第39回 ユーザ中心アプローチの時代
ネットマーケティングROI最大化のキーとなるユーザ中心アプローチに迫ります。
本コラムのサマリ
- ユーザ中心アプローチは、市場が成熟し、消費者ニーズが個別化してきたことによって誕生した
- ネットとの親和性が高く、ネットマーケティングのROIを高めるために今後活用されるようになる
マスから個へ、量から質へ
1960年代前半の高度経済成長期に「巨人・大鵬・卵焼き」が、一世を風靡しました。当時の子どもたちが好きなものを並べたことばです。
「カラーテレビ・クーラー・自動車」は同時代に日本中の家庭が欲しがった新三種の神器でした。当時は大人でも子供でも、欲しいものを一括りに表現することができました。
しかし、現代の日本には多種多様な製品が存在し、市場環境は大幅に複雑化しました。あるビール会社では、60年代に1つの工場では4種類の製品しか製造していませんでしたが、現在は同じ工場において20種類以上を生産しています。
この変化の理由は、空腹な状態では何でも良いので食べたいが、満たされた状態では自分の趣味趣向性が強まり個別の要求が発生するようになる消費者の「欲求の個別化」と、1980年代に経済成長を終え、市場が成熟期に入った結果、競争が厳しくなり他社との差別化を余儀なくされた企業の「競争激化による種類の増加」の2つが考えられます。
高価なプレミアムビールを求める人もいれば、糖分カットを気にする人もいる。昼間の会食などアルコールを含まないビールに対する状況への対応やそもそもビールが苦手な人にはサワーやカクテルも生産しなければならないなど、捉えなければならないニーズは限りなく広がり、企業は経済合理性の続く限り対応を続けています。
求められる新たな方法論
生活必需品が不足しがちで消費者の基本的欲求が満たされていない段階では、消費者全体をマスとして同一視して見ることができました。商品やサービスの開発者といえども顧客と立場が大きく異なりはしないため、唯我独尊の考え方でも、自分が欲しいものを深堀りして理解し、具現化さえできれば市場に受け入れられてきました。
しかし現代は市場が成熟し、消費者ニーズが個別化しています。自分自身がターゲットユーザである商品・サービスの場合は苦労しませんが、そうでない場合は他者のニーズを理解することが必要になります。
企業がROI(投資利益率)を追求する上では、当たるも八卦、当たらぬも八卦といった取り組み方法から脱却しなければなりません。また、開発者個人の力量に頼らないことも、継続性を考慮すると必要になります。
そんな時代背景の中、他者を的確に理解するための方法論としてユーザ中心アプローチが誕生しました。
ユーザが握る情報の主導権
インターネットの普及に伴い、掲示板やブログなど誰でも情報発信ができる基盤が整いました。発信された情報は精度の高い検索エンジンを通じて適切なユーザへ流通するようになりました。
インターネットさえ利用できれば、簡単に多くの情報を入手できる状況が出来上がっています。製品レビューや価格比較の代表的なサイトであるカカクコムの利用者数は、2008年7月末時点で月間2471万人にまで達し、さらに増加傾向を続けています。
この現象は、これまで情報をコントロールしてきた企業の位置づけを大きく変えることになりました。どれだけ企業が美辞麗句を尽くして宣伝しても、製品購入者が良くない点を上げ連ねれば評価は入れ替わってしまいます。
情報を統制できなくなった段階で、企業は顧客から評価される製品やサービスを提供できなければ生き残れません。情報の主導権がユーザに移ることによって、的確な顧客理解がますます必要になります。
ネットマーケティングにおけるユーザ中心アプローチ
ユーザ中心アプローチは、製品開発だけではなくインターネット上で提供するサービスの設計でも活用できます。
店舗などの対面サービスではお客様の反応に直に触れられるため、特に明示的に意識しなくとも、より良いサービスを目指して品質は日々改善されていきます。
しかしウェブサイトは対面サービスとは異なり、ユーザの利用を目にすることができないため、利用者が現状のサイトに満足しているのか把握することが困難です。品質改善につながる情報は、ユーザの動向へ意識的に注意を払わなければ入手できません。ユーザに使い方を教えることもできないため、ユーザが何を求めてサイトを訪れ、どういった順番で何を利用をするのかを前もって想定し、対応をしておく必要があります。
また、ネットユーザは検索エンジンを軸に複数のサイトを比較検討します。現実の店舗であれば移動にコストが掛かりますが、ネットであればたかだか数クリックのコストにしかなりません。その結果、サイト間での競争が熾烈になり、ユーザに選ばれるサイトしかビジネス成果を創出することはできなくなります。
ユーザ中心アプローチは、アメリカのネット業界では一般的に活用されています。アメリカではネットが生活へ浸透しており、企業のマーケティング活動における重要度が高く、投資額も大きいため確実な方法論の選択が迫られているからでしょう。
日本におけるネット広告出稿額も年々上昇傾向にあり、マーケティング活動におけるネットの重要性はますます高まっています。セルフサービスチャネルであるインターネットで成功するウェブサイトを作るためには見えない移り気のユーザを正確に捉えることが必須です。
ユーザ中心アプローチは、これからのネットマーケティングにおいてROIを高める鍵となります。今後このコラムでは、このアプローチの詳細や成功事例を紹介していく予定です。
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執筆者:遠藤 直紀
株式会社ビービット 代表取締役