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【UX LIBRARY】なぜ事業間シナジー・クロスセルが生まれないのか?事業横断CXの議論を停滞させないためには?

2026.10.01 Thu.

【UX LIBRARY】なぜ事業間シナジー・クロスセルが生まれないのか?事業横断CXの議論を停滞させないためには?

【UX LIBRARY】なぜ事業間シナジー・クロスセルが生まれないのか?事業横断CXの議論を停滞させないためには?

「UX LIBRARY」とは?

「UX LIBRARY」は、ビービットがこれまで発信してきたUXに関する知見・情報を厳選し、コンパクトに再編集してお届けするシリーズです。

1分で分かるこの記事のポイント

今回は、レポート「CXを統合するブランドジャーニーとは」を再編集してお届けします。

この記事には以下の内容が含まれます。

●事業シナジー・クロスセルを実現するためには、事業・接点を横断した共通の「大方針」が必要になるが、中期経営計画やブランドコンセプトでは方針としての役割を果たすことができない。

●「接点横断ジャーニー(ユーザが複数の接点を活用することで目的を達成する際の、一連の行動の流れ)」を顧客視点から検討することで、事業横断の大方針を策定できる

●接点横断ジャーニーを大方針にすることで、各事業部の活動方針へのブレイクダウンが容易になるうえ、明確な根拠を持って事業部間の議論を収束させることが可能になる

イントロダクション:事業間シナジーに不可欠な「大方針」をどのように考えるのか?

事業間シナジー・クロスセルの実現は、LTVを向上させるうえで重要なファクターの一つです。その実現には、複数の事業・接点が、共通の大方針に基づいて連動する必要があります。この大方針が欠けたままだと、接点ごとにコミュニケーションや言葉遣いがちぐはぐになったり、ユーザが何度も同じ情報の入力を求められたりと、ユーザ体験の滑らかさが失われてしまい、ユーザの困惑や離脱につながる恐れがあります。

多くの企業が、中期経営計画やブランドコンセプトをこの方針に据えています。一方、各事業部の取り組みにまで落とし込んでいく際に、中期経営計画やブランドコンセプトでは抽象度が高すぎる、という問題点があります。

また、事業間シナジーの実現に関係する事業部が集まって新しく方針を策定しようとすると、会議の場で各事業部のメンバーから「こんな体験を提供してはどうか」「うちの事業部ではこんなことがしたい」など、それぞれの目線・思惑に基づく主張が錯綜し、収拾がつかなくなってしまうこともあります。

そこでこの記事では、「カスタマージャーニーに基づく事業横断のCX方針策定」について紹介します。記事の本編で述べるように、カスタマージャーニーを起点にすることで、「各事業部の取り組みにまで落とし込めない」「方針策定時に議論の収拾がつかない」という2つの問題を解決することが可能になります。

それでは「UX LIBRARY」本編をお楽しみください。

この記事における「カスタマージャーニー」とは

この記事では、「カスタマージャーニーに基づく事業横断のCX方針策定」について紹介する。「カスタマージャーニー」と一口に言っても、現在のユーザ行動の流れから理想的な体験の流れまでさまざまだが、ここでは「ユーザが自身の目的・理想を達成するまでの行動の流れ(行動フロー)全体」を指すものとする。

企業の提供サービスは、ユーザの目的・理想を達成するための支援ツールとして捉えられる。例えば、「旅先で仕事の疲れを癒す」という目的・理想を達成するための一連の行動フローと、各行動フローを支援するサービスの対応関係を図にすると、以下の図のようになる。「計画立案」「予約」「旅行当日の移動」「余暇活動」が行動フローであり、行動フローの連なり全体を「カスタマージャーニー(以下、単にジャーニー)」と呼ぶ。

顧客が目的・理想を達成するまでの行動の流れ全体(ジャーニー)

ジャーニーの3分類:サービス、接点横断、全社

ジャーニーは、検討時に考慮するサービスの数や設計時のテーマに応じて、「サービスジャーニー」「接点横断ジャーニー」「全社ジャーニー」の3つに分類することができる。各ジャーニーは以下のように定義される。

1.サービスジャーニー
単一のサービスや店舗・ECなど、接点単体のジャーニー。「サービス・接点単体をどれほど高い頻度で利用し続けてもらえるか」が設計時のテーマになる。

2.接点横断ジャーニー
共通のユーザ層に近しい価値を提供している複数のサービス・接点をまとめたジャーニー。「toC事業全体」「富裕層向け事業群」などもこれに当てはまる。「サービス・接点をユーザにとっていかに自然な文脈でつなげられるか」が設計時のテーマとなり、事業間シナジーを検討するうえで最も重要になる。

3.全社ジャーニー
複数のサービス・事業を横断して、会社全体が連動するジャーニー。実態として実現されているケースは稀。

事業間シナジーを実現するうえで重要となるのは、2つ目の接点横断ジャーニーだ。特に大企業の場合、ターゲットユーザがtoB/toCのように事業ごとで全く異なるなどの理由から、1つの全社ジャーニーを描くことが事実上不可能なことが多い。そのため、事業横断のCX方針は、共通のユーザ層・提供価値で事業・接点をつなぐ接点横断ジャーニーとして検討される。


※なお、レポート「CXを統合するブランドジャーニーとは」では「接点横断ジャーニー」を「ブランドジャーニー」と表現している。

接点横断ジャーニーの構想プロセス

以下では、事業横断のCX方針となる接点横断ジャーニーの構想プロセスを、4つのステップに分けて解説する。

ステップ1:企業の提供価値・強みと支援領域の定義

ステップ1では、企業の提供価値・強みと支援領域を定義することで、「どのようなユーザのどのような困りごと・状況に対して、どのような提供価値で支援するのか」を大まかに固める。

まずは「企業の提供価値・強みの定義」について解説する。ここでは、企業のこれまでの歴史や、ビジョン・ミッション、中期経営計画などを参照する。そこから、不変の提供価値や強み、そしてそれが解消してきたユーザの困りごとについて仮説を立てることができる。

仮説はあくまで仮説に過ぎないため、実際のユーザにヒアリングし検証する必要がある。検証することで、「時代の変化によって、自社がこれまで売りにしてきた価値・強みが受け入れられなくなっており、新たな価値・強みが受け入れられつつある」と分かることもある。その場合、ユーザの状況、テクノロジー、市況の変化などを踏まえ、自社の提供価値や強みを定義し直す必要がある。

支援領域は、自社の提供価値・強みを発揮できる分野から定義される。例えば、食に力を入れている家電メーカーで、特に「忙しい家族の食卓を支える」ことを提供価値としているなら、献立立案や調理に十分な時間をかけられないことを前提に、以降の検討が進められることになる。一方、外食の店選びなどは支援対象ではないと判断できる。

ステップ2:支援するユーザの目的・行動フロー・困りごとの調査

ステップ2では、ステップ1で定めた支援領域に対応するユーザへの定性調査などを行い、ユーザが達成しようとしている目的や、その目的を達成するためにユーザが辿る典型的な行動フローを明らかにしていく。

なお調査の結果、企業にとって想定外の目的や、異なる複数の目的が出てくることもありうる。引き続き「忙しい家族の食卓を支える」ことを提供価値とする企業を例にとるなら、「健康に良い時短料理を簡単につくる」がユーザの目的になるケースもあれば、「料理の腕を上げてバラエティ豊富な料理を効率よくつくれるようになる」が目的のケースもあるだろう。

このうちどちらを支援するのかは、ブランドコンセプトに立ち返ることで決めやすくなる。企業がブランドを通じてユーザに提供する価値・世界観をまとめた言葉であるブランドコンセプトは、抽象度が高いため具体的な体験の検討には使いづらい一方、「ユーザのどのような目的を支援するのか」という大枠を決める際には有力な判断基準になる。

またこの調査では同時に、行動フローごとにユーザが感じている主な困りごとも明らかにしていく。大小さまざまな困りごとが見つかるので、調査後に困りごと同士の関係性を分析し、特にクリティカルな困りごとを特定することが重要だ。例えば、ある困りごとがその他複数の困りごとの原因になっている場合、それこそが優先して解決すべきクリティカルな困りごとだといえる。

ステップ3:理想的な体験とサービス・機能に関する仮説立案

ステップ3は、ステップ2と対になっている。つまりステップ3では、ステップ2でユーザからヒアリングした各行動フローの困りごとから、その困りごとを解消できるような理想的な体験・サービスに関する仮説を立てることになる。ステップ2で明らかにしたユーザの目的・行動フローと照らし合わせることで、サービスや事業全体で提供すべき体験・機能を整合的に検討することができる。

このとき、理想的な体験を困りごとの「裏返し」として安易に考えないよう注意しなければならない。例えば、「献立を考えるのが面倒」という困りごとに対する「レシピサイトや料理本で解決する」という発想などが、これにあたる。実際、レシピサイトや料理本はすでに無数にあるが、「献立を考えるのが面倒」という困りごとはいまだに解決されていない。

実際には、ユーザの困りごとはさまざまな原因が複雑にからみあって生じているため、ステップ2「困りごとの調査」から、原因同士の関係性や、同じ困りごとが繰り返し発生してしまう仕組みを分析しておくことが重要になる。

ステップ4:ジャーニー仮説への統合と受容性検証

ステップ4では、ステップ3で立てた理想的な体験・サービスの仮説を組み合わせて、「この支援領域のこの行動フローで発生している困りごとを、この体験・サービスをこの順番で組み合わせることによって解消する」という形でジャーニー仮説を構築する。

この時点ではまだ仮説の域を出ないため、支援する行動、解消する困りごと、提供する体験・価値をわかりやすく言語化した「コンセプトシート」という資料を実際のユーザに提示し、その支援が本当に受け入れられるのかを検証する。

なお、同じ困りごとでもその解消方法はさまざま考えられるため、複数のジャーニー仮説が成立することもある。例えば、「食事を準備するだけで精一杯で、家族との食事を楽しむことができない」という困りごとに対しては、献立立案や調理の手間を減らす支援と、家族とのコミュニケーションを促す支援の両方が考えられる。この場合も、受容性検証を通じて仮説の受容度を調べることで、採用すべきジャーニー仮説を決めることができる。


接点横断ジャーニーは、以上の4ステップで構想することができる。

ジャーニーに基づいて事業横断のCX方針を策定するメリット

最後に、ジャーニーを起点とすることで、イントロダクションで言及した「各事業部の取り組みにまで落とし込めない」「方針策定時に議論の収拾がつかない」という2つの課題がどのように解消されるのかをまとめる。

まず、「各事業部の取り組みにまで落とし込めない」という課題から見ていこう。

接点横断ジャーニーは、複数の行動フローの連なりに分解できる。そして事業・接点は、接点横断ジャーニーを構成するユーザの行動フローを支援するための手段と考えることができる。そのため各事業部は、「この接点は、ユーザのどの行動フローを、どのような体験を通じて支援するのか」という観点から、優先すべき機能開発や改善活動を特定し、活動を推進できるようになる。このように、中期経営計画やブランドコンセプトに比べ、接点横断ジャーニーは各事業部の取り組みにまでブレイクダウンしやすいという特徴を持つ。

次に、「方針策定時に議論の収拾がつかない」という課題について見ていく。

接点横断ジャーニーの策定時には、ユーザがどのような目的を持っているか、ユーザにとってどのような体験が理想的であるかを検討し、実際のユーザを対象に検証することになる。そのため、接点横断ジャーニーの策定に成功した暁には、各事業部から寄せられる「こんな体験を提供してはどうか」「うちの事業部としてはこんなことがしたい」といった主張・提案に対して、「その体験をユーザは求めていない・受け入れていない」という形で根拠を持って応答し、議論の停滞を避けられるようになる。

このように、ジャーニーに基づいて事業横断のCX方針を策定することで、各事業部の活動や事業部間での議論を推進し、事業間シナジー・クロスセルを実現することが可能になるのだ。

UX LIBRARYは以上です。レポートの本編では、「企業の状況や自身の立場から、この記事で紹介したような接点横断ジャーニーを実装することが難しい」という方におすすめしたい活動の第一歩についても解説しています。

Appendix:このテーマが気になった方におすすめの資料

今回ご紹介した「CXを統合するブランドジャーニーとは」は、事業間シナジー・クロスセル創出に必要な事業横断のCX方針策定をテーマにしています。このテーマに関心がある方には、以下2つのコンテンツもおすすめです。

レポート「UX先進企業のひみつ CXとプロダクトをつなぐ組織論」
今回の記事で紹介した「事業横断のCX方針策定」について、組織論的な観点からまとめたレポートです。具体的には、「CX統括組織」という、事業横断の方針策定と、体験全体の品質管理を担う専門組織を設置する重要性について解説しています。

レポート「接点過多 サービス統廃合のためのジャーニー設計」
事業間シナジーの実現と同じく、複数の事業を巻き込む活動として、「接点の統廃合」が挙げられます。本レポートでは、ユーザ行動を判断基準に据えることで、接点の「撤退/統合/改善」を決定する方法を解説しています。

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