第29回 情報を隠すということ
ウェブサイト経由で問い合わせを獲得したいがために、ユーザが知りたいような情報を敢えて掲載しないという作戦について解説します。
今回は、ウェブサイトを設計・構築する上での考え方について触れたいと思います。
時折ウェブ上で「情報を敢えて隠す(または出さない)」という思想を目の当たりにします。
情報を隠す主な理由は、ざっと以下の通りです。
- 「もっと情報が知りたい」とユーザに思わせることで、問い合わせ数の増加を実現するため
- ユーザにその情報にまつわる行動を取られたくないため
(コールセンターへの電話番号を隠すなど) - その情報はユーザにとって有益ではないため
(サービスの申し込みには実は手数料がかかるなど)
弊社の数千回におよぶユーザビリティテスト(ユーザ行動観察調査)経験では、この作戦がうまくいった事例は今のところ殆どなく、むしろ
- 「サイトに欲しい情報がないからもう見ない(この後大概競合サイトに乗り移る)」
- 「他のサイトが詳しいのでそちらを参照する」
- 「欲しい情報・サービスはやっていないようだ(なので問い合わせない)」
- 「わざと情報を隠しているような気がする。最低だ」
といった逆効果を招いています。
ユーザが知りたいと思う情報はできる限りきちんと提供するのがサイト運営者の義務です。
ユーザに与える情報量を操作して、ユーザの行動に変化をもたらす従来のマーケティング手法はインターネットでは通用しづらくなっています。特にここ数年、ブログやOK Webなどに代表されるQ&Aサイト、mixiなどのコミュニティサイトなどの登場により、個人の情報発信の垣根が低くなってからは、ユーザが必要とする情報は大概ネット上にありますし、それにより企業側が提供する情報への信頼性が失われつつあります。
ただでさえ、企業が発信する情報の信頼性が揺らいでいる中、情報を敢えて提供しないといった姿勢を取れば、ユーザが不快に思うのは当然です。
実際に、弊社のお客様で、「問い合わせてもらうために情報を隠す」という思想だったところを、自社サイトのユーザビリティテスト(ユーザ行動観察調査)結果を踏まえて、「問い合わせてもらうために、できる限り情報を提供する」という方針に大きく転換を図られた事例があります。
この事例では、問い合わせ数は約3倍に増え、また問い合わせの質が以前よりも高度かつ成約に近い内容に変わったという結果になりました。
ユーザあってのサイトですので、ユーザが必要とする情報をきちんと提供することが、成果を上げる近道なのです。
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執筆者:武井 由紀子
株式会社ビービット 取締役