第44回 シナリオとユーザ行動観察調査を用いたネット広告の有効活用
広告コストの効率化にもユーザ中心のプロセスが効果的です。
本コラムのサマリ
- 広告費を有効に使うために、マスメディアからインターネットに広告費がシフトしている
- ただし、闇雲に取得可能な数字を追跡しても、成果には結びつかない。
- インターネット広告費を有効に使うためには「自社担当者が責任を持つ」ことが重要
- ネット広告においても、シナリオを考えユーザ行動観察調査を行うことで成果を上げることができる
マスメディア費用の削減
昨年2008年は、マスメディアへの広告出稿を削減する動きが各業界で見られました。広告代理店である電通や博報堂が発表している月次売上高からも、紙媒体への出稿が前年比20%-30%減といった急激な減少傾向が見て取れます。テレビ広告でも同様の傾向を示しており、特にスポット広告は2008年は各社前年比10%-20%減と顕著な落ち込みとなりました。
巨大広告主も軸足を移し始める動きが見られます。例えば、トヨタ自動車は広告費を3割削減すると発表しました。また、今年2009年は日産が紙媒体への広告出稿を基本的に行わないという話も噂されています。
こちらの予算は一体どこに向かったのでしょうか。FujiSankei Business iによれば、2009年にインターネットの広告費が新聞を抜いて2位に躍り出ると予想されています。
広告の軸がテレビや紙メディアからネットへと移る中、いかに有効にこれを活用していくかが、今まで以上に重要になってきています。
広告を有効活用したければ自社の担当者が「コスト」を把握すること
インターネット広告は広告解析ツールを用いることで、多くの要素を数値として可視化することが可能です。広告代理店がしっかりと分析してくれる場合もあれば、レポートをもらっているだけというパターンもあるでしょう。自社できちんとレポートを作っている場合もあるかもしれません。
いずれにしても、自社が払っているコストがビジネス上の成果を生んでいるか把握している必要があります。自社のコストに対して本当に敏感に反応できるのは、自社の担当者だけです。
コスト感覚を養う上で、まずは自社で広告毎・クリエティブ毎に目標とするCV数・獲得単価を定義して下さい。
数値目標を決め広告出稿を始めたら、日々の運用の中で効果の出ない広告を落としながら改善ポイントを探ります。
このプロセスを怠り広告の運用に自ら関わらず他社に丸投げしてしまうと、コストに対する実感値がなくなってしまいます。
例えば、リスティング広告の費用を大量に投入しキーワードを上位に上げればCV数も上がると言えるでしょうか。
必ずしもそうとは限りません。上位に広告が表示されると「とりあえず押す」人が増えてしまい、可能性が薄いユーザが多く自社のウェブサイトに来てしまい、結果としてCV数を下げてしまうこともあります。
この投入コストとCV数が一概には比例しないという法則も、「自社の担当者」が運用に関与することで知ることができるのです。
広告の改善でもシナリオの概念とユーザ行動観察調査が有効
広告を日々運用改善する際はユーザが何を考えてどう動くかという「シナリオ」の概念を持つことが重要です。
広告や広告を押した後のページ(ランディングページ)を点で捉えるのではなく、そもそも何を考えて検索をし、何故広告を押すのか、広告を押した後の心理変化とは何か、といった具合に一連の流れでユーザの行動を考えます。これがシナリオになります。サンプルを以下に挙げますが、このくらい細かい精度で作成ができるとよいでしょう。
ただし、シナリオは仮説にすぎないので、シナリオを作成したら簡易的でも良いのでユーザ行動観察調査を実行してください。
ユーザ行動観察調査を行うことで、仮説・シナリオの妥当性が検証できます。調査では、広告や自社サイト以外での動きや心理変化が把握できるため、広告以外の集客施策を発見できることもあります。
例えば、弊社があるポータルサイトで実施した取り組みでは、ユーザ行動観察調査を通じて有益な集客施策を発見することができ、改善を行った結果、集客量が3倍・売上が2倍に向上するという成果につながりました。
日々の運用だけでは発想が広がりづらいので、施策を考え出す手段としてもユーザ行動観察調査は有効になります。
シナリオ作成からユーザ行動観察調査までの流れをまとめると、以下のようなステップになります。
一見複雑に見えるかもしれませんが、インターネット広告でもこうしたユーザ中心の考え方に沿ったプロセスを実施していくことが、長期的な成果向上に結びつく近道であると考えます。
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執筆者:若林 龍成
株式会社ビービット 取締役副社長