ロイヤルカスタマー予備軍を見落としていませんか? ~ 消費財メーカーサイトが陥りがちな落とし穴
ウェブの重要性の高まりは消費財業界も例外ではなく、ウェブ活用に真剣に取り組み始める企業が増えてきている。しかし、「O2Oキャンペーン」や「ソーシャルメディア活用」などの施策に目を奪われて、「誰がユーザか」を十分に検討できていない取り組みも多い。本稿では、消費財メーカーのウェブサイトに対して弊社が実施したユーザ行動観察調査の結果をもとに、消費財メーカーのウェブサイトが本当に大切にすべきユーザについて考えたい。
目的があいまいな消費財メーカーのウェブサイト
「お金をかけてウェブサイトを運用しているのですが、本当に役立っているのかどうか、実はよく分からなくて...」
「キャンペーンに合わせて更新しているうちに、どんどんゴチャゴチャしてきて...」
消費財メーカーのウェブ担当者の方にお会いすると、このような悩みをよく耳にする。ウェブサイトの目的や成果指標がはっきりしないまま、コンテンツばかりが溢れてしまっているケースは多い。
消費財のプロモーションはブランディングやキャンペーンを中心に検討される傾向が強く、「とにかくブランドイメージを強く押し出してユーザに認知して欲しい」、「キャンペーンの受け皿となるようなサイトにしたい」といった要望が先行しやすい。
その一方で、「誰がウェブサイトに来ているか」、「ウェブサイトの目的は何か」といった議論は置き去りにされがちである。
「検討はウェブで」購買行動の変化
ウェブが登場するまで、消費財の購買行動はテレビCMや店頭で製品名を認識し、友人・知人の口コミなどをもとに検討、店舗で購入というステップが一般的であった。しかし、ウェブの登場によってユーザの購買行動ステップは変化をみせている。
認知・購入のステップではテレビCMや店頭の役割が依然として重要だが、検討のステップでユーザがウェブサイトに訪れることが多くなっているのだ(図1)。購入検討の際に消費財メーカーのサイトを利用するユーザは、製品の利用者数の2割以上に達するケースもあり、ビジネス的にも大きなインパクトを持ち始めている。
このような状況で、サイトに訪れるユーザをあいまいにしたまま運用することは大きな機会損失となりうる。自社のウェブサイトに訪れているユーザを把握し、ビジネスに貢献するコミュニケーション方針をきちんと立てることが求められているのである。
では、消費財メーカーのウェブサイトに訪れているユーザは、はたしてどのようなユーザなのだろうか?
キャンペーンユーザに隠れて見えない、ロイヤルカスタマー
消費財メーカーのウェブサイトに訪れているユーザで、まずはっきりとイメージできるのはキャンペーンに関心を持ってやってくるユーザである。つまり、店頭やCMと連動して行われている「モニター募集中!」「サンプルを抽選で○○名さまにプレゼント!」といったキャンペーンに関心を持ってウェブサイトに訪れるようなユーザだ。
多くの消費財メーカーのウェブサイトは、実はこういったユーザにとってはある程度、使いやすいものになっている。前述のように、キャンペーンやプロモーションの情報を押し出しているウェブサイトが多いからだ。こういったユーザがウェブサイトに訪れる目的はもちろんキャンペーンへのエントリーであり、ほとんどのユーザはそれが済むと離脱してしまう。
サンプリングは消費財のマーケティングにおいて伝統的な手法であり、確かに一定の効果が見込める。しかし、これらのユーザの多くは単に「おトクな情報」に関心があり、ブランドに対する興味・関心は必ずしも高くない。キャンペーンユーザは長期的な顧客にはなりにくいのが実情だ。
ウェブサイトを訪れるユーザは、こういったキャンペーン目的のユーザばかりなのだろうか?
実は、そうではない。社内で話題に挙がりやすいキャンペーンユーザに隠れて見落とされがちだが、キャンペーンユーザとはまったく異なるユーザがウェブサイトに訪れているのである。それはブランドに関心を持ってやってくるユーザであり、ある製品ではウェブサイト来訪者の約半数がこのようなユーザであることが分かっている。
これらのユーザにウェブサイト訪問の目的をヒアリングすると、
友人が感想を話していたため、どのような成分が使われているか/実際の利用者の声がないかをチェックしたいと思った
CMのタレントが変わったので、製品も何か変わったのかなと気になった
といった答えが返ってくる。こういったユーザは製品に明確な関心を抱いているため、製品やその関連情報も深く見ていこうとする。もちろん、キャンペーンユーザに比べてロイヤルカスタマーになる可能性がはるかに高い。
真に大切にすべきは「ブランドに関心があるユーザ」
消費財メーカーがウェブサイトの運営を考える上で大切にすべきユーザは、見逃されがちな「ブランド・製品に関心を持ってくるユーザ」であろう(ここではロイヤルカスタマー予備軍と呼ぶ)。
しかし、一般の消費財メーカーのウェブサイトはプロモーション情報が多く、ロイヤルカスタマー予備軍が欲している情報がすぐに手に入らないことも多い。その結果、彼らの購買意欲を高めることができず、大きな機会損失が発生している(図2)。
こうしたロイヤルカスタマー予備軍の存在をきちんと考慮し、彼らの購買行動を後押しするようなウェブサイト設計を行えているかどうかが、ウェブサイトがビジネス成果に貢献できるか否かの鍵である。
ここでお伝えしたいのは、キャンペーンやプロモーション情報が無意味であるということではない。キャンペーンやブランドイメージにこだわるあまり、本当に大事なロイヤルカスタマー予備軍を見落としてしまうことは企業にとって大きな機械損失になるということだ。
最後に、ロイヤルカスタマー予備軍のニーズを踏まえたウェブサイト設計上の具体的な注意点をいくつか紹介したい。
●「キャンペーン情報」だけでなく、「製品情報」にもすぐアクセスできるようにする
消費財メーカーのウェブサイトは、ブランドイメージやキャンペーンのクリエイティブが全面に押し出され、どこに何の情報があるのかが分かりづらいケースが多い。ウェブサイトにおいては、目に入らない情報は「無い」のと同じである。これでは、本当は情報があるにも関わらずユーザには気づかれず、離脱を招いてしまう。
ロイヤルカスタマー予備軍は、基本的に製品を想起してウェブサイトを訪れている。入り乱れがちなキャンペーン情報と製品情報を区別して整理し、ロイヤルカスタマー予備軍がすぐに製品情報にアクセスできるようにしておきたい。
●コンテンツ内にリンクを配置し、文脈に合わせて誘導する
ウェブサイトの中には、「ユーザはナビゲーションに沿って情報を見てくれる」と考え、ナビゲーションメニューを整理して満足しているものをよく見かける。しかし、ナビゲーションは目的の情報をページ内で見つけられなかったユーザが利用するものであり、ナビゲーションメニューから情報を探している時点で、ユーザの情報収集意欲は低下していることも多い。
弊社が調査したところでは、ロイヤルカスタマー予備軍は製品に関心があるとはいえ、最初はざっくりと「製品情報を見たい」と思っている程度のことが多い。そのようなユーザに、単なるカタログ的なナビゲーションメニューを用意しても、なかなか見てはもらえない。
ユーザに見てもらおうと思うのであれば、例えば、製品成分の表示ページから成分の効能紹介ページへ、または効能紹介ページから効果的に効能を引き出すための使い方を説明するページへ適宜リンクを配置し、文脈に合わせて誘導することが重要になる。
●「新しい気づき」を提供し、ブランドを好きになってもらう
ロイヤルカスタマー予備軍は、ウェブサイトで「この製品を買うべきか」を吟味している。
そのため、製品の独自性を伝えることはもちろん重要だが、当たり前の情報を伝える場合でも、表現を工夫することで製品に対する印象を高めることができる。
例えば、シャンプーの使用方法の説明に「シャンプーの前に髪をじっくり濡らしましょう」と書いてあったとする。しかし、シャンプーの前に髪を濡らすことはユーザにとって当たり前で、特に印象には残らない。
この表現を「シャンプーの前に1分間、濡らすのがポイント」と工夫すると、ユーザには「1分くらい濡らさなきゃいけないんだ」という「新しい気づき」があり、ウェブサイトを見ていて役立つ情報があったという印象を残すことができる。比較的、低価格帯の消費財の場合、このちょっとした印象の差が購入する製品の違いにつながることもある。(図3)
情報の与える印象は、ちょっとした表現で大きく変わる。ユーザに「新たな気づき」を与える工夫をこらすことでウェブサイトの印象がよくなり、製品に対する印象にもよい影響が期待できる。
本稿が消費財メーカーのウェブサイト活用を考える一助になれば幸いである。
執筆者:三木 順哉
株式会社ビービット コンサルタント
東京大学大学院理学系研究科修了後、ビービット入社。飲料メーカー、通信事業会社、金融機関、教育サービスなど、大手企業を中心にデジタルマーケティングのコンサルティングに携わる。特に、ウェブサイトの戦略策定やリニューアル、ウェブサイト立ち上げのプロジェクトに多数従事。ビービット独自の方法論をまとめた書籍「ユーザ中心ウェブビジネス戦略」(ソフトバンククリエイティブ、2013年)共著者。