左海 篤郎
インターネットの普及が進みユーザのウェブサイト利用経験が増えるにつれ、ユーザにある種の慣れや先入観が発生していることがあります。ウェブサイトやページを設計していく上では、この慣れや先入観を加味して構成を検討することが重要です。
今回はこのようなユーザの慣れ・先入観について、弊社である企業サイトのユーザビリティテスト(ユーザ行動観察調査)を行った際の事例をご紹介します。
企業A社では、自社独自の取り組みや社会貢献活動などの情報を、これまで以上にユーザにアピールしていきたいと考えていました。そこで、企業情報のコンテンツを充実させた上で、よりユーザに対して目立つように、これまで画面下部のフッターに設置していたリンクを取りやめ、トップページのメインコンテンツエリアにリンクを設置しました。
しかし、調査においてユーザに企業情報コンテンツを探してもらったところ、ほとんどのユーザはメインコンテンツエリアに置いたリンクを見つけることができませんでした。
これらのユーザの行動をアイトラッキングで確認したところ、トップページを訪れたユーザは、メインコンテンツにほとんど視線を移すことなく画面下部のフッターを注視し、企業情報へのリンクを探そうとしていましたが見つからず、ついで画面上部に戻り、ヘッダーを探したもののやはり発見できずに諦めてしまうという動きが見られました。
ユーザにそのような行動をとった理由を尋ねたところ「だいたいどこのサイトでも、企業情報は画面の下の方にありますよね」と回答しました。
実際に、会社情報や採用情報、サイトマップなどのリンクはヘッダーあるいはフッターの位置に設置されていることが一般的です。そのため、ユーザは過去の他サイトでの経験から「このA社のサイトでも、企業情報はきっと画面の一番上か下にあるはずだ」という先入観を持っており、ユーザはそれ以外のエリアに企業情報へのリンクが設置されているとは思わず、ヘッダーやフッターのエリアを探し続けたのだと思われます。
ユーザに対してよりアピールしたいという観点からすると、必ずしもメインコンテンツに企業情報へのリンクを設置することがいけないというわけではありませんが、今回のケースでいえば、少なくともフッター部分のリンクを残しておくことが必要であったと考えられます。
ウェブサイトやページの設計に当たっては、各企業の事情や意図に合わせることも大切ですが、一方でこのような「事実上の標準」を踏まえる必要もあることに気をつけましょう。