アプリは開発するのも大変ですが、リリース後の運用において成果を出すことが本丸であり、不断の磨き込みが必要となります。
この記事では、アプリのグロース(成長)について、3つの事例をもとに、アプリの磨き込みに必要な分析の手法について解説します。
アプリにおけるグロースとは
アプリをはじめとするサービスの成長モデルとしてもっともよく用いられるフレームワークはAAARRモデルと呼ばれる5つの指標です。
① 獲得(Acquisition)
② 活性化(Activation)
③ 継続(Retention)
④ 紹介(Referral)
⑤ 収益(Revenue)
アプリの運用ではこの数値を運用において向上させていくことがメインの取組になります。
しかし数値を増やすだけではアプリグロース活動とはいえません。
アプリが「グロースする=成長する」とは、このAARRRモデルを参考にしつつ、それぞれの改善のためにアプリのコンセプトまでをもよりユーザに訴求する形へと磨き込んでいくことを指すからです。
では、アプリをグロースさせるために、この5つの指標でまず注視すべきものはどれでしょうか?
グロースの観点で注視すべき数値は ②のアクティブ活性化=DAUの増加 です。アクティブ数を増やすことがアプリグロースの基本であると言ってもいいでしょう。
アクティブ数を増やすためには、アプリの顧客体験(UX)の改善が必要です。
そのためにもっとも重要なのが、現状把握です。
どういう人が使っているのかを把握することで、
「アプリのなにがメリットに思ってもらえているのか」
「その観点で現状の設計はどうなのか」
「次の打ち手としてどのような施策が最適か」
を考えることができます。
では、アプリのグロースのために現状把握を行うにはどのような活動をすればいいのか。
よく参考にされる書籍が『Hackig Growth』です。
弊社ではアプリグロースを支援するサービスとしてプロが並走するUXグロースコンサルティングを提供していますが、その支援のなかでも『Hackig Growth』の方法論を一部下敷きとしています。
『Hackig Growth』で解説されているグロース業務のプロセス概略を整理し、図にしてみましょう。
この図のように、グロース業務では不断のサイクルを回していくことが重要です。
このサイクルを高速で回転させていくことが成果につながります。
しかし、このサイクルを実践するうえで、特につまづきやすいステップは分析です。
なぜ、そしてどのようにつまづいてしまうのでしょうか。
グロース業務における分析
グロースの業務サイクルにおける「分析」がつまづくとはすなわち、次のステップである「アイデア立案」にうまくつなげられないことを指します。
アプリグロースにおいてよくお伺いするのが、「分析をしてもなにをすればいいのか結論が出せない」「分析にもとづいて実施した施策が成果につながらない」というお声です。
アプリグロースを支援するなかで、こういった「うまくいかない分析」には共通点があることがわかりました。
それは、定性的な観点での分析が不十分であること。
マジックナンバー分析や損益分岐の判断のために、アプリの運用において定量観点での分析を行わない企業は存在しないと言っていいでしょう。
しかし、定性的な観点での分析、すなわちユーザの状況(目的や背景、心理の総体)が理解できる質的データをもとに分析を行う企業はあまり多くありません。
実は、分析をもとに立案された施策がなかなか成果につながらない原因はこの定性的な観点での分析の欠如にあるのです。
定性的な観点での分析が欠如することによって生じる問題はすなわち、ユーザ理解が深化できないこと。
ユーザ理解が不十分では、ユーザに適した施策を考えようがありません。
KPIとなっている各数値を向上させるためには、どんなユーザが、どんなことを求めているのかを把握し、その悩みに答えることが必要なのです。
では、ユーザの状況が理解できる質的データとはどのようにして取得するのか。手法はいくつかあります。
たとえばユーザ調査では、実利用環境に近い場で実際にアプリを用いてもらいつつヒアリングを行うことでユーザ像の精緻化を目指します。
とりわけ今回おすすめしたい手法は、ユーザの個票データ(行動データ)の分析です。
この分析が、現状把握を可能とし、顧客体験(UX)の改善へとつながります。
行動データの分析によってアプリグロースに成功した事例を3つご紹介します。
個票データ分析によるアプリグロース成功事例3つ
【事例1】宿泊予約ポータルアプリ ~ユーザ像をアップデートし施策方針を再策定
担当者は、アプリのメイン利用ユーザについて、「このサービスを好むのは、高級ホテルにしげく通うユーザではないか?」という仮説を持っていました。
この仮説が正しいのかを確認するため、本体サイトから流入し、ホテル予約アプリに登録→お店を予約するユーザ行動を絞り込んで抽出しました。
すると、本体サイトでは高級ホテルだけではなく、普段はビジネスホテル等も頻繁に閲覧し、登録後は夕食の内容や追加オプションなどの比較的ニッチな条件でホテルを検索し予約する行動が見受けられました。
これは初期仮説と矛盾します。
整合性のある別の仮説としては「高級ホテルだけが好きというわけではなく、特別な日を演出するために高級ホテルを予約したい人」がこのような行動を取ると考えられました。
仮説の検証のために、行動データから確認できた各オプションなどを目立つバナーデザインを作成し、検索条件内で、そのニッチな条件を目立つようにしました。
この検証施策によって成果が向上。
質的データの分析によって、サービスを利用継続しやすいユーザ層を発見し、訴求バナーや初期体験を適切に改善(CVの促進)することができたのです。
【事例2】保険系アプリ ~プッシュ通知を改善しCVを後押し
ある保険系のアプリでは、新商品である変額保険(保険会社が保険料を資産運用する保険)へのCV(コンバージョン)を増加させることを目指していました。
ユーザの行動を分析することでCV増加への手立てを考えようとした担当者。
しかしアプリの利用者数はあまりに膨大なため、フォーカスを絞る必要があります。
どのユーザの行動を見るべきか考え、まずは変額保険にアプリから問い合せにCVしたユーザの行動を観察しました。
すると、いずれのユーザも問い合わせの前には運用実績を閲覧していました。
この観察をもとに、運用実績のプッシュ通知を送ることとし、問い合わせ数とCV数が増加。
このアプリにおいては変額保険商品の情報記載の内容に影響されて投機商品として捉えられる傾向が強まっており、この場合CVの後押しには透明性が大事であることがより浮き彫りになりました。
この成功体験により、なにがユーザのCVを後押しするのか、なにがCVまでの懸念点なのかを意識する重要性がチームに根付き、その後の改善においても継続したグロース活動が続けられています。
【事例3】食品ポイントアプリ ~クーポン施策の見直し
特定の商品購入時にポイントが付与される購買促進アプリでは、休眠顧客を復活させるための施策としてクーポンを配布していました。
担当者にとって、クーポンは身銭を切る苦肉の策ではありながら、定石ではあるためコストをかけた分だけ起爆剤となり、アクティブ数の増加と利用回数の増加につながるのではないかと期待していました。
しかし、クーポンを送付したユーザごとに行動を観察したところ、復活はしても、休眠前よりも利用するユーザはいませんでした。
担当者の狙いに反して、休眠復活させようとクーポンを送ってきたが、やる気のないユーザはやる気のないままだったのです。
この発見をもとに、休眠前に高頻度で利用していたユーザにのみクーポンを重点的に送ることとし、費用対効果を改善しました。
まとめ
アプリをグロースさせるためには現状把握が不可欠です。
この現状把握に役立つのがユーザの質的データです。
行動データの分析やユーザ調査を定期的に実施することが、成果につながるアイデア立案の礎となります。
あらためて、今回紹介した事例それぞれから学べることを整理してみましょう。
- 事例1 開発時のユーザ像と、リリース後に見えてくる実利用ユーザのユーザ像は異なることもある。適切な施策のために確認が必須。
- 事例2 CVするユーザの行動から、CVを後押しする施策の手がかりが得られる。
- 事例3 慣習となった定石や高コストの施策であっても成果が出るとはかぎらない。
アプリのグロースを目指して、定量分析に加え、定性的な観点での分析による現状把握も業務サイクルに組み込んでいきましょう。
弊社では、アプリグロースを始め、多くの企業様のデジタルマーケティング支援のなかで培ってきたUX改善と成果向上の知見をセミナーでも発信しております。
ぜひご覧いただき、皆様の業務でお役立ていただけましたら幸いです。
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