タブレット端末を活用した教育サービス成功のポイント

教育分野におけるICT(情報通信技術)の活用は国内・海外問わず、様々な企業や公的機関が取り組んでおり、近年ではますますその注力度合いが高まってきている。特に、子ども向けの教育サービスを提供する企業では、独自のタブレット端末を用いた新たな教材開発が行われていたり、教育業界大手のみならず様々な企業の参入が相次ぎ、競争が活発化している。こうした中で、消費者(ユーザ)にうまく受け入れられつつあるサービスもあれば、一見してあまり成功していないものも見受けられる。ユーザニーズをしっかりと捉え、受け入れられるているサービスに共通する要件とはどういったものか、明らかにしていきたい。

タブレット端末を活用した教育の取り組みが高まりつつある

文部科学省は、平成23年4月に発表した「教育の情報化ビジョン」において、情報通信技術の活用が21世紀を生きる子どもたちの育成において重要であると指摘している。そのほか、各自治体単位でもICTを取り入れた様々な教育環境改善の試みが実施されている。最近では、教室にタブレットを配って授業に活用するなどの話題をいたる所で聞くようになった。

それと期を同じくして、教育産業界においてもタブレット端末を用いた様々な教材開発が進められ、サービス提供を開始している。iPadやSurfaceなどをはじめ、タブレット端末が徐々に普及している中で、こうした環境を活用した新しい教材の形が生まれてくる事自体は自然な流れといえる。

これらの新しいサービスは、従来の紙媒体の教材では提供できない新しい学習コンテンツを提供することが可能であり、教育の可能性を大きく広げることが期待されている。

一方で、必ずしも全てのサービスが効果的に機能しているというわけではなく、現状は各社とも手探りの中で進んでいる状態のようだ。中には、他社に遅れを取るまいとタブレット端末ベースの教材を開発したものの、どのように教育効果につなげていくのかといったビジョンが不鮮明な例も見受けられる。

ビジョンなき教材開発に未来はない

「技術面の進歩に沿い先進的な取り組みをする」という姿勢は非常に重要なことである。その姿勢を、本当に意味のある取り組みにしていくためには何を考えていく必要があるのだろうか。

成功企業のICT活用において共通しているのは、「現状サービスでは満たせないユーザニーズを補完」する形で新しいサービス開発を行なっている点にある。単に既存のコンテンツをデジタルに置き換えただけではなく、既存コンテンツとデジタルコンテンツをうまく組み合わせることで教育効果を高めるより進化したサービスが提供されている。

逆に、流行に乗ったアイデアベースの施策から出発しているようなケースでは、一時的な話題性をつかむことはできても事業成長につながる成功は難しい。

このように、ICTを活用した教材開発の取り組みを成功させるためには、ユーザニーズをしっかりと捉えて、サービス開発の方針を定義することが重要である。

ユーザに受け入れられる教材開発を効率的に実現するために

ユーザに受け入れられ、実際に学習効果を生み出すデジタル教材の開発を行なうためには、正しくユーザを捉えユーザの目線で教材を作り上げていくプロセスが重要となる。

具体的には、開発段階で実際に教材を利用する子どもたちを交えながら、意図通り使ってもらえるか、期待している学習効果が得られるか、などをきちんと観察し評価・改善していくことが重要である。

従来からある紙媒体の教材であれば、業界におけるこれまでの長い取り組みの中で、トライ・アンド・エラーにより蓄積されたベストプラクティスが知見として活用できるため、教材開発は比較的スムーズに実施できると考えられる。

しかしながら、デジタルデバイスを用いた新教材開発では、紙媒体とは考慮すべき点が大きく異なるため、紙媒体でのベストプラクティスが必ずしも応用できない。そのため、ユーザニーズに対する正しいインプットなしに進めてしまうと、実際に受け入れられる教材を作り上げることは困難である。

そのため、新しい教材開発の現場では、下記のようなステップでユーザニーズに対する仮説検証をクイックに繰り返しながら、新教材のあるべき姿を見極めていくことが望ましい。

1. 仮説立案

  • ユーザが求めているものは何か、どういったコミュニケーションをとれば意図通りに使ってもらえるかを検討する

2. ユーザ視点で検証

  • ターゲットユーザに実際に使ってもらうことで、仮説の有効性を検証する
  • その際、プロトタイプを用意し、可能な範囲で実際の利用シーンをリアルに再現する
  • ただし、開発初期では、できる限りクイックに検証することが重要であるため、プロトタイプは簡易的なものでもよい

3. 軌道修正・ブラッシュアップ

  • 検証結果をもとに、仮説を修正し、より精度の高い施策案を導出する
  • 必要に応じて、上記の2と3のプロセスを繰り返す
  • 短期間に複数回の修正→改善を繰り返すことが重要。徐々に精度を高めていく

4. リリース

  • 検証結果をもとに本実装を行い、サービスとしてリリースする

上記のステップを実施することで、

  • 成功確度をある程度把握した上でリリースできる
  • ユーザのニーズを正確に把握し、コミュニケーションを最適化できる
  • ユーザに刺激を与えることで、潜んでいた新たなニーズを発見することができる

といったメリットを得ることが可能である。

また、このステップは教材の開発のみならず、販促のためのウェブサイト設計やその他の媒体におけるコミュニケーション設計などにも活用できる汎用的なプロセスである。

デジタル教材のよさを正しく伝える

明確なコンセプトに基づきよいサービス・コンテンツを開発したとしても、もう1つ忘れてはならないことがある。それは、その価値を正しく親たちに伝えていくことである。

ビジネス上の成果をあげていくという観点で考えた際に、コンテンツの開発と同様に重要な課題は、タブレット端末を活用した教材・サービスの有効性・必要性を親たちに対していかに正しく伝え、不安を払拭していくかということである。

実際に、新しい教材の販促のためのコミュニケーションを定義するコンサルティングの中で、親たちを調査していくと共通して聞かれる反応がある。

<よく聞かれる声>
・これまでの紙の教材で十分ではないか
・実際は手を使わないと覚えないし、反復学習には向いていないのではないか
・勉強ではなくて、遊びにつながりそうで不安だ

新しい取り組みであるがゆえに、ITCを活用した教育スタイルに親たちが抵抗を感じているケースがあるのも事実である。不安の背景には、親世代の学習環境と現在の学習環境が大きく異なっており、何が正しいのかがわからないということがあるのだ。

そのため、教育サービスに携わる企業は、このような不安をきちんと払拭し、新しい教材によってどのような教育効果が得られるのかを親に対して丁寧に説明していく必要がある。

まとめ

本稿では、「教育におけるICT」をテーマに、真に教育効果を高め、ユーザに受け入れられる教材開発のための考え方についてご紹介した。

  • 時流に乗るのではなく、本当に求められているものは何かをきちんと詰めた上でサービスのコンセプトを立てることが重要である
  • 仮説立案→ユーザ視点で検証のプロセスを経ることで、より確度の高いサービスづくりを実現することが可能となる
  • 販促におけるコミュニケーション設計にも、ユーザ視点での検証を中心とした仮説検証アプローチは有効である

執筆者:森川 洸
株式会社ビービット コンサルタント
京都大学大学院 情報学研究科を修了し、ビービット入社。コンサルタントとして、製造業、通信、金融、アパレルなどの大手企業のウェブ戦略・方針の策定や、リニューアルに多数従事。携帯サイト、スマートフォンサイトのコンサルティングプロジェクトには多く参画し、その豊富な知見によりクライアントのビジネス成果向上に貢献している。

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