第24回 顧客を正しく理解する
お客様を大切にし、より良い価値を提供するための取り組みは、決して短絡的に顧客の意見に迎合することではありません。
市場が成熟し、顧客ニーズが多様化していく中で、「顧客の意見が重要である」ことは当然視されています。実際にアンケートやインタビューによって顧客に意見を求め、事業戦略の策定や製品開発を行う事例も少なくありません。
しかし、顧客の意見を基に事業を推進したからといって、必ず成功するわけではありません。
鵜呑みにする危険性
数年前、アメリカのデュポン社がスーパーの買い物客5000人に入口ではこれから何を買うつもりなのか、また出口では実際に何を買ったのかをヒアリング調査しました。
その結果、買うつもりだと言った商品のうちで実際に買われたものは30%しかなかったことがわかりました。(出所:「無敵のマーケティング最強の戦略」阪急コミュニケーションズ)
もし、デュポン社がスーパーの入口の質問だけで調査を終了し、その結果を製品開発などのインプットデータとして利用したならば、容易に失敗したでしょう。この例からは、顧客の意見を鵜呑みにする行為は、大きな危険性を伴うことがわかります。
顧客を正しく理解する方法
上記の調査結果は、顧客が嘘を付くといっているわけではなく、発言と実際の行動には差が生じやすいことを表しています。
サービスや製品の売上向上を目指すのであれば、顧客が何によって購買を決定するのか把握しなければなりません。しかし、自分が何を買うのかさえ明確にわかっていない人をつかまえて、購買要因を聞きだすことは容易ではありません。
顧客理解は、顧客行動を客観的に分析することが基本になります。これは、ラーメン屋で、「スープが美味しかった」という意見よりも「スープを飲み干している」という事実から顧客を理解しようという考え方です。
方法は様々あるのですが、ここではビービットで用いる代表的な2手法を紹介します。
アンケート調査
「ウェブでの過去の購買行動」といった経験に基づいたデータを収集します。定量的で信頼性の高い調査が可能となることが利点です。
ただし、調査の前提として、まだ触れたことのない新製品や未知のものに対する質問は意味をなさないと認識する必要があります。ナローバンドユーザに対して、ブロードバンド環境ではどのようなコンテンツを利用するかを聞くといった調査は、無駄に終わる調査の典型例です。
プロトタイピング
今までに存在しないサービスや新製品の行動データを収集するために、実際に顧客に試作品を使用してもらう調査手法です。ビービットでは主にウェブサイトの調査を行いますので、試作品として紙の設計書を用います。(詳しくは、ウェブ制作の効率化【前編】を参照ください。)
ここでも意見を求めるのではなく、使用時の反応など、できるだけ事実に基づくデータの収集に注力しなければなりません。
真の顧客中心主義
真に顧客を大切にし、より良い価値を提供しようとするための取り組みは、短絡的に顧客の意見に迎合することではありません。
日々の経験からお客様が何に関心を持っているのか仮説を立て、実際の行動に基づくデータによって検証するといった繰り返しの作業が基本となります。その積み上げ作業に手間を惜しまないことが、商品やサービスの品質を高める近道となり、その結果としてお客様の満足が得られるのです。
「顧客中心主義」は耳心地の良い言葉ですが、実際には泥道を這いずり回るような地道な作業が求められます。結局は、良いものを作り出したい、お客様の笑顔を勝ち取りたい、といった強い意志があって初めて実現できるのです。
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執筆者:遠藤 直紀
株式会社ビービット 代表取締役