AI活用やDX推進、顧客体験の向上など、企業変革に向けた取り組みが広がる中、それらを全社横断で推進する「横串部門」の重要性がますます高まっています。
一方で、実際に活動を担う担当者からは、このような声を耳にすることがあります。
●部門横断のワークショップを実施したものの、その後の活動につながらない
●UX/CX活動をどこから始めればよいのか分からない
●事業部を巻き込みたいが、思うように協力が得られない
●DXやAI活用を推進しているが、組織が変わった実感がない
部門横断のUX/CX活動は、一つの部門だけで完結するものではありません。経営層や横串部門が方向性を示し、各事業部が実践を積み重ねながら、組織全体で少しずつ顧客起点の考え方を育てていく取り組みです。
だからこそ、ワークショップを開催したり、新しい推進組織を立ち上げたりするだけでは、思うような成果につながらないことも少なくありません。
では、なぜ部門横断のUX/CX活動は前に進まないのでしょうか。
本記事では、企業が部門横断のUX/CX活動を推進する中で直面しやすい4つの課題を取り上げながら、活動を一過性の施策で終わらせず、組織に根付かせるための考え方について解説します。
なぜ接点・部門横断のUX/CX活動は「ワークショップ止まり」になるのか?
ワークショップが実践につながらない最大の理由は、企業視点で理想像を描いてしまうことです。
部門横断のUX/CX活動では、ワークショップを実施し、理想的な顧客体験やカスタマージャーニーを描くことから始める企業が少なくありません。その場では議論も盛り上がり、「これなら顧客体験を改善できそうだ」という手応えも生まれます。
しかし、いざ実践しようとすると、活動が止まってしまうケースも多く見られます。
例えば、
●各部門の利害がぶつかり、実行まで進まない
●実行までたどり着いても、顧客の反応が思うように得られない
●優先順位が下がり、いつの間にか立ち消えになってしまう
といった状況です。
こうしたことが起きる背景には、多くのワークショップが顧客視点ではなく、企業視点で体験を描いてしまっているという問題があると考えられます。
例えば、カスタマージャーニーを描く際に出てくる、以下のような表現。
●ここで商品を認知させる
●ここで会員登録させる
●ここで別サービスへ送客する
これらは一見すると顧客の行動を描いているように見えますが、実際には「企業として顧客に何をさせたいか」を表現しているに過ぎません。
このような企業視点のジャーニーが起こす問題の1つ目は、各部門が自部門の成果を優先しやすくなるため、「自部門の工数が増える」「売上が他部門へ流れる」といった利害の衝突が起こりやすくなることです。
企業視点ジャーニーの2つ目の問題は、部門間の衝突を乗り越えてなんとかジャーニーを描いたとしても、企業にとって都合のよいストーリーになっているため顧客にとって自然な行動の流れにはならず、実際の成果につながらないことです。
こうした問題が起こる結果、「ワークショップをやっても成果につながらない」という認識になってしまいがちなのです。
実践につながるワークショップにするためには、最初から顧客視点で体験を描くことが重要になります。
<実践につながる部門横断ワークショップの例>
複数業態を展開するある大企業では、ブランド全体として一貫した顧客体験を実現するため、部門横断の顧客視点ワークショップを実施しました。
ただし、実際のワークショップは一日だけで完結したわけではありません。
実施に先立ち、各部門の目的や課題、ブランドの考え方などを整理する準備期間を設け、ワークショップ当日は「顧客がどのような状況からサービスを認知し、利用し、継続的な関係へ至るのか」を、顧客を主語にしながら議論しました。
議論の途中では、「ここで申し込みさせる」「ここでサービスを知ってもらう」といった企業視点の表現が出てくる場面も少なくありませんでした。
その度に、「これは企業がやりたいことではないのか」「顧客自身の意思として書き直すと、どう表現できるのか」という問いを繰り返しながら、顧客の自然な行動として、ジャーニーを整理していきました。
ワークショップ終了後は、その内容を各部門が持ち帰り、自部門の施策へ落とし込んでいき、新たな取り組みへと発展していきました。
この例で重要なのは、ワークショップの開催そのものではありません。部門を超えて、「私たちは顧客をどのように理解し、何を判断基準に意思決定するのか」という共通認識を持てたことが、その後の成功のベースになったのです。
部門横断のUX/CX活動は、ワークショップを開催すること自体が目的ではありません。顧客起点という共通の判断軸を組織の中に育てていくことこそが、本当の目的なのです。
接点・部門横断のUX/CX活動は、どこから始めるべきなのか?
部門横断のUX/CX活動は、トップダウンとボトムアップの両輪で進めることで、初めて組織に定着していきます。
活動を始めようとすると、多くの企業で次のような悩みが生まれます。
●まずは一つの事業部で成功事例を作るべきなのか
●それとも、経営層から全社方針として進めるべきなのか
どちらか一方を選ぼうと考えがちですが、実際にはどちらも欠かせません。なぜなら、トップダウンだけでは現場の行動は変わらず、ボトムアップだけでは組織全体へ広がらないから。重要なのは、この二つをつなぐことです。
経営層や横串部門は、「どのような顧客体験を実現したいのか」という全社としての方向性を示します。
一方で、各事業部では、その方向性に基づいて実際の顧客理解や施策改善を行い、小さな成功事例を積み重ねていきますが、ここで重要なのは「成功事例を作ること」そのものではありません。
どの領域で成功事例を作るのか。何を成功と定義するのか。その成功が、全社として目指す顧客体験とどのようにつながるのか。これらが整理されていなければ、個別最適な取り組みに留まってしまいます。
逆に、全社として共有された顧客起点の判断軸があれば、現場で生まれた成功事例は他部門にも展開しやすくなります。
部門横断のUX/CX活動とは、トップダウンかボトムアップかを選ぶ活動ではありません。
トップダウンで方向性を示し、ボトムアップで実践を積み重ね、その両者を往復しながら組織全体に顧客起点という判断軸を育てていく活動なのです。
横串部門にはどのような役割が求められるのか?
横串部門の役割は、施策や業務を管理することではありません。組織の中に、顧客起点という共通の考え方を育てることです。
経営企画やCX部門、DX部門などの横串部門は、各事業部の施策・業務を管理したり、全社方針を展開したりする役割を担っています。
しかし、UX/CX活動を推進する上で本当に重要なのは、個別施策を細かく管理することではありません。重要なのは、各部門が顧客を起点に考えられる状態をつくることです。
一般的に企業内では、「この施策を実施したい」「この機能を追加したい」「この商品を売りたい」といった企業視点・提供者論理が議論のスタートになりがちです。
一方で、UX/CX活動が根付いている組織では、自然と「実際、顧客はこの場面で何を感じるだろうか」「顧客は本当にこの行動を取るだろうか」という会話が増えていきます。つまり、施策より先に顧客が主語になるのです。
横串部門が担うべきなのは、このような共通言語を組織に根付かせていくこと。そのためには、ワークショップを開催するだけでは不十分です。顧客起点で考えるための考え方を共有し、議論の進め方を整え、小さな成功事例を各部門へ広げていく。その積み重ねによって、「顧客起点で考えることが当たり前」という文化が少しずつ形成されていきます。
だからこそ、横串部門に求められるのは、施策を管理する立場ではなく、組織全体が顧客起点で考えられる状態を支える役割なのです。
なぜDXやAI推進活動は成果につながらないのか?
DXやAI推進が思うような成果につながらない理由は、技術を導入することが目的になってしまっていて、顧客起点で考える力が組織に育っていないからです。
近年、多くの企業でAI活用が進められています。生成AIの研修を実施する、社内向けAIツールを導入する、活用事例を共有する。こうした取り組み自体は決して間違いではありません。
しかし、
●ツールの利用者は増えたが成果につながらない
●現場で活用されない
●競争力につながる新しい価値が生まれない
という声も少なくありません。
その原因は、「AIを使えること」と、「価値を生み出せること」を区別していないことにあります。
AIは誰でも使える時代になりました。だからこそ差が生まれるのは、技術そのものではありません。重要なのは、
●顧客はどのような状況に置かれているのか
●どのような課題を抱えているのか
●どのような体験が価値につながるのか
そうした問いを立てられることです。
つまり、AI時代に求められるのは、「AIを使えること」ではなく、顧客を正しく理解し、その課題を解決するための最適なAI活用を考えること。これはAIに限らず、新しい技術全てに当てはまることです。
つまり、AI推進やDX推進も、顧客起点という共通言語の上に成り立って初めて、大きな成果へとつながっていくのです。
部門横断のUX/CX活動を前に進めるために
本記事では、
●ワークショップが実行につながらない
●活動の進め方が分からない
●横串部門の役割が曖昧である
●DXやAI推進が成果につながらない
という4つの課題を取り上げてきました。
一見すると別々の問題に見えますが、その背景には共通する構造があります。
それは、企業起点で活動を考えてしまっていることです。
企業側の都合から施策を考えると、部門間の調整は難しくなり、活動はワークショップや掛け声だけで終わってしまいます。
一方、成果を生み出している企業では、顧客起点という共通の判断軸が組織全体に浸透しています。
部門を越えて同じ顧客を見ているからこそ、それぞれの施策が自然につながり、組織全体として一貫した体験を生み出せるようになるのです。
その意味で、横串部門の役割は施策を増やすことではありません。
組織の中に、顧客起点という共通言語を育てること。
それこそが、部門横断のUX/CX活動を前に進めるための第一歩ではないでしょうか。
ビービットでは、部門横断の顧客視点ワークショップや全社UX戦略の策定支援、組織へのUX浸透支援などを通じて、企業全体で顧客起点の意思決定が行われる状態づくりを支援しています。
部門横断のUX活動やCX推進に課題をお持ちでしたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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