第31回 Google Analytics
「Google Analytics」導入の検討ポイントを解説します。
近頃インターネット業界を賑わしているGoogleが、今度は「Google Analytics」という無料のアクセスログ解析サービスをリリースしました。
Google AnalyticsはGoogleがアクセスログ解析ソフト大手のUrchin社を今年初めに買収して開発した無料のウェブログ解析ソフトで、一番の特徴はなんと言っても「高機能かつ無料」であるということでしょう。
無料ゆえに企業でも個人でも「取り敢えず導入してみようかどうか考えている」といった声をよく聞きます。
ビービットでもGoogleAnalyticsを導入して、現在その機能を分析中です。
このサービスに絡んで、Googleの今後の戦略や、アクセスログおよびネット広告業界へのインパクトなどは多くの人が解説しているところですので、今回はより実務寄りの話として、GoogleAnalytics導入を検討する上でのポイントに触れたいと思います。
Urchinがサーバに蓄積されたアクセスログを解析しているのに対して、Google Analyticsはcookieを用いた解析をしており、新機能がいくつか追加されています。そこでGoogle Analyticsの機能を「導入面」「運用面」「(Urchinと比較した)解析項目」に分けて見てみます。
導入面
メリット
- サービス自体が無料
デメリット
- 解析を行うにはタグの埋め込みが必要となり多少の作業負荷がかかる
- cookieの配布、データのGoogleへの帰属など、企業での採用時にはコンプライアンス上問題となる可能性がある(Google Analyticsの「利用規約」では、収集したデータはGoogleおよび子会社が保持、使用できると記載)
- タグを埋め込む以前のアクセスログをインポートできず、蓄積した数値のトレンドを活かせない
アクセスログの数値は解析ソフトにより大きくずれますので、Google Analyticsを導入する場合には、また一からトレンドを追い直すことになりそうです。
運用面
メリット
- 最新のログ解析結果が随時参照できる
- アドワーズ広告の効果測定が容易に行え、広告出稿の最適化が実現
デメリット
- 無料バージョンの場合、解析の範囲は500万PVに限定(但し、アドワーズアカウントを有していれば無制限)
- ASPサービスゆえ、Googleの状況にすべてが依存する(現在も新規追加ができない、レポートが安定的に見られないなどのトラブルあり)
広告の効果検証が随時行えることで、Googleが言うように「同じ広告費用で、より多くのコンバージョンを獲得」できるようになる可能性があるでしょう。さらに、同じコンバージョンなら、より広告費用を削減できるとも言え、闇雲に広告を打っていたような企業にとっては大きな運営メリットがあると考えられます。
Urchinと比較した解析項目
- Urchinで解析できた項目はほぼ全て網羅
- アドワーズ、オーバチュア等の広告活動の追跡、投資対効果の算出が可能
- コンバージョン機能が充実
コンバージョン:目標を自由に設定し、全アクセスのうち目標に転換したコンバージョン率を算出 - cookieの使用によって、より正確なセッション数が把握可能
- Urchinには無く、新たに追加された機能のうち、利用価値が特に高いと思われるものは以下の通り
ユニークユーザ:新規訪問、リピート訪問ユーザ数
動的ページ:Flash、JavaScriptイベント等が追跡可能
ウェブデザイン情報:解像度、Java有効率、接続速度
Google Analyticsは、Urchinのようなサーバログ解析型ソフト+タグ埋め込み型ソフトの双方の機能をほぼ網羅していることに加え、広告効果検証や、コンバージョンという概念を重視している点で非常に高機能であることは間違いありません。
サイトの目的やユーザのサイト内での行動仮説を明確に想定しているサイトにとっては、特に効果を発揮します。
難点をつけるとすれば、解析項目が非常に多く、さらにそれらが「経営層向け」「マーケティング担当者向け」「ウェブマスター向け」とユーザや企業体によっては解釈が異なる分類となっていることで、使いこなすまでに相当の習熟が必要となります。
ただし、無料ゆえにGoogle Analyticsを利用するユーザは確実に増え、それに伴いツールの使い方、解析の仕方といったあらゆるナレッジが増大していくことは時間の問題だと思われます。近々、「Google Analytics Hacks」といった解説本も出版されるかもしれません。
今後の動き
このような高機能なツールが(少なくとも今のところ)無料であるということは、アクセスログ解析それ自体には意味がないことを意味しているような気がします。その結果をいかに次の施策につなげるか、つまりは分析力、応用力、活用力が使用する側に問われていると言えるでしょう。
その最も分かりやすい端的な題材は、直接費用が発生する広告です。それゆえ、これまでもウェブサイト運営者は広告に対する費用対効果にはそれなりに敏感に反応していたでしょうし、このツールのおかげでより広告費の投資対効果を見るようになるでしょう。
しかしサイトは広告だけで成り立っている訳ではありません。もしGoogle Analyticsを無料で導入したとして、これだけの機能を広告出稿の最適化だけに留めるのはもったいない話です。
サイトの目的やユーザがサイト内でコンバージョンするまでの行動仮説を踏まえた、サイト内行動全体の検証を行い、随時最適化を図るツールにしていく必要があるでしょう。
これに関する詳細は、以下のコラムをご参照下さい。
ウェブサイト改善の鍵 アクセスログ解析前編/後編
逆説的な見方をすれば、サイト内行動におけるコンバージョンを見据えない限りは、広告出稿の最適化が行えないことをGoogleは広告主にアラートしているとも捉えられます。そして、広告出稿が最適に行われることは、Googleと広告主との間にWin-Winの関係を築くことに他ならず、両者の収益拡大を実現することに繋がります。
その意味で、現在多くのネット広告で広告代理店だけがWinとなっているケースが少なくないとも言えます。Google Analyticsにより広告代理店が必要となくなるのであれば、その分コスト削減につながりますし、そのコストをさらに広告やサイト制作に投入することもできます。
また、この流れに関連して、費用対効果が問われない広告は益々廃れていくでしょう。これは、ネット広告だけに限った話ではありません。テレビ、新聞、ラジオ、あらゆるメディアの価値が再定義される契機をGoogleのサービス群は提供しているような気がします。
追記
Google Analyticsに関しては、国内外問わず多くの議論がなされていますが、取り急ぎ読むとすれば、以下のコラムがお勧めです。
- Google Analyticsと影響範囲
http://blog.japan.cnet.com/watanabe/archives/002438.html