第27回 ウェブサイト改善の鍵 アクセスログ解析【後編】
「アクセスログ解析で分かること」をより正しく把握するためのポイントを解説します。
先月の「ウェブサイト改善の鍵 アクセスログ解析【前編】」では、アクセスログ解析で分かること、分からないことを整理しました。
今月は、「アクセスログ解析で分かること」をより正しく把握するためのポイントを解説します。
数値の二面性
アクセスログ解析で最もよく使われる数値は「ページビュー数(PV数)」です。これは、ユーザが閲覧した HTML文書(Webページ)数を指します。通常ユーザはサイト内の複数のページを見ますので、訪問者数よりも ページビューの方が数倍多くなります。
基本的にはページビュー数が多いと、「より多くの人がより多くのページを見てくれた」と判断されるため、そのサイト/コンテンツの人気が高いと言えます。しかし、ここでもう一歩踏み込んでユーザの行動を考えてみて下さい。ユーザは、全てのページを満足しながら見ているわけではありません。迷いながら目的のページ を探すこともありますし、見たいページにアクセスするために何ページか興味のないページを通りすがることもあります。
このように数値の裏に潜む事実は様々です。ですので、「ページビュー数」という数値をただ眺めていただけでは示唆を得ることはできません。
ログ解析では、このような数値の二面性など、アクセスログの本質と限界を理解した上で、仮説を持って数値を見ることが重要です。
科学は仮説検証の繰り返しの上に成り立っていますが、ログ解析も全く同じなのです。
ログ解析を意味あるものにするためには、特に以下のポイントが重要です。
- 1. 目標数値を持つ
- 2. ユーザの一連の行動を踏まえた行動仮説を持つ
- 3. 数値を過去や他ページのものと比較する
- 4. ログ解析(効果検証)ができるサイト設計を行う
- 5. 実際のサイトと照らし合わせながら問題を探る
1.目標数値を持つ
数値の意味を読み解くには、まず基準値という仮説が必要です。ですので、最初に目標となる数値を基準値として立てましょう。目標数値は
- サイト目的
- ユーザの行動仮説 (2.で説明)
- これまでのサイト運営におけるPV数やアクセス数
- 他媒体で計測された各種数値(顧客数、コストetc)
等から導出して設定した上で、随時補正していきます。まずはざっくり月間の訪問者数とPV数が あれば良いでしょう。
ここで、そもそもサイトの目的が「ページビューを上げること」等になっていないか注意してください。
数値はあくまで目的の達成度合いを測る指標に過ぎません。潜在顧客の獲得や、サポートコストの 削減といった目的があって初めて、では「その目的が達成された状態は数値的にどうなのか?」と いった目標値を議論することができます。
このようにして目標値を持ち、それに照らし合わせながらログの数値を見ることで、意味あるデータを 得ることができます。
またこのアプローチの場合、主にサイトを訪問するユーザや関心のボリュームについて検証することができます。
2.ユーザの一連の行動を踏まえた行動仮説を持つ
サイトの効果をログで見るためには、ユーザの物理的、心理的状況やニーズ、またサイト内、サイトに来る前後でどのように動くのか予め予想し、仮説を立てておく必要があります。
これをユーザシナリオと呼びます。ちなみに、サイトで成果を上げるためには、このシナリオが きちんと把握できるかどうかが鍵となります。シナリオの把握にはこれまでのログ解析結果もさることながら、ユーザビリティテスト(ユーザ行動観察調査)が最も役立ちます。
このようなシナリオ=仮説をもってログの数値を見ると、数値が光って見え、問題箇所を教えてくれます。
これは特にログ情報からユーザの行動の流れを読み取るストリーム分析時に有効です。
行動仮説と照らし合わせて、ボトルネックになっているような箇所がある場合、その理由を考察して問題点を挙げ、サイトを改善してまた数値を見ることで、サイト運営のPDCAが回せるのです。
3.数値を過去や他ページのものと比較する
数値を「点」として眺めていても、その意味するところはなかなか分かりません。そこで、1つの数値を見るのではなく、「過去の数値と比較」「他のページの数値と比較」してみましょう。
また、同階層に位置づけられているコンテンツの中で、あるコンテンツが突出してページビューがあるのであれば、「ユーザニーズが強いページである」「他のページより流入元が多い」「このページを必ず経由する必要がある」などの行動パターンが考えられます。
各コンテンツのトップページビューの数値と、その下位階層のページビューにあまりに開きがある場合や、同じような構造のページビューと比べて数値が違う場合には、例えば「コンテンツトップから下位ページへのナビゲーションに問題があるのでは?」とか、「ユーザが欲しいと考えているものを提供してないのでは?」といった仮説を考えることができます。
4.ログ解析(効果検証)ができるサイト設計を行う
ログ解析を意味あるものとしてサイトの運営プロセスに組み込むためには、ログ解析ができるサイト作りが必要です。
といっても、何も難しいことをする必要はありません。弊社の経験ですと、ログ情報が読み取り易いサイト=ユーザにとって分かり易いサイトです。具体的には、シンプルなサイト構造、分かり易いナビゲーション、1ページ=1トピック、といった基本を押さえるだけでもログは随分読み取り易くなります。
例えば、あるページへのアクセスが集中していたとしても、そのページへのリンクタイトルが曖昧で あったり、そのページに複数のコンテンツが掲載されている場合、ユーザがどの部分が見たくてそのページにアクセスしたのか分かりません。
ウェブでの申し込み獲得がサイト目的だった場合、これでは、ログ解析結果をサイト運営に活かすことが困難です。
この場合であれば、「シミュレーション」と「お申し込み」は別ページに分ける(1ページ=1トピックの 法則)ことで、ログ解析結果をより活かすことができるようになります。
5.実際のサイトと照らし合わせながら問題を探る
最後に、アクセスログはユーザのサイト閲覧の結果を数値で表したものです。ですのでログ解析ソフトだけを見てうんうん唸っても示唆は得られません。実際のサイト構造やページ内容と照らし合わせ、実際にログが示す行動パターンと同じようにサイトを使ってみると良いでしょう。
こうすると、意外な問題点を発見することができます。
ログ解析は魔法のツールではありません。仮説を立て、サイトを改善し、ログで検証するという一連の PDCAサイクルを地道にコツコツ繰り返すことがあとで大きな結果をもたらします。上記を参考に、数字に振り回されることなく、ログを冷静に見つめてサイト改善に役立て頂ければ幸いです。
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執筆者:武井 由紀子
株式会社ビービット 取締役