですが、具体的には、
- 1. ユーザがふと立ち止まる場所(注目する場所、判断する場所、悩む場所)
- 2. ユーザがさっと流してしまう場所(あるいは気がつかない場所)
のうち、「ユーザがふと立ち止まる場所」が伸びシロのツボにあたります。ユーザがふと立ち止まり、その場所でタイミングよく、ユーザニーズに合致した提案ができると、ユーザは思いのほかスムーズにビジネスゴールに進んでくれるのです。
言われてみると、当たり前でしょうか。しかし、この場所に工数を集中して施策を打つことはなかなか難しいものです。
なぜなら、ウェブサイトは目の前にユーザが見えないチャネルであるため、ユーザの立ち振る舞いに対するリアルなフィードバックがなく、「ユーザはこのようなものだろう」という思い込みでサイトを作りがちだからです。
しかし、この思い込みで作られるサイトでは往々にしてユーザの行動パターンに沿った提案ができておらず、多くの工数を掛けたとしても結果を残すことができないのです。
「伸びシロのツボ」の具体例
では、「ユーザがふと立ち止まる場所」とはどういうところでしょうか?これも大きく2つに分けてご説明をしていきましょう。
まず、
「自然とユーザが立ち止まりやすい場所」
というものがあります。具体的には、以下の場所などが該当します。
多くの場合では、この場所に何を置き、何を提案するか、またどれだけわかりやすく説明するか、でサイトの成果が大きく変わります。ユーザニーズに沿った提案・説明ができれば(※)、一定の意向を持ったユーザはスムーズにビジネスゴールに向かって行ってくれますし、逆にユーザニーズを外した提案しか出来なければ、そのロスは極めて大きいといえるでしょう。
(※注)
この部分について、「提案・説明を追加(または改良)する」、というイメージをもたれる方が多いかもしれませんが、弊社がコンサルティングを行っている現場では、逆に、冗長な提案・説明を省いたり簡略化する、という対応の方が良いページも見かけます。
追加・改良には工数が掛かることも多いでしょうが、省いたり簡略化するのであればそこまで時間は掛からない、ということもあるかと思いますので、冗長な説明・提案になっているところがないか、という視点でもサイトを確認をしてみてはいかがでしょうか?
次にもう一つ、
「人工的に上手く創り出すと、ユーザが立ち止まりやすくなる場所」
というものもあります。具体的には、以下の場所などが該当します。
これは、「自然とユーザが立ち止まりやすい場所」に比べると「自ら創り出す」という要素が加味される分難易度があがりますし、一定の工数を掛けながら、仮説立案⇒検証のサイクルを回し、発見をしていくものでしょう。
ただ、例えば現状あるコンテンツでよく見られるものを軸に施策を検討することなどは出来ると思いますので、一度社内でアクセスデータなど、確認をしてみてはいかがでしょうか。
例えば、
- BtoBのビジネスにおける「事例・実績」
- 不動産業界における「外観・間取り」
- 求人情報における「職務内容・職場風景・応募条件・待遇など」
- 通販業界における「商品画像」
など、ユーザの興味関心度が高いコンテンツは、ユーザをゴールにスムーズに導く重要な「場所」といえるでしょう。
「伸びシロのツボ」が分かってきたら...
「伸びシロのツボ」が分かってきたとすると、つい、色々と施策を盛り込もうと欲張りたいものですが、いくら「ユーザがふと立ち止まる場所」であっても、もともとウェブサイトは可読性が低いメディアですので、そこまで多くの施策は視認されないと思ってください。
加えて、例えば消費者がコンビニで清涼飲料水を選ぶときの所要時間がたった2秒であるように、ユーザの判断は直感的、刹那的ですので、以下の点についてご留意ください。
「伸びシロのツボ」の「どこに」「何を」「どのように」置くのか。細部に魂が宿るところ
(一発でビジネスゴールに誘導できるわけでもないので)そのツボを基点に、どのようにユーザを導いていくのか、導線設計も大事
具体的にどのようにするべきか、についてはサイトごとに対応が異なるのですが、より成果の上がる解を見つけるには、実際のユーザにサイトを使用していただき、検証を繰り返すのが一番です。
弊社が行っているプロトタイプを用いたユーザ行動観察調査は、スピーディーに検証⇒改善を繰り返すことができるため、比較的高い成果アップを実現することができています。また、ABテストやレコメンドルールを変更しながら、検証を繰り返すことも優れた手法といえるでしょう。
要するに、高速でユーザ検証のスパイラルを回していくことが重要で、いかに質の高いスパイラルを数多くまわせるかが、今後の勝敗の分かれ目といっても過言ではありません。
ただ、効果検証のスパイラルを回すにも工数が掛かります。「伸びシロのツボ」を見つけてからも、工数が掛かるものなのです。だからこそ、効果があがらない場所に工数を掛けている場合ではなく、「伸びシロのツボ」に工数を集中させるべきなのです。
あなたの企業では、限られた工数を適切に「伸びシロのツボ」に集中させることができていますか。今後のビジネスプランを設計する中でぜひ検討をしてみてください。
補足:「伸びシロのツボ」を簡便に見つける方法
なお、「ユーザがふと立ち止まる場所」は、アイトラッキングツールを利用すると発見がスムーズですが、社内で発見するには、社内の人に普段使う感じでサイトを利用してもらい、その様子を何人分か観察をしていくだけで、ある程度わかってくるものです。また、補足的に気になった点についてヒアリングもしていくと理解が深まります。ぜひお試しください。
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執筆者:上岡 倫彦
株式会社ビービット ユーザビリティコンサルタント