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UX起点のAI変革実践論 第1回:なぜ新規事業はPoC止まりになるのか

2026.05.29 Fri.

UX起点のAI変革実践論 第1回:なぜ新規事業はPoC止まりになるのか

なぜ新規事業はPoC止まりになるのか

生成AIやIoTをはじめとした技術進化によって、多くの企業が新規事業立ち上げに取り組むようになっています。特に製造業では、長年培ってきた技術資産を活用し、新たな顧客価値につなげようという動きが加速しています。

一方で、現場ではこんな声も少なくありません。

●PoCまでは進むが、その先の事業化につながらない
●顧客調査をしても、企画が磨かれている実感がない
●部門間で議論が噛み合わず、前に進まない
●「結局いくら儲かるのか」と問われ、説明に詰まる

実際、新規事業の現場では、「技術はある。しかし、どんな形で市場に届けられればよいかわからない」という状況が数多く起きています。

例えば、IoTやモビリティ領域では、商品として成立する技術はすでに存在しているケースも少なくありません。しかし、それが顧客のどんな状況で使われ、どのような価値として受け取られるのかが整理されないまま、PoCが進んでしまうことがあります。
その結果、「技術検証」は成功しても、「使われ続ける事業」にはつながらないのです。これは物理的な商品がないデジタルサービスでも言えることです。

では、なぜこうしたことが起きるのでしょうか。

なぜ新規事業は「技術起点」になってしまうのか?

新規事業がPoC止まりになる大きな要因の一つは、「誰のどんな課題を解決するか」より先に、「この技術をどう活かすか」から企画が始まってしまうことにあります。

もちろん、新規事業が自社の技術シーズや研究成果から始まること自体は自然なことです。特に製造業では、長年培ってきた技術資産が競争力の源泉になっています。しかしその一方で、「技術として何ができるか」を中心に考えすぎると、顧客が実際にどのような場面で価値を感じるのかが見えにくくなってしまうのです。

例えば、

●実際にどんな場面で使われるのか
●なぜ継続利用したいと思えるのか
●既存の業務や生活にどう入り込むのか

といった点が整理されないまま進んでいくと、PoCが「顧客価値の検証」ではなく、「技術デモ」に近い状態になっていってしまいます。

しかし、新規事業立ち上げで本来重要なのは、「誰の、どんな状況を、どう変えるのか」を起点に考えることです。技術そのものだけでなく、「顧客体験としてどう成立するか」まで見据えられるかどうかが、事業を成功に導くポイントなのです。

なぜ顧客調査で「有益なインサイト」を得るのが難しいのか?

顧客調査で有益なインサイトにたどり着けないときは、調査が「企画を磨く場」ではなく、「既存企画を正当化する場」になってしまっていることが原因だと考えられます。

現場では、「この方向のニーズがあることを確認したい」という意図で調査が行われることがあります。しかし有益なインサイトを得るためには、「事前仮説が正しいことを証明しようとするのではなく、仮説は間違っているという前提で臨む」姿勢が必要です。

本来、顧客理解とは「企業側の事前の想定と異なるポイント」を見つけるためのプロセスであるはずです。しかし、企業内の圧力などが原因で最初に立てた企画を守ることが優先されてしまうと、顧客調査は次第に“アリバイ作り”に近いものになってしまい、顧客の実像とはかけ離れた結果となってしまうのです。

有益なインサイトを得る上で仮説検証の姿勢に加えて重要なのは、「意見」ではなく「行動」を見ることです。

人の発言はその場の雰囲気や思いつきによって変化してしまいやすいもので、過去の記憶も必ずしも正確ではありません。そのため、意見だけを集めていっても、有益なインサイトにはたどり着きにくいのです。

一方で、例えば、

●いくつかのサービスを比較検討していた
●実際に買った、契約した
●途中で使わなくなった

などの顧客の行動に注目し、そうした行動をした理由や背景を深掘りしていくと、顧客の本音や文脈、つまり有益なインサイトにたどり着くことができます。調査の場で実際にサービスや商品を使ってもらったり、過去の利用データをもとにヒアリングを実施したり、場合によってはプロトタイプを用意して実際に使ってもらったりすることが有効です。

なぜPoCは「証明の場」になってしまいがちなのか?

PoCが証明の場になってしまいがちなのは、多くの企業で「検証によって仮説を変えること」より、「最初の企画との整合性を保つこと」が優先されやすいためです。

近年、新規事業立ち上げの早い段階でPoCを実施する動きが増えています。しかし、そのPoCが「検証」になっていないケースが多いのも実情です。

たとえば会議の場面で、
「構想だけじゃなくて、収益構造まで出してもらえないと決裁できない」
「企画段階と違うことが出てきたっていうのは、最初の企画が甘かったんじゃないの?」

といった言葉が出ることがあります。こうした指摘が繰り返されると、仮説変更が「失敗」として扱われるようになり、現場は次第に「正しさ」より、「説明可能性」を優先するようになります。

そうなると、特に初期段階では検証によって仮説が変わることの方が健全であるにもかかわらず、PoCが仮説を検証してより正しいものに変えていくの場ではなく、「最初の企画を守る場」になってしまうのです。

新規事業立ち上げにおいて重要なのは、「最初から完成度の高いものを作ることではなく、素早く学び事業に反映していくこと」です。仮説を立て、顧客理解を深め、小さく試し、修正する。このサイクルをどれだけ高速で回せるかが、新規事業の成功を左右するのです。

なぜ部門横断の取り組みでは、議論が噛み合わなくなりがちなのか?

部門横断の議論が噛み合わなくなる原因は、部門ごとに異なるKPIが設定されていることです。それぞれの達成すべきものがばらばらなので、同じ方向を向いた議論になりにくいのです。

例えば、部門横断の会議の中で
「それをやられると、うちの数字に影響が出るので困る」
「うちのお客さんを持っていかないでほしい」

といった議論が起きることがあります。

さらに組織がサイロ化していると、

●同じような機能を別部門が重複して開発していた
●類似サービスが乱立していた
●顧客接点ごとに体験品質がばらばらだった

ということも起きやすくなります。

こうした状況は、各部門がそれぞれのKPIを背負っていることを考えると、ある意味当然と言えるかもしれません。

しかし、顧客にとって企業の組織構造は自分に関係の無いことです。彼らは店舗やアプリ、ウェブサイトなどを区別することなく「一つの企業の体験」として認識しているはずです。こうした「顧客視点」を共通基盤に置くと、「部門としてどうしたいか」ではなく、「顧客にとってどうあるべきか」を軸にして合意形成や意思決定を進めやすくなります。

顧客視点は、サービスや商品を使い続けてもらうための体験品質向上に役立つだけでなく、部門横断で意思決定を進めるための共通言語としても有効なのです。

新規事業を成功に導くために

新規事業では、技術や機能そのものに注目が集まりがちです。

しかし実際には、

●なぜ顧客はそのサービスを使うのか
●なぜ顧客はそれを使い続けるのか
●顧客の日常や業務にどう組み込まれるのか

まで設計されて初めて、事業として成立します。つまり、「何を作るか」だけでなく「誰のどんな体験価値を実現するのか」を起点に仮説検証を回し続けることが、事業の成功につながるのです。

ビービットでは、UXリサーチや顧客理解支援、仮説立案・検証、プロトタイピング、PoC推進などを通じて、企業の新規事業立ち上げを支援しています。

技術をどう実装するかだけではなく、「顧客から見た企業体験」としてどう成立させるか。その視点が、AI時代の企業変革ではますます重要になっていくのではないでしょうか。

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