森 祐二
1990年代、電話回線やISDNを使ったダイヤルアップ接続(低速・時間課金)でインターネットに接続することが一般的だった頃は、Webサイトの利用は「時間との勝負」という側面がありました。そのためWebサイトを制作する際も、htmlファイルや画像などを含めたページ当たりのサイズを小さくしてページの表示速度を高め、ユーザを待たせないことが重要視されていました。
その後、ブロードバンドでの高速・常時接続環境が一般的となり、表示速度はあまり意識されなくなったように見えますが、現在でも表示速度はユーザビリティ上重要な要素のひとつです。
■人間の思考とシステムの反応速度
人間の操作に対するシステムの反応速度については、一般的に次のような関係が見られると言われています。(参考:「Response Times: The Three Important Limits」 Useit.com(英語)、「10の累乗: ユーザーエクスペリエンスにおける時間スケール」 Jakob NielsenのAlertbox(日本語))
- 0.1秒:ユーザは、自分がシステムを「直接」操作していると感じる。
- 1秒:ユーザの思考を止めない限界。反応に時間がかかっていることに気づき、システムの存在を意識する。
- 10秒:ユーザが操作に集中できる限界。待っている間に何らかの形で処理の途中であることを伝えないと、容易に他のことに興味が移る(離脱する)。
つまり、Webサイトの反応速度(ページの表示速度)は、理想は0.1秒、可能な限り1秒以内に収めるべきで、それ以上ユーザを待たせると離脱が増えるばかり、ということが言えるでしょう。
■モバイル環境の変化とWebページのリッチ化
ブロードバンド接続が普及した現在でも、表示(反応)の速い「軽いページ」を意識すべき理由として、次のような状況が挙げられます。- モバイルアクセスの普及
- Webページのリッチ化(Flash、ファイルサイズの大きな画像の多用、ページあたりの情報量の増大など)
1.モバイルアクセスの普及
携帯電話でのインターネット利用の浸透、iPhoneを始めとするスマートフォンの利用拡大、ネットブックのヒットなどにより、モバイル環境からのWebサイト利用が増えています。ちなみに法人向けのサービスが中心の弊社サイト(bebit.co.jp)でさえ、すでにiPhoneからの利用が2%を超えています。
これらモバイル環境からのアクセスは、端末の処理能力が比較的低く、また通信速度が安定せず、場合によっては非常に低速になる事を考えると、極力サイズの小さいページにすることが求められます。
2.Webページのリッチ化
先ほどご紹介したように、ユーザが思考の流れを止めずにWebページを操作できる時間には限界があります。ファイルサイズの大きな画像やサーバ側での複雑な処理によるほんの数秒の遅れでも、回数が多くなればユーザのストレスは高まり、意欲を低下させることになります。
弊社のユーザ行動観察調査でも、例えば検索エンジンからトップページに流入したものの、ページの読み込みを待ちきれず数秒で検索結果ページに戻り、他のサイトを探し始めるというような行動が観察されます。
せっかくSEO(検索エンジン最適化)を行って上位表示を実現しても、処理や表示に時間がかかるために他社サイトに行かれては意味がありません。
■簡単に反応時間を測定する方法
Webサイトの反応速度を左右するものとしては、コンテンツの容量以外にも
- サーバ側の処理速度
- ネットワークの速度
- クライアント側(PCやブラウザなど)の処理速度
- サイトの混雑度合い
など多くの要素が関係してきます。現状を簡易的に調べられるサービスとしては、「WebWait」、「WebSlug」などがあります(いずれも英語)。ネットワーク環境が異なるため、日本国内からのアクセスと比較して反応速度が遅くなることが予想されますが、ひとつの目安にはなります。また、競合他社と比較することで、自社の水準を知ることもできます。
■さらにもう一歩の改善
「反応速度」をユーザ中心の視点で見ると、単純な「ページの内容が読み込まれるスピード」ではなく、「ユーザがページの内容を把握できるまでのスピード」ということもできます。この場合、- Flashでローテーションを行う場合、重要な要素は先に表示する
- 読み込みに時間のかかるFlashでは、必ず進行状況を表示する。また、その読み込み画面の見せ方を工夫することで(コンテンツのちら見せ・キャラクターの使用など)ユーザを飽きさせない。
- ユーザが直前に見ていたページや、リンクの文言と関連のある内容をファーストビュー(標準的な画面サイズでスクロールせずに見られる範囲)で見せる
などの工夫をすることで、実際には完全に読み込まれていない状態でも、ユーザは思考を止めず、興味を維持することが可能です。
Webサイトがユーザを「お待たせ」していないか、もう一度、見直してみてはいかがでしょうか?